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フェイクニュースと偽・誤情報対策は、ニュースとコンテンツと広告に分けて検討を

藤代裕之ジャーナリスト
「デジタル空間における情報流通の健全性を巡る課題」=総務省の有識者会議より

能登半島地震でのインプ稼ぎを目的としたX(旧Twitter)の偽・誤情報投稿、著名人の画像や名前を無断利用したFacebookの偽広告といったネット空間「汚染」が社会問題となり、何もしない海外プラットフォーム(PF)に対する規制しかない、という流れが強まっています。規制強化は私たち自身の表現の自由を制限しますし、やり方次第ではロシアや中国のような統制国家への道を開きかねない危険なものです。

総務省の検討会に出てきた危うい資料

対策を議論する総務省の有識者会議「デジタル空間における情報流通の健全性確保のあり方に関する検討会」は2023年11月に、法学者中心の「ワーキンググループ(WG)」が2024年1月に立ち上がり、省庁の有識者会議としては異例のペースで進められています。

検討会が立ち上がった時に「健全性」という曖昧な表現にひっかかりを覚え、資料を確認していましたが、2024年1月25日の検討会・WGの合同開催でメディア規制につながりかねない危うい資料「デジタル空間における情報流通の全体像(案)」(PDF)が提示されました。

冒頭図にあるように公共放送(NHK)や新聞、テレビに対し「発信力強化のためのガバナンスの在り方」という枠が示されています。存在感が低下する既存メディアの発信力を高めようという意図であったようですが、メディアのガバナンスは自律的であることが望ましいのは言うまでもありません。

また、既存メディアを特別扱いするのも疑問です。不確実性が高い「こたつ」記事はスポーツ紙だけでなく一般紙などにも広がっています。有益なニュースを発信しているフリー記者やネットメディアもあります。既存メディアのみ発信力強化をする道理はありません。

筆者は検討会やWGの構成員ではありませんが、議論の流れに危機感を持ち12日のWGで話をする機会を得ました。プレゼン内容を交えながら対策の課題と方向性を整理します。なお、資料は総務省のサイトに公表されています。

ニュース、コンテンツ、広告を分けて考える

プレゼンの骨子は、ニュース、コンテンツ、それを支える広告と、分けて対策を考える必要がある、ということです。

危うい資料が出る背景には検討会とWGがネット空間に入り交じる情報を下記図のようにひとまとめにして考えていることがあります。

「デジタル空間における情報流通の現状」の全体像(案)。4月に再提示された(案)では研究機関の()内に社会学が追加されていた。そういう話じゃないんだよ…
「デジタル空間における情報流通の現状」の全体像(案)。4月に再提示された(案)では研究機関の()内に社会学が追加されていた。そういう話じゃないんだよ…

図のような認識であれば対策はPFが対象になるのは当然ですが、PFは民間企業であり、多くが外資系です。イーロン・マスクのような経営者が言うことを聞くなら苦労はないわけで、実効性に乏しい。だから弱い既存メディアの発信力を強化し…となんだか変な方向に行くわけです。

そもそも一般的な投稿コンテンツとニュースは社会的な影響力も社会的な責任も異なります。ニュースの社会的な影響力や信頼性を利用するからこそ、ニュースを模した投稿や広告があるわけです。フェイクニュースは「形式的にはニュースメディアのコンテンツを模倣しているが、組織的な手法や意図は模倣していない捏造された情報(Lazerら2018)」と言ったようにニュースの形式であることが重要とされています(注1)。

検討会やWGの資料をみても偽・誤情報とフェイクニュースを区分して議論されている形跡はありません。定義が曖昧な議論は話が大きくなり、規制強化のリスクが高まります。

メディア環境を踏まえた議論を

ネット空間をひとつと捉えた議論は、国によるメディア環境の違いを無視した乱暴なものでもあります。人々はPFだけからニュースや情報を得ているわけでもありません。ニュース接触にソーシャルメディアが大きな影響力を持つ国もありますが日本ではテレビや新聞もそれなりの影響力があります。ニュースの信頼性も比較的高い状態にあります。

対策はその国のメディア環境に応じて検討される必要があり、アメリカやEUなど海外の取り組みをそのまま輸入すると間違った方向に進んでしまいます。

ニュースでは自主的な取り組みを

ニュースとは何かという定義問題はメディア・ジャーナリズム研究においては重要なテーマですが、ネットではYahoo!ニュースやGoogleニュースなどのニュースプラットフォーム(NPF)に掲載されるコンテンツを「ニュース」とみなすことができます。

