太平洋の向こう側で聞いてみたアン・シネ人気の是非

「来るものは拒まず、去るものは追わず」の米国だからこそ?(写真:ロイター/アフロ)

“セクシークイーン”、アン・シネ人気の高まりを米ゴルフ界に身を置く人々はどう受け止めているのかを探ってみた。まずは、米男子ゴルフの取材の場にやってきたゴルフ担当の日本人男性記者たちに「あのフィーバー、どう思う?」と尋ねてみると、まさに賛否両輪だった。

【米国で聞いた日本人記者の反応】

苦々しい表情で「残念な感じです」と吐き捨てたのは、自身もゴルフがかなり達者なシリアスゴルファーの男性記者。

「以前から日本のアマチュア男性は、自分たちとは筋力が違いすぎる男子プロの技術は真似ることができないけど、女子プロのスイングならそのまま真似できるから参考になると言っていました。女子プロたちがどんなショットを打つのか、どんなふうにパットするのか。彼女たちのゴルフの技術が見たくて試合会場に足を運ぶ男性ギャラリーは多かった。

でも、アン・シネを見に行く男性ギャラリーは明らかに彼女の容姿が目当てです。ゴルフ観戦ではなく、彼女を見に行くのですから、彼女に未来はあってもゴルフ界はお先真っ暗。残念な現象ですよ」

だが、そんな「残念説」とは正反対に、アン・シネは「面白い」「カッコいい」と好意を示し、「ウエルカム説」を力説してくれた記者もいた。

「整形したことを自ら明かしている彼女を美人と見るか、セクシーと見るかの判断は人それぞれですが、彼女のプロ意識の高さは、はっき

りしています。彼女は自分をいかにして見せ、人々をいかにして魅了するかを常に考えている。目を引くファッション、にこやかな表情、ファン対応、メディア対応。日本語も勉強しているし、日本人と日本が大好きだと笑顔で言う彼女の言葉を聞いたら嫌な気はしない。彼女はエンターテイナーとして求められるものは何かを徹底研究し、実践しているんです。

インスタグラムで私生活も垣間見せ、ゴルファーとしてのみならず人間としての魅力もアピールすることを忘れない。そんな彼女は1人の人間として面白いし、1人の女性としてカッコいいと感じます」

全米オープンのメディアセンターで聞いたアン・シネ人気の是非は?(写真/舩越園子)
全米オープンのメディアセンターで聞いたアン・シネ人気の是非は?(写真/舩越園子)

【米ゴルフ関係者の反応】

それでは、太平洋の向こう側の米ゴルフ界関係者や米メディアは、日本で巻き起こっているアン・シネ旋風をどう見るのか。とはいえ、米男子ゴルフの試合会場(メモリアル・トーナメント、全米オープン)で取材した10数人の中で、アン・シネを知っていた米メディアは実を言えば皆無だった。

そこで、ウエブ上でアン・シネの写真を見せながら、彼女の生い立ちや戦績などを説明し、現状を紹介して意見を求めた。

ゴルフに限らず女子アスリートの外見や“セクシー”等々のイメージに関して、自社と自身が報じる際はさておき、他社や他者へコメントすることを禁じられているという関係者、記者は意外と多く、その意味でこの取材は少々難航したが、いくつかの興味深いコメントを得ることができた。

匿名を条件に語ってくれた米ツアーのメディア・オフィシャル(男性)の反応は、きわめて肯定的だった。

「彼女が魅力的ならグッド。彼女のおかげで試合会場に足を運ぶ人が増え、テレビ中継を見る人が増え、どんな形であれ、ゴルフの隆盛につながるのならグッドですよね。悪いことなんて何もないと思います」

だが、人々がゴルフの試合会場にやってくる目的が、ゴルフの観戦ではなく、1人の女子選手を見るためだとしたら、「そこに違和感はないですか?」と尋ねてみると、そのメディア・オフィシャルは大真面目な顔で首を横に振った。

最終日はオレンジ色を着るファウラーは国民的スター選手(写真/舩越園子))
最終日はオレンジ色を着るファウラーは国民的スター選手(写真/舩越園子))

