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米女子ゴルフ失格事件、OBのボールを動かしたのは選手の母?嘆かわしい出来事に思うゴルファーの在り方

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
ルール委員はいてもルールを守るべきは選手自身。写真は2018年全米女子オープン(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ゴルフ界で嘆かわしい出来事が起こってしまった。米女子ツアー(LPGA)の来季の出場権獲得を目指すQシリーズ(予選会)で、OBになった選手のボールを選手の母親がイン・バウンズへ動かし、娘はイン・バウンズからそのままプレーして、挙句の果てにDQ(失格)。言うまでもなく、来季の出場を棒に振った。

【コトの経緯】

 8日間8ラウンドで競われる米女子ツアーのQシリーズはノース・カロライナ州の名門パインハーストで行なわれていた。

 “事件”が起こったのは、その7ラウンド目が行なわれた11月2日。2010年に全米女子ジュニアで優勝し、2014年には全米カレッジゴルフのNCAAチャンピオンシップ個人優勝を果たした“有名選手”のドリス・チェンが17番で打ったティショットが大きく曲がってOB区域へ飛んでいった。

 しかし、チェンと彼女のキャディがその場へやってきたとき、ボールはイン・バウンズにあり、チェンはそのままそこから第2打を打ち、何ごともなかったかのように、そのホールも18番もプレーした。

 だが、OB区域のすぐそばの家の住人が米女子ツアーに目撃証言を出した。

「ギャラリー女性がアウト・オブ・バウンズのボールを拾い上げ、イン・バウンズへ動かした」

 米女子ツアーは、すぐに調査を開始し、ボールを動かした女性はチェンの母親であることなど、コトの経緯と詳細を確認。

「チェンと彼女のキャディはボールが第三者によって動かされたことを知った上で、そのボールを改善されたライから打ち、次ホールのティショットを打つまでに誤りを訂正しなかったため、失格とする」という声明を出した。

【選手の主張】

 失格となったチェンが、その後に行なった説明は、こんな内容だった。

 ボールの近くに行ったら、ギャラリーの一人がボールはあそこだと教えてくれて、「誰かがあそこへ蹴った」とも言ったが、「アウト・オブ・バウンズからイン・バウンズへ動かした」とは言わなかったので、てっきり「グッドライ」から「バッドライ」へ動かされたのだと思い、そのまま、あくまでも「あるがままのボール」をプレーしたのだ、と。

 チェンの後悔は「今さらですけど、あのときルール委員を呼んで、その場で調べてもらうべきでした」というものだった。

 母親が動かしたという指摘に対しては「母は何も知らないし、何もやっていないと言っています。もしも母がボールを動かしたのだとすれば、それは知らずに動かしてしまったアクシデントだったはず」と必死で擁護した。

 そして「私はズルをしようとしたわけではありません」と主張した。

【キャディの主張】

 しかし、今度はチェンのキャディが選手とは異なる主張をした。

 ボールが飛んでいった付近へ行ったとき、最初にボールの場所を教えたのはギャラリーではなくチェンの母親で、OBエリアの家の住人はその場でチェンの母親がボールを動かしたことを伝えたそうだ。

 それを聞いて、キャディはチェンに「ルール委員を呼ぶべきだ。そうしないと失格になる」と進言したが、チェンは聞く耳を持たず、さらには「このことを口外しないようにと僕に言った」。

「チェンは間違ったことをした。ツアーに出るために1年間ハードワークを重ねてきたすべての選手に対してフェアであるために、僕は正しいことをしたい」

 だから、あえて真相を明かしたのだとキャディは言った。

【真相は闇の中だが、、、】

 「言った、言わない」「やった、やらない」「見た、見てない」と、それぞれの主張が食い違う。こうなってくると、もはや誰が本当のことを言っているのか、もはや真相はわからない。

 だが、普通ではない「何か」が起こったことは確かで、チェン自身が後悔していたように、その場でルール委員を呼んでいれば、少なくとも失格は免れただろうし、コトがここまで大きくなることはなかっただろうと思う。

 そして、ゴルフはプレーヤー自身が自分で自分を律する自己申告のゲームだからこそ、どんなときも「疑わしきは自分を罰する」という姿勢で選手が対処できていたならば、それが最善の道につながっていたはずだと思うと残念でならない。

 2019年1月1日からゴルフルールは大幅にシンプル化され、新しい時代に入る。これまではボールがグリーン上で動いたかどうか、何のせいで動いたのか等々、ルール上の騒動が米ツアーでもメジャー大会の舞台でも頻繁に起こったが、来年からは、そうした騒動はおそらくは見られなくなる。

 だが、ルールを変えてシンプル化することはできても、ゴルフというゲームに携わる「人」をコントロールすることは誰にもできない。

 だからこそ、プレーヤーもキャディも関係者もギャラリーも、誰もが正直で真摯であらなければならないのではないだろうか。

 たとえ300ヤードを軽々越えるビッグドライブを放とうとも、ビッグスコアをマークしようとも、数々の勝利を重ねようとも、そこにゴルフの美しいスピリッツが宿っていなかったら、そこには何の魅力も存在しないのだから――。

 

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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