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27年間、刑務所で描き続けたゴルフ場の絵がきっかけで冤罪が晴れ、自由の身。“ゴルフ”がもたらした勝利

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
これはオーガスタナショナルの写真。ゴルフの魅力が一人の男性の人生を救った(写真:ロイター/アフロ)

 米ゴルフ界は、プレーオフ最終戦で優勝争いを演じているタイガー・ウッズの復活優勝への期待で盛り上がっている。だが、その傍らで、ウッズのニュース以上に大きな注目を集めるこんなニュースもあった。

 殺人罪の汚名を着せられ、27年間、服役していた米国人男性が、刑務所内の自由時間にゴルフコースの絵を描き続け、それがきっかけとなって冤罪を晴らすことができ、ついに自由の身になったという話だ。

 この男性は、バレンティノ・ディクソンさん、現在48歳。1991年に殺人の容疑で逮捕され、有罪判決を受けて、「全米でも屈指の悪名高き刑務所」と囁かれるニューヨーク州内の刑務所に入れられた。

 以後、ディクソンさんは無罪を主張し続けてきたが、その声はなかなか届かず、判決が覆されることはなかった。いつしか男性は戦い続けることに疲弊して、半ば諦めた状態で服役していたという。

 そして、与えられた自由時間に写真や本などを見ながらゴルフコースの絵を自己流で描くことが唯一の楽しみになった。

 大のゴルフ好きだったというわけではない。ゴルフクラブを握ったことは、ただの一度もなかったそうだ。もちろん、ゴルフコースそのものに足を踏み入れたこともなかった。

「でも、どうしてだか、ゴルフコースの美しい姿に心を惹かれ、それを描くことで心が癒された」

 “代表作”は、オーガスタナショナルの絵。色とりどりのパステルで描かれたディクソンさんの作品に注目したのは米国のゴルフ雑誌「ゴルフダイジェスト」だった。

 雑誌社の記者が刑務所を訪問してディクソンさんの作品を見ながら話をしているうちに、ディクソンさんが無罪を主張していること、冤罪であることを聞き、その記者と同社が主体となってディクソンさんを社会へ戻す働きかけを開始した。

 それから6年が経過した今年の9月19日、無罪となったディクソンさんは、ついに自由の身となり、青空の下に立った。

 全米、いや世界中の注目を集めた冤罪事件の1つだが、冤罪を晴らすきっかけになったのがゴルフコースの絵画で、冤罪を晴らす手助けをしたのがゴルフ雑誌というところは、ゴルフ界に身を置く者にとっても嬉しいニュースである。

 ディクソンさんがゴルフコースの美しさに心を惹かれたこと、それを描くことで心が癒されたこと。ゴルフにそういう魅力とパワーがあってくれたからこそ、ディクソンさんの冤罪を晴らすきっかけにもなってくれたと言っていい。

 プレーオフ最終戦、ツアー選手権のメディアセンターにも同社から派遣されている記者がいる。ブライアン・ワッカー記者は、この一件に対して、こんな感想を抱いている。

「アメイジング・ストーリー(素晴らしい話)だ。ディクソンさんが自由の身になったこと、そしてゴルフがこれほどのパワーを発揮できたことが、ゴルフジャーナリストとして、とてもうれしいし、驚きでもある。

 

 わが社の僕の同僚でもあるゴルフジャーナリストのマックス・アドラーが、ディクソンさんの絵画のことを知って、ディクソンさんに会い、冤罪を晴らすために動き出してから今年で6年。長い歳月だったが、その間、諦めずに戦い続けたアドラー記者とディクソンさん、両方の情熱がもたらした勝利だ。

 

 そして、2人の情熱を手助けしたものがゴルフだったことが、僕は何よりうれしい」

 

 私も、まったく同感である。素晴らしいゴルフの世界が世の中にあってくれて、本当に良かったと、あらためて思う。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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