「米ツアーや欧州ツアーで起こったリッキー・ファウラーや“ビーフ”(アンドリュー・ジョンストン)の人気現象も似たような感じでしたよね。ファウラーそっくりに全身オレンジ色で着飾って試合会場にやって来る子供たちや女性ファンは多かったし、ビーフのヒゲを見たくてやって来る若者もいたし、ビーフそっくりのひげをたくわえてやってきて、横に並んで写真を撮るだけのためにやってきたファンだって結構多かった。

でも、それが試合会場に来てはいけない理由にはならないし、それがきっかけで試合会場に来て、ゴルフが好きになってくれたら、きっかけは何であったとしても、私たちはそのきっかけに感謝します。

そう言えば、女子テニス界にはセクシー路線の選手が多いですし、そういう選手たち見たさでテレビ観戦したり、会場に足を運ぶファンも多いですけど、それを否定する理由も無いですからね」

“ビーフ”が人々に認識されたのはゴルフよりヒゲが先だった(写真/舩越園子))
“ビーフ”が人々に認識されたのはゴルフよりヒゲが先だった(写真/舩越園子))

【米メディアの反応】

ただ一人、名前を出しても構わないと太っ腹な構えで取材に応じてくれたのは、グローバル・ゴルフ・ポスト紙のベテラン、ロン・グリーン記者。彼も女子テニス界を引き合いに出した。

「テニス界の妖精とまで呼ばれていたロシア人のアンナ・クロニコワは、シングルスでは最後まで勝てず、0勝に終わりましたが、セクシーな容姿は抜群で、数々の雑誌の表紙にもなり、彼女が目当てでテニスファンを名乗っていた男性は当時は結構多かった。でも、そういうスターもいていいと思います。

とりわけ現代はソーシャルメディアが何だってフォローする時代ですから、プロスポーツ選手がそれを活用しない手はない。まず目立つ何かがあれば、存在と名前はすぐに知れ渡る。気軽にファンになってくれる“カジュアル・ファン”をまずは増やせばいい。

問題はそこから先ですが、目立って世間に知られた後も、それに値する成績が続けばいい。優勝が期待できればいいんです。

プロのゴルフは、スポーツであると同時にエンターテインメントでもあるので、強いだけでは不足だし、キレイとかセクシーとか、イメージのみでも不足ですが、完全人間はそうそういないわけですから、どちらかが先行したり、どちらかが秀でていても、いい。要は、両方を揃えようとする姿勢、両方が揃いそうな雰囲気が感じられればいいんです」

匿名を希望したTVリポーターの男性も全体的には似たような意見だったが、彼は業界の人間らしく、もう1つ突っ込んだ条件を口にした。

「人々を惹きつけるものはセクシー路線でもコメディ路線でも何でもいいと思うし、人々にとりあえず興味を抱いてもらうことは、それほど難しくはない。とにかく目立てばいいんだからね。

でも、プロアスリートは一過性の人気では生きていけない。強くなければ人気は低下し、勝てなければ人々もスポンサーも去っていく。一度去った者は簡単には戻ってこず、ましてやセクシー路線で去った者を引き戻すことは難しい。セクシー路線の本当の意義や良し悪しは、人気の出始めより、人気が落ちたときにわかるのではないですかね?」

なるほど。概して米ゴルフ関係者や米メディアは「来るものは拒まず、去るものは追わず」のアメリカらしい考え方。

アン・シネが米ゴルフ界に進出したら、兎にも角にも「Welcome!!」と歓迎されることだけは間違いない。

東京都出身。早稲田大学政経学部経済学科卒業。百貨店勤務、広告代理店勤務後、89年に独立。93年にゴルフジャーナリストとして渡米以降、米国に常駐。米ツアー選手や関係者たちと直に接しながら築いた信頼関係、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの面白さ、厳しさなどを独特の表現でときに優しく、ときに厳しく発信し続けている。選手のヒューマンな一面を描き出しては綴る“舩越節”、”園子節”には根強いファンが多い。

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