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プロゴルフ界も「産休」「育休」の時代!?マタニティ、パタニティで出場資格を1年先延ばし!

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
新規定の制定にも意見を問われ、関わったステイシー・ルイスの表情は晴れ晴れしている(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 働く女性の「産休」や「育休」、さらには男性の「育休」の制度が日本でも整えられつつあり、小泉進次郎環境相の育休取得が注目されている。

 そんな中、米ゴルフ界をつかさどるUSGA(全米ゴルフ協会)が、ユニークな新規定を発表し、話題になっている。

 USGAが主催するチャンピオンシップは全米オープン、全米女子オープン、全米アマ、全米女子アマ等々、年間14大会あるのだが、それらの大会の出場資格を得た選手が、産休や育休を取るために大会に出場できない事態が生じた場合、「その出場資格を基本的には1年、特別申請が認められれば最大で2年間、持ち越すことができる」という新しい規定が定められた。さらに、産休、育休を取る間は、取る時点での世界ランキングがフリーズされる(維持される)ことも定められた。

 ここで言う「出場資格」は、世界ランキングやツアー競技での優勝などによって得られたものも、予選会などを勝ち抜いて選手が自力で手に入れたものも、どちらも対象になる。

 そして、「産休や育休」は、女性のマタニティのみならず男性のパタニティも対象になるというところが斬新だ。

 たとえば、全米オープン出場資格を得ている男子選手の妻の出産が大会ウィークと重なるという場合、妻の出産に立ち会うために試合出場をあらかじめ辞退する選手は、新規定が適用されるこれからは「パタニティの行使」と見なされ、翌年の全米オープン出場が約束されることになる。

【家庭か、ゴルフか?】

 全米オープンに限らず、これまで妻の出産でメジャー大会出場を見送った男子選手、自分自身の出産でメジャー大会出場を諦めた女子選手は、すべてが公けにされてはいないものの、多々いたのだと思われる。

 1991年の全米プロ開幕直前、ニック・プライスは愛妻の初産に立ち会うために急きょ欠場を表明。その代わりに補欠の9番目だったジョン・デーリーが出場できることになり、ぼろぼろの愛車を運転して駆けつけたデーリーが初出場にして初優勝を挙げ、世紀のシンデレラボーイとしてスポットライトを浴びた。

 フィル・ミケルソンは1999年の全米オープンの際、初産を控えていた愛妻エイミーとのホットラインとしてポケベルをバッグに入れて試合に臨み、「もしもエイミーの身に何か起こったら、たとえ優勝目前でも、僕はすぐさまクラブを置いて、彼女のもとに駆け付ける」と語った。ミケルソンの発言は、アスリートとしての是非を問われた一方で、ファミリー第一主義の素晴らしい姿勢として賞賛も浴びた。

 女子プロゴルフの世界では、結婚や出産を考慮すれば、辿り着くのは「現役引退」という答えになりがちだった。アニカ・ソレンスタムから女王の座を引き継いだロレーナ・オチョアが、2010年、まだ28歳の若さで突然の引退を宣言した際、「母国メキシコに帰り、結婚して子育てをしたい」と語ったことが昨日のことのように思い出される。

 これまでツアープレーヤーたちは男女を問わず、出産や子育てと自身の生業であるゴルフとの狭間で揺れ動き、決断を迫られてきた。家庭か、ゴルフか。二者択一を迫られる中で、いろんなドラマが織りなされてきた。そのドラマは必ずしも悲劇ではなかったが、ひっそりと涙を飲んだ悲話は多かったはずだ。

【家庭も、ゴルフも!】

 そんな過去の歩みを目にしてきたUSGAは、昨年の全米女子オープン開幕前、出産と育児に明け暮れて大会出場資格を満たせなくなっていたステイシー・ルイス、そしてブリタニー・リンシコムに「マタニティ特例」として出場資格を与え、選手たちからも周囲の関係者からも「すばらしい」と絶賛された。

 そして今年、米LPGAもマタニティ休暇を取る選手たちのステイタス(位置づけ)を復帰できる時期まで維持する施策を検討しており、選手たちからも喜ばれている。

 今回、USGAが発表した新規定は、こうした流れの延長線上にある。そして、「産休」「育休」といったマタニティをプロゴルフ界に採り入れ、さらにその適用を男子選手のパタニティにも拡大した革新的で時代の流れに即したものと言えそうだ。

 USGAのシニア・マネージング・ディレクター、ジョン・ボーデンヘイマー氏は「私たちが発表した今回のファミリー・ポリシーは、家族に新しい一員を迎える選手たちをサポートし、ともに未来へ前進するためのものです。選手たちが子どもを持つ親でありながら同時にハイレベルなプレーヤーでいられるよう、そのバランスを均衡させることができれば、それこそが私たちの喜びです」と語っている。

 なるほど、この新規定はプロゴルファーの資格のみならず、選手たちの心身と家庭生活、人生を保護するためのものでもある。新規定の検討段階でUSGAから意見を求められたルイスは「素晴らしい規定づくりに関われてうれしい」。リンシコムも「出産、とりわけ初産には、かなりのプレッシャーが伴い、万が一という考えも頭をよぎります。ツアー選手としてカムバックできるかどうかという不安も抱きます。そんな選手にとって、この新規定はスーパー・ナイス!」と絶賛している。

 ゴルフはメンタルなスポーツであり、ヘルシーな心身だからこそ、素晴らしいゴルフが披露されるものであることを考えれば、この新規定はゴルファーとゴルフファン、すべてのためのものと言えるのではないだろうか。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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