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ライダーカップ敗北の米国側、祭りの後が見苦しい。追及すべきは「誰のせい?」ではなく「なぜ?」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
0勝4敗のウッズは「僕のせい」と言ったが、「誰のせい?」論争に生産性はない(写真:ロイター/アフロ)

【うんざりさせられる「誰のせい?」論争】

2年に1度開催されるゴルフの米欧対抗戦、ライダーカップは、9月28日~30日の3日間、ル・ゴルフ・ナショナル(フランス・パリ)で開催され、「17.5 対 10.5」の大差で欧州チームが勝利を飾ったのだが、敗北した米国チームと米ゴルフ界のその後が、なんとも見苦しい。

大会終了直後から、米メディアは「誰のせいで負けたのか?」と銘打った記事を次々に発した。キャプテンとしての采配を誤ったと指摘されたジム・フューリック、0勝4敗と惨憺たる成績に終わったタイガー・ウッズが「最も責められるべき人」の筆頭に挙げられた。

そんな中、5勝0敗の大活躍だった欧州チームのフランチェスコ・モリナリの名を挙げ、「あまりにもモリナリが強すぎたせい」としていた記事は、殺伐としたムードの中で人々の表情を和らげたユニークかつ的確な指摘だったが、それ以外の「誰のせい?」論争は、建設的な意見や見方が感じられず、きわめて感情的だった。

「誰のせい?」は、まだまだ続いた。過去2大会で米国チームに大量ポイントをもたらし、ゴールデンコンビと呼ばれていた「パトリック・リード&ジョーダン・スピース」のペアが今年は1度も実現されなかったのだが、 リードは「それはスピースが僕と組むのを嫌がったからだ」。

さらにリードは、スピースの要望を聞き入れた上に「ライダーカップでこれだけ活躍してきたこの僕を2度もベンチ入りさせたフューリック・キャプテンの采配ミスだ」と声を荒げた。

 すると今度は、リードとフューリック・キャプテンのやり取りを目撃したという別の誰かが「リードは本当はスピースと組みたかったわけじゃない。ウッズと組ませてほしいとフューリックに懇願していたからね」。

 そうこうしていると、今度は親友どうしと言われているブルックス・ケプカとダスティン・ジョンソン(DJ)が、大会最終日の夜、「あわや取っ組み合いの激しいケンカになりかけた」と報じられ、その直後には「2人は米国からパリへ向かったチャーター機の中で、すでに激しい言い争いをしていた」と米メディアはすぐさま追加報道。

 聞けば聞くほど、うんざりさせられる。

【「メディアのせい」も言わざるべし】

 

 こうした“ゴタゴタ”の中で、報道された内容を最初にぴしゃりと否定したのは、ケプカだった。

 ライダーカップ翌週、欧州ツアーのアルフレッド・ダンヒル・リンクス選手権会場へ移動し、会見に臨んだケプカは「DJとはケンカなどしていない。DJも『こんなふうに根も葉もないストーリーが作られて流れたことはこれが初めてではない』と言っている。僕らは昔も今も変わらず、親友どうしだ」と言い切った。

 ケプカ自身は、そんなふうにジョンソンとの仲を取り沙汰される騒動に付き合っている余裕など、まったくない状況にある。

 ライダーカップ初日にケプカが打ったボールがエジプトから現地へ観戦に訪れていた女性の目を直撃してしまうという事故が起こった。女性はすぐに病院へ搬送されたが、大会終了直後、右目を失明。その女性はライダーカップの大会を相手取り、すでに訴訟に踏み切った。

女性側の主張の中で心に刺さったのは「その場でケプカは誠心誠意、尽くし、謝ってくれたと思う。でも、病院へ運ばれて以降、私にコンタクトしてきた人は、ただの一人もいなかった」。その事実が彼女に訴訟を決意させたそうである。

 女性が失明してしまったことを知らされたケプカは「本当にハートブレイキング。できる限りの対応をしたい。彼女と話すことができればいいのだけど、、、」と、直接会って謝罪をしたい意向を欧州メディアの前で語った。

 そして、こんなフレーズも口にした。

「DJとのことは、ノープロブレムだ。それより、プロブレムは、いろんなストーリーを作り上げるキミたちだ」

 ケプカの気持ちは察してあまりある。「問題は、キミたちだ」と、メディアを責めたくなるところも、米欧のどちらにも属さない私の立場から眺めれば、「まあ、そう感じるのは、ごもっとも」と気持ちの上では頷ける。

 

だが、「メディアのせいだ」という一言も、やっぱり口にすべきではないと私は思う。

【負の遺産ばかり】

 ライダーカップの2年前の前回大会(2016年)で勝利したのは米国チームだった。あの大会後は、今回のようなゴタゴタは何も起こらず、「ライダーカップは素晴らしい大会」という空気に包まれ、選手もメディアも「敗北した欧州チームも素晴らしいプレーを見せてくれた」と敗者を讃えることさえ忘れなかった。

 だが、その1つ前の2014年大会では、キャプテンのトム・ワトソンの采配を巡り、フィル・ミケルソンを筆頭とするチームの面々が大会中から対立する事態になり、結果は敗北。大会後、その対立はさらに激化し、方々に残した禍根は今でも消えていない。

 やはり敗北した2012年大会後は、キャプテンのデービス・ラブに批判が集中。「ラブのせいで負けた」という論調ばかりが独り歩きし、しばらくの間、ラブは文字通り、米ツアー会場で孤独な日々を過ごしていた。

 

勝った大会の後日談は美しいものばかり。だが、負けた大会の後日談がここまで酷くなることを、一体どれだけ繰り返すことになるのだろうか。

激しい論争が起こるのは、それだけ勝ちたい気持ちが強いからと言えなくはない。それだけ母国に対する愛国心が強いからと考えることもできなくはない。

 だが、敗北するたびに特定の人物を名指しにして「誰のせい」を論じることで、生まれるものは負の遺産だけである。

【血と汗と涙の結晶が台無し】

 

前週に5年ぶりの復活優勝を遂げ、世界中を沸かせたウッズが、翌週には瞬く間に翳り、米ツアー通算17勝を挙げた一方でチャリティや社会貢献に献身的に取り組み続けてきた人徳者のフューリックが批判の的にされている。

 世界ランキング・ナンバー1のジョンソンと3位のケプカは、米ゴルフ界と世界が誇る有力選手だというのに、その2人の不仲やケンカが大スクープのように報じられ、真偽のほどが今なお取り沙汰されている。

ケプカは今年、全米オープンと全米プロを制し、史上5人目の快挙を達成したばかり。メジャー年間2勝、通算3勝目を挙げたケプカにとって、いや世界中のゴルフファンにとって、2018年は忘れがたき年、歴史に残る年になった。リードはマスターズを制し、メジャーチャンプの仲間入りを果たした。

そうやって彼らが築き上げてきた血と汗と涙の結晶が、ライダーカップ敗北の末に台無しになってしまうことは、あまりにも忍びない。

米国チームの選手部屋の入口には「我がままはドアにかけて置いて来い」という訓示が掲げられていた。それぞれのエゴイズムをライダーカップに持ち込むべからずという戒めの言葉だ。

その戒めは、選手のみならず、関係者もメディアもファンも、誰もが噛み締め、省みるべきことだろう。

そして、敗北した後にやるべきことは、「誰のせい?」の追及ではなく、「なぜ勝てなかったか?」を謙虚に見つめ、原因を見つけ出し、今後の対策を講じること。

世界のゴルフの範となるべき米国ゴルフだというのに、今はただただ「グッドルーザー」という言葉がむなしく響く。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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