全英女子オープンを制覇した渋野日向子が達成した何よりの快挙とは何だったのか?
全英女子オープンを制覇した渋野日向子は、日本人としては1977年以来、42年ぶり、史上2人目の快挙を成し遂げ、瞬く間に日本中を沸かせるヒロインになった。
そして、笑顔が愛らしい彼女の勝利は、日本のみならず現地・英国の人々や世界のゴルフファンをも沸かせ、欧米メディアも続々と彼女の人柄や勝ちっぷりを紹介している。
「子供のころは、Ariel(エリアル=ディズニー映画『リトル・マーメイド』の架空のタイトルキャラクター)か、Kamen Rider(仮面ライダー)になりたかったそうだ」
そんな紹介もあれば、プレー中もチーズ鱈を食べていた渋野のお菓子好き、駄菓子好きが、米メディアの記事の中では「スイーツ好き」に転じていた。
記事により、国により、紹介しているポイントは、それぞれ異なっているのだが、どの記事も間違いなく渋野のスマイルに触れている。屈託のない笑顔を存分に振り撒く「スマイリング・シンデレラ」は、日頃から感情を豊かに表現する欧米人にも受け入れられやすいのだろうと思う。
「初メジャーに挑み、初優勝」という大胆な勝ちっぷりも欧米メディアを驚かせた様子だが、長年、世界のゴルフの本場を取材し続け、数多くのメジャーチャンピオンの誕生を眺め続けてきた欧米のゴルフ記者たちがとりわけ高く評価している渋野の良さは、笑顔以外にもいくつかある。
【Shibuno plays fast.(プレーが早い)】
まず、そのうちの1つは「プレーが早い」という点だ。
「Shibuno plays fast.(渋野はプレーが早い)」
世界のゴルフ界では、プロ・アマを問わず、男女を問わず、スロープレーが長年の懸案になっている。プロのルーティーンを真似して、ジュニアもアマチュアもプレーペースは年々スローになるばかり。手本となるべきプロたちは、難解なコース設定やグリーンに手こずり、さらにプレーがスローになっている今日このごろである。そうした現状に業を煮やし、ここ数年はマスターズや全英オープンでスロープレーのペナルティが科されたこともあった。
女子ツアーにおけるスロープレーは、さらに深刻。ショットの前、パットの前に選手とキャディが延々話しながら狙いどころやクラブ選択を話し合い、1ラウンドの所要時間が6時間近くに及ぶことさえあった。
とりわけ「強い」「うまい」と目されているランク上位の選手ほどプレーが遅いという傾向も見られ、それは世界のゴルフ界においては、まさに危機的状況だった。
そんな中、すい星のごとく現れ、ニコニコしながら勝利した渋野は、気持ちがいいほどプレーが早いため、スマイルとクイック・テンポの両方で爽快感は格段にアップしたと言える。そして、プレーが早く、にこやかで、そして勝利を挙げた渋野に、スロープレーに病む世界のゴルフ界の救世主になってほしいと期待する声も聞こえてくる。
【たどたどしい英語でトライ!】
さらに、もう1つ、欧米メディアが渋野を高く評価しているのは、彼女が優勝スピーチに英語で挑んだことだ。
それは、スピーチと言うより、書かれたものを読んでいただけで、読み方もたどたどしいものだった。たどたどしいのにトライしていることが伝わってきたからこそ、そのひたむきさに人々は心を打たれた。
「だから、ギャラリーは彼女のスピーチを、そのまま飲み込んでいた」
米ゴルフ雑誌の記事には、そう記されていた。
「彼女が言葉に躓く(つまづく)たびに、それが人々を笑いで包んでくれた」
大会を支えてくれた団体名などを一通り言い終え、ひと呼吸置き、あらためて満面の笑顔で「サンキュー!」と言った渋野。その笑顔と「サンキュー!」の一言に、割れるような拍手と歓声が沸き起こったこと。それは、英国のギャラリーが日本人チャンピオンの渋野を心から賞賛し、祝福していることを示していた。
スマイルとクイック・テンポと英語にも臆せず挑むチャレンジ精神。
それらがすべて、あまりにも爽やかで、ピュアで、愛らしかったからこそ、渋野日向子はみんなから祝福されるメジャーチャンプになった。
それが、彼女が達成した何よりの快挙である。