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米ゴルフ中継を盛り上げるアイテムとは?「アフター・コロナの時代」が、いよいよ幕開け

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
昔は気難しくて怖いほどだったファルドもウッズも、今はすっかりマイクが似合う!?(写真:ロイター/アフロ)

 3月半ばから休止されていた米ツアーは、今週11日から再開されようとしている。

 テキサス州フォートワースのコロニアルCCで無観客試合の形式で開催されるチャールズ・シュワッブ・チャレンジは、新型コロナウイルス感染防止のための対策をはじめ、久しぶりに試合に復帰する選手たちの表情やプレーがどのようなものになるのか等々、いろんな意味で注目を集めている。

 そんな中、にわかに取り沙汰され始めているのは「選手にマイクを付ける」という試みだ。

【ゴルフでも、他スポーツでも】

 選手にマイクを付けるとゴルフの中継が格段に面白いものになるということを、大勢の人々が認識、あるいは再認識させられたのは、5月24日に開催されたチャリティ・マッチのときだった。

 タイガー・ウッズとフィル・ミケルソンが、それぞれNFL界のスターであるペイトン・マニング、トム・ブレイディとペアを組んで対戦した「ザ・マッチ・チャンピオン・フォー・チャリティ」は、4人全員にピンマイクを付け、1人乗りカートを運転する際もショットの際も、彼らの肉声がマイクを通して視聴者に届けられた。

 ケーブルTV史上最高となる580万人が視聴したこのチャリティ・マッチの成功は、このマイクの効用に支えられたと言われている。

 そして、同マッチをTV中継した米CBS局は、米ツアーの中継の際にも「マイクを付けよう」と提案。米ツアー側も提案を受け入れ、今週の再開初戦から試験的にマイクを付ける試みが採用されることになった。

 CBS局はゴルフ中継のみならず、今後、NASCARなど他のスポーツ・フィールドの中継においてもマイク装着を行なうつもりだという。

「アスリートたちは、自宅でテレビ観戦する人々を楽しませるためにどうあるべきかという自分たちの役割を認識し始めている」

 そう語ったCBSスポーツのショーン・マクマナス会長は、選手たちがマイクを付けることを受け入れるはずだと確信している。

【エンタテイナーに変わるべきとき】

 「ザ・マッチ」の際は、TV中継を指揮するディレクターの声が選手の耳に入り、選手の声がマイクを通して伝えられるという「2方向」のシステムだったが、米ツアーではディレクターの声が選手の耳に入ることはなく、選手の声だけが視聴者に届けられる「1方向」になる。

 今週のチャールズ・シュワッブ・チャレンジで、何人の選手にマイクを付けるか、誰に付けるかは現状では未定だ。マイクで声が拾われることを嫌がる選手は、もちろんいるだろう。

「だが、今週マイクを付けてプレーする選手が、嫌がる選手たちを説得してくれるはずだ」

 CBS側は、どこまでも強い自信を示している。

 元世界一のメジャー・チャンピオンで現在はTV解説者として君臨しているゴルフ・アナリストのニック・ファルドは、現役時代は寡黙で秘密主義的で気難しい選手と見られていた。もしも当時、ファルドがマイク装着を求められたら、おそらくは「キャディとのやり取りが明かされたら選手の手の内が丸見えになってしまう」と激怒し、拒否していただろう。

 

 だが、そのファルドが、今は笑顔でこう言っている。

「選手へのマイク装着は素晴らしいことだ。今は2020年。これからの時代のゴルフは、プレーヤーがエンタテイナーにならなければならない。変わらなければならない」

 ファルドが言う「これからの時代のゴルフ」とは、「アフター・コロナの時代の新しいゴルフ」という意味である。

 選手へのマイク装着のみならず、再開後の米ツアーでは、試合の途中でTVレポーターが選手を呼び止めてマイクを向けるインタビューも行なう予定だという。

 選手の中にも、ゴルフファンの中にも、そういう試みが「ゴルフの優勝争いの独特の緊張感を台無しにする」と感じる人はいると思う。正直なところ、この私も、今はそう感じている。

 しかし、日本でも世界でも、マスクを装着することを嫌がっていた人々が、今ではマスクをするようになったように、事情が変われば、何かが変わり、何かを変えていかなければならないことは確かだ。

 最初は違和感を感じたことも、いずれは受け入れられるようになる。「習うより慣れよ」。「住めば都」。先人たちの言葉が次々に頭に浮かんでくる。

 今こそ、「転んでもタダでは起きない」精神の発揮どころだ。コロナ禍のチャリティ・マッチで認識された「マイクの効用」を活用し、リモート観戦を盛り上げるべきときではないだろうか。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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