総務省でのプレゼン資料より
総務省でのプレゼン資料より

コンテンツとニュースはYahoo!やGoogleでも表示される場所が異なるので分けて考えることはできます。コンテンツはPFの規約に同意して投稿しますが、ニュースは多くの場合、企業や個人はNPFと契約をしています。

このような状況は、NPFがネットでのニュースを決め、契約や広告配分でニュースをコントロールできるという課題を生んでおり、「こたつ」記事の蔓延はNPFに責任があります。

現状のネットニュースは課題が多いですが、Yahoo!ニュースが大きな影響力を持ち、LINEニュース、スマートニュース、グノシー、NewsPicksなども存在感があり、それらは国内企業です。海外PFと比べて話はしやすいですし、各企業の協力があれば信頼性の高いニュース生態系を実現できる可能性があります。

整理すべきはニュースを掲載するNPFがプロバイダ責任制限法(プロ責)上の発信者に該当しないとされていることで、発信者として責任を持つようにプロ責対象から外すなどの対応が求められます。WGにはこの部分の検討をとお願いしました。

広告業界は本気で対策を

著名人の画像や名前を無断利用したFacebookの偽広告というのは、広告の問題です。広告は偽・誤情報やフェイクニュース拡散を後押ししている側面もあります。また、アドフラウドのような広告不正も問題になっています。

著名人の画像や名前を無断利用した偽広告をみても分かるようにPFの対応はまったくもって不十分です。では、それを利用する広告業界はどうか。検討会での広告業界団体の説明では一定の対応をしていることが分かりますが、本気で取り組んでいるのかは怪しいところです。

例えば、デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)のサイトを見るとFacebookもXもブランドセーフティの認証企業として掲載されています。偽広告を流してブランドセーフティが守られていると言われても困ります。

既存メディアでは広告は事前考査をしていますが、ネットでは事後的な対応すら不十分です。これは怪しいサイトに広告を出しても、偽広告を出しても、収益が入るため広告業界はPFと「共犯」でもあることが要因です。現状が続けば広告審査が強化するような、何らかの規制は必要でしょう。

総務省でのプレゼン資料より
総務省でのプレゼン資料より

コンテンツではPFの透明性向上を

コンテンツはいわばネットの投稿ですが、誹謗中傷やヘイトスピーチの蔓延が問題なだけでなく、自治体アカウントの凍結などPFの不透明な運用、PFのコンテンツモデレーションによる「検閲」「誘導」の危険性もあります。PFの透明性の向上が求められます。

ただ、コンテンツ部分の規制は実効性が期待薄なところです。まず、広告で対策を行うことで、お金儲けのために偽・誤情報やフェイクニュースを拡散する人たちのインセンティブを失わせるほうが先でしょう。

ニュース業界は取り組みを示せ

プレゼンで強調したのは、ニュース業界も広告業界も自主的な取り組みが不十分であり、規律が働いているとはとうてい言い難いということです。本気で取り組まなければ、規制されても仕方がないという流れを押し止めることはできません。ニュースに関しては日本新聞協会や日本民間放送連盟も当事者意識を持つべきです。

同じ日に京都大学の曽我部真裕教授の「「情報流通の健全性」と憲法」とのタイトルのプレゼンがありました。大変勉強になったのですが、驚いたのはデジタル立憲主義実現のためには国家による情報空間への介入を拡大し、それは憲法上の責務であるという話が展開されていたことです。統制国家につながる大変危険な議論であると感じたのですが、WGでは明確な危険性の表明もなく、傍聴していたと思われるメディア関係者からもレスポンスがありませんでした。

検討会やWGでは健全性が何かという議論も行われず、規制の話が先行しているように見えます。大きな規制議論の前に対策を工夫することはあるはずです。構成員の皆さんには、表現の自由を守るという観点を忘れず、ニュースや広告といった違い、メディア環境の状況を踏まえた議論をお願いしたいです。

注1:Lazer, David MJ, et al. "The science of fake news." Science 359.6380 (2018): 1094-1096.国内のフェイクニュースについては筆者編による『フェイクニュースの生態系』を参照のこと。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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