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T・ウッズとP・ミケルソン、対照的な2人のマスターズへの挑み方

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
昨年のオーガスタでは一緒に練習した2人だが、姿勢や考え方はとかく対照的だ(写真:ロイター/アフロ)

 世界選手権シリーズのデル・マッチプレー選手権が終了し、今週のテキサス・オープンが終わると、いよいよ「ゴルフの祭典」、マスターズが開幕する。

 ラスベガスのブックメーカーが示す今年のマスターズの優勝候補は、4月1日現在では、ローリー・マキロイが筆頭で、オッズは8倍。

2位は10倍のダスティン・ジョンソン。3位には12倍のタイガー・ウッズ。その後ろにはメジャー3勝のブルックス・ケプカやリオ五輪ゴールドメダリストのジャスティン・ローズなどが続いている。

 そして、フィル・ミケルソンが48歳という年齢ながら、オッズ30倍で13位タイに付けているところが、なんとも興味深い。

【笑顔でオーガスタに向かったミケルソン】

 そのミケルソンはマスターズで過去3勝を挙げているだけあって、大のマスターズ好き、大のオーガスタ好きで知られている。

 優勝した翌年にマスターズに臨んだ際は、オーガスタへ向かうプライベートジェットに乗っているときから優勝者だけが羽織ることができるグリーンジャケットを着こんでいたほどで、クラブハウスへと続くマグノリアレーンを車で通り抜ける際は、言うまでもなくグリーンジャケット姿で座席にきちんと座っていた。

 「初優勝した直後のフィルは、寝るときでさえ、パジャマ代わりにグリーンジャケットを着ていた」なんて話まで出回り、他選手や米メディアが「なるほど。フィルなら、やりかねないね」と、こぞって頷くほどだった。

 マスターズこそが「僕が一番好きな大会」だと日頃から公言しているミケルソンは、先週のマッチプレー選手権で「予選」に当たる4人1組の総当たり戦で敗退が決まったときでさえ、マスターズへの熱い想いを語り、「マッチは楽しかった。敗退になったけど、他選手より早くオーガスタに行って1~2日、多く練習できるからいい。マスターズまで、あと10日ぐらいしかないからね」と笑顔を輝かせ、テキサス州からジョージア州オーガスタへと向かっていった。

 例年は、メジャー大会の前週の試合にウォーミングアップ的に出場して調子を整えるのがミケルソンの流儀だった。だが、米ツアー全体の日程が変更され、過密になっている今年は、ミケルソンはマスターズ前週をオフに変えている。

 マッチプレー敗退後、オーガスタで3~4日、練習したあとは、カリフォルニア州の自宅に戻ってコーチやトレーナーらと特訓を積み、あらためてオーガスタに乗り込む予定だ。

 自宅にはオーガスタを想定した練習ができるよう、ベント芝のグリーンを作り、スティンプメーター15という超高速に仕上げてあるという。

「今年は、とても調子がいい。ここ数年、振るわなかったパットも今は良くなりつつあるし、スイングスピードが従来よりアップしているのは何よりうれしい。望むらくは、僕のショットが、オーガスタで、遠くへ、まっすぐ飛んでほしい」

 そう言って意気込むミケルソンの笑顔は輝きを増すばかりだ。

【渋い顔でテキサスを去ったウッズ】

 一方、マスターズ優勝予想で3位に位置付けられているウッズは、優勝予想筆頭のマキロイをマッチプレーで倒し、ベスト8へ進出した。だが、次なるマッチで27歳の無名のデンマーク人、ルーカス・ビルレガードに敗れ、ベスト4進出を逃して、がっくりと肩を落とした。

 敗退が決まってから30分以上、取材対応ができないほど、落胆し、ショックを受けていた。ようやく米メディアに向き合い、ミケルソンのように「このままオーガスタへ行ってマスターズ向けの練習をするのか?」と問われたウッズは、即座に首を横に振った。

「ノー!僕はここで明日も戦いたかったんだ。このショックはあと2、3日、残ってしまいそうだ。練習は、そのあとだ」

 ミケルソンとは異なり、ウッズは昔からメジャー大会の前週は試合には出ないと決めている。

 そして今年はイレギュラーでオフを取ったミケルソンが、マッチプレー敗退直後にオーガスタへ向かったのとは対照的に、ウッズはマッチプレー敗退の悔しさを噛み締めながらテキサスを去り、フロリダ州ジュピターの自宅へ戻っていった。

 ショックから抜け出したあかつきには、ウッズも今週中にオーガスタへ出向いて練習するつもりだという。その後、再びフロリダの自宅に戻り、マスターズ・ウィークの月曜日に、あらためてオーガスタ入りする予定だ。

【対照的な2人】

 ミケルソンはマッチプレーで負けても「早くオーガスタ入りして練習できるからいい」と自ら意気揚々。一方、ウッズのほうはマッチプレー敗北の悔しさがなかなか癒えず、渋い顔。

 そんなウッズを目の当たりにした長年の番記者たちは「いやいや、むしろウッズは準々決勝で負けて良かったのではないか。決勝まで勝ち残って日曜日も36ホールをプレーしたら、すっかり疲弊することになっていただろう。腰の手術を受けた43歳のウッズは、まず心身を休めることが先決。まだマスターズまで10日ほどあるのだから」と書いていたところが、何とも面白かった。

 ウッズとミケルソン。とかく対照的な2人は、マッチプレー敗退の受け止め方も、オーガスタへ向かうルートもタイミングも異なるが、グリーンジャケットを切望しているところは共通項だ。

 昨年のマスターズでは開幕前の練習ラウンドをともに回り、友情を確かめ合った2人である。今年のオーガスタでは、どんな姿とどんなプレーを見せてくれるのか。40歳代の優勝者になることはできるだろうか。

 マスターズ・ウィークが待ち遠しくてたまらない。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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