善意のコピペが生む混乱 ツイッターでの「救助要請」拡散が消防に負担
地震や台風など災害時にツイッターで拡散する救助要請ですが、筆者らが2016年に発生した熊本地震に関するツイートを分析したところ、善意のコピペが救助活動に混乱をもたらしていたことが明らかになっています。北海道胆振東部地震でも、ソーシャルメディアで広がったデマが被災者支援の善意によるものだったという指摘が行われていますが、救助に関しても同様の傾向があります。
研究チームでは、ユーザーローカル社が提供している解析ツール「Social Insight」を利用し、熊本地震に関するツイートを収集しました。災害時にどのような救助要請のツイートが拡散しているのでしょうか。以下は「#救助」「#救出」「#救助要請」のハッシュタグが含まれる拡散した上位10ツイートです。固有名詞などは削除し、記事用に短く編集しています。
救助に関するツイートは半数しかない
1,「熊本県に住んでるおばあちゃん家族の安否が不明です。何か小さな情報でもいいのであれば教えていただけると幸いです。 #救出」
2,「タクシーが運行可能なようです! 病院などへも連れて行ってもらえます! 電話番号載せときます! #救助 #病院 #地震」
3,「#救出 #救助 #熊本地震 建物崩壊で何名かの人が生き埋めになっています。ここだけ孤立しているみたいなのでお願いします」
4,「地震により天井が落ちました。生徒らが下敷きになっているらしいので、拡散おねがいします! #救出 #救助 愛知からですなにもできません」
5,「地震の影響でガス漏れが発生している場所があります。タバコなどの火を使う行為は絶対にやめて下さい。救助を求める人は #救助 を使って救助を求めてください人を助ける為にRTお願いします」
6,「マスコミが報道しない。台湾政府は熊本に1000万円の寄付。高雄市の市長が給料1ヶ月分を寄付いつでも熊本に救援出動可能 #地震 #救助 #救援物資 #熊本」
7,「熊本県民にお知らせです。大手通信会社3社がWi-Fi無料開放しています。必要な方はご利用ください。#救助 #救出 #熊本地震 #拡散希望」
8,「身を寄せあって救助を待っています。停電していて外にでるのが困難な状態です変な匂いもしているので凄く怖いです #救助要請 #熊本地震 #拡散希望」
9,「【速報】熊本Wi-Fi無料開放中。これでiPodとかでも救助要請できますね。みんなに知らせてあげてくださいお願いします #救助 #拡散 #熊本 #地震」
10,「友達が怪我して動けなくなってます。ガス漏れしてるようです。 1人でパニックになってます誰か助けてください #熊本地震 #救助 #拡散希望」
10ツイートのうち、救助に関係していそうなツイートは半分しかありません。あとはタクシーの運行情報、ガス漏れに関する注意喚起、外国の動向、Wi-Fiの情報となっています。このような様々な情報が、救助に関連するハッシュタグを付けて拡散していることが分かります。
コピペ投稿の拡散が消防に負担
救助に関係しているツイートのうち、3,は2つのアカウントから、4,と8,は4つのアカウントからほぼ同一の内容が発信されています。4,と8,をツイートしているアカウントもありました。どこかで見つけた救助に関係しそうな投稿をコピペして、再投稿していると考えられます。プロフィールや前後の投稿などから、被災地である熊本市在住であると推測されるのは1アカウントだけでした。
このようなコピペによる再投稿があるから拡散しているとも言えますが、オリジナルの投稿を確認することを難しくしています。実際に救助活動を行う消防局には大きな負担がかかっています。
熊本市消防局の担当者にインタビューを行ったのですが「通報を受けていた経験から言うと、Twitterで見た、聞いた、といったものはかなりあった。県外からツイートをみたが、なんとかしてほしいという通報もあった」とのことでした。
実際に出動するかは電話で状況を確認して行います。大きな災害があると各所から多くの通報が寄せられ、消防局は緊急度や深刻度を判断しなければいけません。「しゃべることができるかどうか、歩けるかどうか、ということが分からなければ行わない。挟まれたから動けないかもしれないという伝聞の情報では難しい」と言います。ツイートを見て善意での通報により回線がふさがってしまったり、電話対応に時間を取られてしまったり、という問題も起きていました。
72時間を大切にする
ソーシャルメディアは災害時のインフラとして期待されながらも現状は機能不全です。しかしながら、ソーシャルメディアを無視することもできない状況となりつつあります。
上の図は、熊本地震と北海道胆振東部地震の発生前後に「#救助」を含むツイート数の推移を表にしたものですが(熊本地震は余震の後に本震が来たため、山が2段になっている)、概ね24時間程度で収束しますが、救助を待つ人の生存率が大幅に下がるとされるのは発生後72時間と言われています。
この72時間にソーシャルメディアが有効に機能できるように、筆者らは、専門家とシステムの協調により、ツイートの緊急度や深刻度を判断する「情報トリアージ」という手法を研究しているところですが、個人としても、救助ツイートを見てもコピペしない、救助と無関係なツイートにハッシュタグを付けない、そのツイートをリツイートしない、などの工夫により無関係なツイートを減らすことができるでしょう。
また、先日の記事に書いた「90秒ルーチン」1、Investigate the source(情報源の確認) 2、Go Upstream(情報源を上流に辿る) 3、Check other sources(他のソースを確認する)は災害時にも有益な手法です。
この記事は、社会情報学に掲載された論文「大規模災害時におけるソーシャルメディアの活用―情報トリアージの適用可能性」(藤代 裕之、松下 光範、小笠原 盛浩)の一部を抜粋し、加筆したものです。