米ツアーのトッププレーヤーたちが「米ツアー最大のお祭り」より「アラブの国の大会」を選んだ胸の内

フェニックス・オープンの「顔」だったミケルソンの姿が来年は見られなくなる(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 米ツアーのウエイスト・マネジメント・フェニックス・オープンと言えば、世界最大の観客動員数を誇る賑やかな大会である。日本のゴルフファンは「松山英樹が2016年と2017年に連覇を達成したトーナメント」と記憶していることだろう。

 毎年、1日の入場者数は20万人を超え、1週間では60万人を上回る。TPCスコッツデール(アリゾナ州)に詰め寄せたギャラリーはトッププレーヤーたちの熱い戦いに狂喜し、世界中のゴルフファンがテレビ中継に釘付けになる。それは、米ゴルフ界、いや世界のゴルフ界の春の風物詩と言っても過言ではない。

 だが、1月末に開幕する2020年大会は、これまで大会の「顔」を務めてきたフィル・ミケルソンを筆頭にトッププレーヤーたちが続々欠場する見込みになりつつあり、大会の集客や盛り上がりが心配され始めている。

【アラブの国の若い大会へ】

 来年のフェニックス・オープンに「出ない」と決めたトッププレーヤーたちは、その代わり、同週に開催される欧州ツアーのサウジ・インターナショナルに出場する意志を表明している。

 サウジ・インターナショナルは2019年から創設された欧州ツアーの新規大会。今年1月に開催された第1回大会は、サウジアラビアのジャマル・カショギ記者殺害事件の直後だったため、出場を取りやめた選手が多かった。それでも出場した選手たちや優勝したダスティン・ジョンソンが批判される事態も発生し、大いに物議を醸した。

 

 さらには、マスターズ覇者のセルジオ・ガルシアが自身のミスに腹を立て、バンカー内でクラブを激しく叩きつけたり、グリーンを傷つけたりの悪態をつき、失格処分を科せられるという前代未聞の「事件」も起きた。

 そんなふうに「いろいろあった」サウジ・インターナショナルは、その先行きが案じられていたのだが、来年の第2回大会にはミケルソンが初出場する意志を表明。一転して、華やかな大会になりそうである。

 ディフェンディング・チャンピオンのジョンソンはもちろんのこと、世界ナンバー1のブルックス・ケプカや今年の全英オープン覇者であるシェーン・ローリー、マスターズ覇者のパトリック・リード、スウエーデンのヘンリック・ステンソン、ランキング急上昇中のトニー・フィナウ、そして前回大会で失格になったガルシアも出場予定となっている。

【高額なアピアランスフィー】

 なぜ、彼らは米ツアーで一番盛り上がるフェニックス・オープンではなく、アラブの国に創設されたばかりの欧州ツアーの大会を選んだのか?

 まず考えられるのは、巨額のアピアランスフィーの魅力である。大会側がスター選手の参加を促し、招き入れるために支払うアピアランスフィーは、米ツアーでは禁じられているが、欧州ツアーではいまなお支払われ続けている。

 今年の第1回サウジ・インターナショナルに出場したジョンソンら米ツアー選手たちには、金額は明かされていないが、莫大なアピアランスフィーが支払われていたと推定される。

 ガルシアに至っては、失格になったにも関わらず、64万ドル(約6981万円)のアピアランスフィーを受け取ったと、米メディアは報じている。

 そして、ガルシアは自身の悪態を猛省し、来年はアピアランスフィーをもらわずに「無料で自主出場」する意志を示しているのだが、ミケルソンを筆頭とする他の米ツアー選手たちがサウジ・インターナショナル出場を決めた背景に高額なアピアランスフィーの存在があることは、まず間違いない。

【新たな場所、新たな成長】

 とはいえ、彼らが出場を決意した理由は、アピアランスフィーの魅力だけではないと思いたい。

 ミケルソンはフェニックス・オープンの開催コース、TPCスコッツデールの近郊にあるアリゾナ州立大学の出身で、プロ転向後も数年間をスコッツデールで暮らしたため、彼はスコッツデールを「第2の故郷」、フェニックス・オープンを「故郷の大会」と呼んで盛り上げてきた。

 同大会には、ほぼ毎年、通算30回も出場し、1996年、2005年、2013年と3度も勝利を挙げた。詰め寄せた人々と直に向き合い、30分でも1時間でもサインや握手を交わし、ファンサービスのお手本を率先して努めてきた。

 今度は、それを別の場所でやってみたいとミケルソンは言う。

「今年、ダスティンの優勝をテレビで眺め、サウジ・インターナショナルのコースは素晴らしいと思った。僕自身、新しい国、新しい場所へ赴き、ゴルフの新たな成長に貢献したい」

 49歳のミケルソンはメジャー5勝を含む米ツアー44勝、欧州ツアー10勝の強者だが、アラブの国の大会に出場した経験はない。フィナウなど若い選手たち、然り。

 米ツアーのみならず、他のツアーの大会を盛り上げ、世界中の人々がゴルフに触れ、ゴルフの魅力を知り、楽しんでくれる機会を作るために自分も一肌脱ごうではないか――。

 そんなピュアな気持ちが彼らの胸の中にあるのなら、米ツアー最大のお祭りであるフェニックス・オープンを欠場し、欧州ツアーのサウジ・インターナショナルを選んだ選手たちを、賞賛することはあっても批判する理由はない。

 ミケルソンらがこれからアラブ諸国のゴルフを盛り上げてくれることを、大いに期待しようではありませんか。

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、89年に独立。93年渡米。以後、米ツアー選手たちと直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を独特の表現で発信し続けている。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。26年間の米国生活に区切りを付け、2019年から日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、さらには武蔵丘短期大学客員教授を務めるなど活動範囲を広げている。

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