首位と1打差で全米プロ最終日に挑む松山英樹。ミスしてもそれ以上にいいゴルフをすれば「チャンスはある」
全米プロ3日目のクェイルホロー・クラブは蒸し風呂のような暑さだった。前日の降雨が染み込んだ地面から蒸気が噴き出し、空からは刺すような強い陽射し。立っているだけで汗が流れ、頭もくらくらしてくる。その中で難コースと戦い、他選手たちと戦う優勝争いは、想像しただけでも過酷だった。
そして実際、松山英樹の戦いは過酷なものになった。1番ティでドライバーを振った松山は、インパクト直後に右手で「右!」を示しながら「あー!」と声なき声を上げ、いきなり落胆の表情
第1打はフェアウエイ右サイドのラフにつかまり、第2打はバンカーへ。彼は前日、「ボギーは避けて通れない」と言ってはいたが、スタートホールでいきなりのボギー発進は、この日が長い長い18ホールになることを示唆していた。
2番はピン3メートルに付けながら、これを沈められず、悔しいパー。3番はグリーンを外して深いラフに沈んだが、なんとか上手く脱出して寄せて、苦しいパーを拾った。
それでも唇を噛み締め、我慢を重ねた。我慢していれば、いつかいいことがある。そう信じているかのように松山は淡々と難コースに挑み続けた。
だが、64をマークした前日のようなアイアンショットのキレはない。ロングパットの距離感やタッチが驚くほど向上している最近の松山なら、5メートル、6メートル、いや10メートルぐらいでもライン次第ではバーディーチャンスになってきたが、この日は、バーディーパットがぎりぎりで入らず、7番ではイーグルパットを惜しくも逃した。11番でバーディーチャンスを逃したときは、顔をしかめ、あからさまに残念がった。
前週からプレー中にはほとんど見せなかった怒りや落胆、苛立ちが、この日は少しずつ表に表れ、そんな心の乱れがボールに伝わったかのように、12番、13番では連続ボギーを喫した。
だが、それ以上はボギーを叩かなかった。そこから先はすべてパーで切り抜け、崩れなかった。
「ミスはするものなので、ミスすれば仕方ない」
「ボギーは避けて通れない」
自分自身にそう言い聞かせていたのだろう。18番で同組のケビン・キスナーが信じられないようなミスショットでグリーンを外し、ジェイソン・デイが信じられないようなミスを重ねて悪戦苦闘する様子を傍目に、松山は「とりあえずパーで終われたので良かった」と胸を撫で下ろした。
【違和感が出た】
2日目とは打って変わって苦戦した原因は「ショットがうまくいかなかった」。
ピンそばにぴたりと付けられず、ショットの不調を補うパットも冴えてはくれなかった。
「ショットもパットも同じぐらい最悪です」
2日目は7アンダー64で回ったのに、3日目は2オーバー73のラウンド。しかし、それは突然変異というわけではないことを松山自身が明かした。
「今日は優勝争いしているプレッシャーがあったし、今週は自分の中に(スイングにおける)違和感があって、それが今日、出てしまった」
その違和感は前日の会心のラウンドの最中も感じていたそうだが、「スコアがいいから信じてもらえないかも」と思った松山は、その違和感のことを口にしなかったのだそうだ。
しかし、そんなふうにちょっぴり冗談めかしながら告白する松山は、会心のラウンドをした前日の松山より、格段に穏やかな表情、口調に変わっていた。
ずっと抱いていた違和感。それがいつ出るか出るかと感じていた不安。それらが一気に出てしまったこの3日目は、毒が出たような、膿が出たような、そんなラウンドになったのかもしれない。だから松山の様子が穏やかになったのかもしれない。
「ショットもパットも最悪」だったのなら、それは、もうこれ以上悪くはならないことを意味するラウンドだったのではないか。
松山の表情が明るくなったのは、もしかしたら、ショットもパットも最悪だと感じながら、そのダメージを最小限に抑えた自分に可能性を感じているのではないか。
ミスはするものなので、ミスすれば仕方ない。そのぶん、いいショットが打てるように頑張りたい」
ミスしても、それ以上に、いいショット、いいパットが打てれば、進んでいく方向はbetterへ、betterへ。
そしてBestは、その先にある。
「チャンスは、あると思う」
そう、松山英樹メジャー初優勝のチャンスは、間違いなく、ある――。