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ジョーダン・スピース婚約を世界が祝う理由。社会に対して心優しい2人だからこそ。

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
メジャー3勝目となった昨年の全英オープンはアンネ嬢が会場に来た希少な大会の1つ(写真:ロイター/アフロ)

世界ランク2位、メジャー3勝、24歳のジョーダン・スピースが長年の恋人と婚約したことを正式に認め、米ゴルフ界は2人を祝う温かいムードに包まれている。

そして、若い2人のバックグラウンドを知れば知るほど、本当にお似合いの2人だと思えてくる。

お相手の女性、アンネ・ベレット嬢とスピースがハイスクール時代から交際を続けてきたことは、すでに米ゴルフ界では有名な話。

昨年の暮れ、左手薬指のエンゲージリングをかざしながら満面の笑顔でスピースに寄り添うアンネ嬢の写真がツイッターで紹介されて以来、2人が「婚約したらしい」ことが米メディア、そして世界のメディアによって紹介されていた。

今週、ハワイで開催される米ツアーの2018年初戦、セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズの開幕前の会見で、婚約したのかと問われたスピースは「イエス」と笑顔で頷き、少々照れながらも、いくつかの秘話を明かした。

【彼女が試合会場に滅多に来なかったワケ】

アンネ嬢の存在が米メディアによって最初に報じられたのは、スピースがメジャー初優勝を挙げた2015年のマスターズのときだった。それまではゴルフ一筋でデートする時間や余裕は皆無と思われていたスピースだが、勝利を決めたスピースに駆け寄ったアンネ嬢の姿は米ゴルフ関係者を大いに驚かせた。

しかし、それ以後、試合会場でアンネ嬢の姿を見ることはほとんどなかった。他選手の恋人や妻たちが派手な出で立ちでロープ際を歩きながら彼氏や夫を応援する中、スピースを応援するアンネ嬢の姿はほとんどなかった。聞けば、それは彼女の仕事が忙しく、なかなか休めなかったからなのだそうだ。

テキサス大学に進んだスピースが1年生で大学を離れ、プロ転向した一方で、アンネ嬢はテキサス工科大学へ進み、きっちり卒業。そして就職したのが、「ファースト・ティ・ダラス」だった。

「ファースト・ティ」は米ゴルフ界の主要団体(PGAツアー、USGA、PGAオブ・アメリカ、LPGAなど)や多数の企業、団体が協力し合い、経済的、社会的に恵まれない子供たちにゴルフに触れる機会を与え、ゴルフを通じて人間教育、社会人としての教育を施していく目的で1997年に創設された非営利団体。

米フロリダ州に本拠が置かれ、現在は米国のみならず世界に200以上の支部が広がっている。ちなみに、ファースト・ティ・ジャパンも活動している。

アンネ嬢は、そのファースト・ティのテキサス州ダラス支部に就職。ゴルフを通じて子供たちに手を差し伸べていく仕事に従事し始めた。

それから間もなく、彼女はバースデー・パーティー・プロジェクトのディレクターになった。ホームレスの人々、あるいは暴力や犯罪など何かの理由でシェルターなどに一時的に身を寄せている人々にバースデー・パーティーを開いてあげるというプロジェクト。その機会を通じて、社会から隔絶されてしまっている人々の心を開き、社会復帰を促していくことが目的だ。

その仕事が忙しく、その仕事に夢中で、アンネ嬢はスピースの試合の応援に駆け付けることがほとんどできなかったそうだ。

【チャリティの意味を知っている2人】

2015年のマスターズ覇者となり、全米オープン覇者となったスピースは、早々にスピース財団を創設し、財団主催のチャリティ・トーナメントやチャリティ・コンサートを開催し始めた。

そのコンサート会場でスピースの妹エリーが音楽に合わせて楽しそうに踊っている姿が、以前、ある動画で紹介されていた。

神経に障害を持って生まれ、スペシャル・スクールに通っていたエリーは、スピースが常々「僕のゴルフのモチベーション」と言っている存在だ。

「エリーは僕の優勝をいつも信じている。だから、僕はエリーのために勝ちたい」

その想いがスピースの心とゴルフを強くし、「世界のジョーダン・スピース」になった。

チャリティ・コンサートで踊るエリーの傍らにはアンネ嬢の姿があった。スピースの試合会場にはあまり行けなかったものの、チャリティ・コンサートの場には足を運び、エリーに寄り添っていたアンネ嬢。

そんな女性だからこそ、スピースは生涯のパートナーに彼女を選んだのだと思う。

プロポーズをしようと心に決めていた日、スピースはこともあろうに風邪をひいて熱を出したという。その緊張ぶりとズッコケぶりがなんとも愛らしい。

とはいえ、プロポーズより、メジャー3勝目を挙げた昨年の全英オープンのほうが「これまでで最もナーバスになったとき。プロボーズは(イエスをもらえる)自信もあった」と明かしたスピース。

「でも、全英オープン優勝のことは、そのうち忘れてしまうけど、婚約のことは生涯忘れない」

社会貢献の必要性や大切さを心の底から感じ、実践しているスピースとアンネ嬢だからこそ、2人はこれからも世の中に対して優しくなれる。これからも、きっと力を注いでいく。

そんな2人が婚約し、新しい年を迎えたことは、世界のゴルフ界、いや世界にとって、とても喜ばしいお祝いごとである。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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