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来季からシード選手は125名から70名へ。PGAツアー会長が思い描く「対リブ・ゴルフ」の結末とは?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 6月22日、午後1時(米国時間)。今週のPGAツアーの大会、トラベラーズ選手権の会場でジェイ・モナハン会長の会見が開始された。

 そのわずか6分後。グレッグ・ノーマン率いる新ツアー「リブ・ゴルフ」は、モナハン会長の会見とぴったりタイミングを合わせたかのように、「メジャー4勝&元世界ナンバー1、ブルックス・ケプカが正式にリブ・ゴルフに加わった」と誇らしげに記したニュースリリースを世界に向けて配信した。

 次々にリブ・ゴルフから挑戦状を叩きつけられ、次々にPGAツアーのトッププレーヤーがリブ・ゴルフへ移り、ほんの数週間前まで忠誠を誓っていたはずのケプカまでもがPGAツアーから去っていった。

 だが、壇上に座ったモナハン会長は「前例のない状況にある。だが、私はナイーブではない」と胸を張った。しかし、大勢の米メディアは厳しいトーンで質問を浴びせた。

 リブ・ゴルフ初戦に出場した17名に対し、PGAツアーはサスペンデッド(資格停止)の処分を科したが、USGAは彼らを全米オープンに受け入れ、R&Aも彼らを7月の全英オープンに受け入れることを発表した。

 「ケプカや他のゴルフ団体(=USGAやR&Aの意)に裏切られたとは思わないのですか?」と問われると、モナハン会長は「それぞれの判断を尊重するのみです」。

 しかし、モナハン会長は、静かな口調とは対照的に、リブ・ゴルフへの激しい対抗意識をそのまま反映させたと思えるような仰天の変更を発表した。

【シード選手は125名から70名へ】

 大きな変更が起こるのは来季からだ。2022-2023年シーズンからは、フェデックスカップのレギュラーシーズン終了後のプレーオフ3試合に進出できる人数が大幅に変更される。

 プレーオフ初戦のフェデックス・セントジュード選手権に出場できる人数は、従来のフェデックスカップ・ランキング上位125名から70名に減らされ、第2戦のBMW選手権も従来の70名から50名へ変更される。最終戦のツアー選手権は30名のままで変更はない。

 そして、プレーオフ初戦に出場するフェデックスカップ・ランキング上位70名だけに翌シーズンの出場権が付与される。言い換えると、いわゆる“フルシード選手”が、従来の125名から70名に減ることになる。

【トップ50限定、予選落ちなしの新大会。2000万ドル級の8試合】

 もう1つのビッグ・チェンジは、2023年のプレーオフ3試合終了後、アジア、欧州、中東において「予選落ちのない超高額賞金(各2000万ドル予定)の秋のインターナショナル大会」が新設されることだ。フェデックスカップ・ランキング上位50名だけが出場できる少数限定のエリート・フィールドとなる予定だが、フォーマットなどの詳細は後日発表される。

 さらなる変更として、2023年からは、以下の8試合の賞金総額がそれぞれ2000万ドル級あるいはそれ以上に大幅アップされる。

 セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズは賞金総額が1500万ドルへアップされ、ジェネシス招待、アーノルド・パーマー招待、WGCデル・マッチプレー選手権、メモリアル・トーナメント、そしてプレーオフ・シリーズのフェデックス・セントジュード選手権とBMW選手権は、いずれも2000万ドルへ、フラッグシップ大会のプレーヤーズ選手権は2500万ドルへ引き上げられる。

 そして、2024年からは、1月から12月までのカレンダー通りの1年を「1シーズン」とする旧来の括り方に戻すことも発表された。

【ストーリーの結末は?】

 こうしたチェンジの数々は、どれもトッププレーヤーにより一層多くの「旨味」を授けるための変更と言うことができ、リブ・ゴルフへの流出を防ぐための引き留め策と見ることができる。

 それにしても、サウジアラビアの潤沢なオイルマネーが原資であるリブ・ゴルフと同等の賞金総額2000万ドル級の大会をPGAツアーがこんなにも増やせるだけの莫大な資金は「一体どこにあったのか?どこから来たのか?」と問いただすような質問が会見では続出していた。

 「そんな大金がそもそもPGAツアーにあったのなら、なぜ、それをこれまで選手たちに還元しなかったのか?」という質問も飛び出した。もっと早く還元していれば、トッププレーヤーたちの流出を未然に防ぐことができたのではないかと言わんばかりの質問だった。

 モナハン会長は「ツアー運営はビジネスであり、たくさんのスポンサー企業の多大なる協力や貢献のおかげで生み出すことができたお金だ」と説明。それを選手たちに分配できる段階に来たがゆえに、賞金の大幅アップなどを決めたのだと強調した。

 米メディアの質問は、まだまだ続いた。

 「新たな勢力(リブ・ゴルフ)と手を取り合うつもりは?」と問われると、モナハン会長は「私はPGAツアーにのみフォーカスする」と答えた。

 「このストーリーは、どんな結末になると考えているのですか?」と問われると、モナハン会長は「結末は、このPGAツアーが世界で最も素晴らしいツアーであり続けるということです」。

 「PGAツアーVSリブ・ゴルフ」。このストーリーの結末は、果たして、モナハン会長が思い描いている通りになるのだろうか――。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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