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フェイクニュースへの危機感が乏しい日本政府、問題は若者より中高年のリテラシー

藤代裕之ジャーナリスト
フェイクニュースの発信源とされる「スプートニク」に掲載された河野外相の記事

日本政府のフェイクニュースへの危機感は非常に乏しい。マクロンフランス大統領からフェイクニュースの発信源と批判されているロシアメディア「スプートニク」に河野太郎外相のインタビューが掲載され、政府サイトのドメイン管理が出来ておらず、フェイクニュースサイトに誘導するリンクが設置される可能性すらある。

この記事は、『「フェイクニュースから見るデータ社会のインテリジェンス」 ~プラットフォーム企業、広告モデル、民主主義のあり方~』(日本ジャーナリスト教育センター、政策分析ネットワーク主催)と題したパネルディスカッションでの議論を再構成したものです。

前回の記事:フェイクニュースの議論で欠落する、国家間の「情報戦」「ビジネス戦」という視点

パネリスト:発言は個人の見解です

足立 義則(NHK報道局ネットワーク報道部副部長。ソーシャルメディア情報を分析、収集、報道と連携するソーシャルリスニングチームSoLT担当)

奥平 和行(日本経済新聞編集委員。シリコンバレー支局、名古屋支局などを経て現職。IT、自動車、スタートアップを取材している)

クロサカ タツヤ(企代表。各国のネットや通信事業の政策調査、コンサルティングを行う。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授を兼務)

高野 聖玄(ホワイトハッカー集団によるセキュリティ企業であるスプラウト代表取締役。著書にサイバー空間の無法地帯に迫った『闇(ダーク)ウェブ』)

藤代 裕之(JCEJ代表運営委員、ジャーナリスト、法政大学准教授。著書に『ネットメディア覇権戦争- 偽ニュースはなぜ生まれたか』など)

日本語とネットのノリに守られている?

足立:フェイクニュースは言葉の壁に守られているところはある。あと、日本独特のネットのノリにも守られているのではないか。日本の政治やビジネスは、国家間の情報戦の相手にされていないのではということも、ソーシャルを流れる情報をみていると感じる。

藤代:調査が進んでいないのから分かってないだけという可能性は?

高野:それはあるかも。ただ、ソーシャルメディアを分析している会社に聞いても、まだ極端な兆候は見られないと聞いている。世論操作をしようとするマーケティング会社は多いので、これから増える可能性はある。

注)高野氏が率いるスプラウトが運営するニュースサイト『THE ZERO/ONE』に日本のネット世論操作に関係する記事が掲載されている。

日本で進むネット世論操作と右傾化(THE ZERO/ONE、一田和樹)

高野:足立さんに聞きたいが、ロシアの「スプートニク」は、コンテンツが広がりやすいサイトの作り(バイラルメディア)になっている。「スプートニク」経由の情報が持ち込まれることはあるか?

足立:これは「スプートニク」の情報です、という目でみるようにしている。そういう経緯を知らないと、すぐに反応してしまう。振り回されないようにするためにも、経験があり、詳しい人をチームで育成している。

注)「スプートニク」はロシアの政府系メディアで、フランスのマクロン大統領は名指しでフェイクニュースの発信源として批判している。

マクロン大統領が名指ししたのは「ロシア・トゥデー(RT)」と「スプートニク」。同大統領は記者団の質問に答える形で、「ロシア・トゥデーとスプートニクは選挙結果に影響を及ぼすエージェントとして、私個人、および私の選挙チームに関する偽ニュースを何度か広めた」とし、これら2つのメディアはプロパガンダ機関のような行動を示していたと述べた。

出典:ロシア政府系メディア名指し非難、マクロン氏「偽ニュース拡散」(ロイター)

若者よりも中高年のリテラシーが問題

高野:日本の若い層の文章を読む能力が低下している問題はどうか。スマホネイティブ層の文章を読む力が下がってきているのであれば、フェイクニュースによる世論調査に反応しやすくなるのではないか。

足立:若者の読み解く能力の低下は感じるが、すごく能力が高い人もいる。それよりも、中高年の問題がある。ソーシャルメディアは、低年齢化しているが、高年齢化もある。行動力があり、正義感もあり、世の中をどうにかしたいという気概に満ちた中高年は、フェイクニュースが出てくると、許せない、という思いでリツイートしてしまう場合もある。

藤代:ある記者の方から聞いた話だが、国際信州学院大学というフェイクニュースというかパロディサイトが話題になったが、「建学の理念がいいので息子を入学させたい」という連絡が役所に問い合わせがあったそうだ。保守系の政治ブログに扇動され、弁護士の懲戒請求を行った人は、40代後半から50代が多く、60代、70代もいると、弁護士がツイートで明らかにしている。

国際信州学院大学のホームページ。もちろんフェイクです。
国際信州学院大学のホームページ。もちろんフェイクです。

注)国際信州学院大学は架空大学で、学歌、研究なども掲載され一見大学のサイトに見える。写真も含めてムダにレベルが高い。

危機感に乏しい日本政府

クロサカ:ネット黎明期と違い、いまは大衆化が進んで、ソーシャルメディアの発信主体はリテラシーを伴わなくなった。一方、リテラシーを有するべき人も怪しい。たとえば日本政府が作るウェブサイトはドメインがgo.jpでないといけない。にもかかわらず、全然守らずに.jpとか.comとかがある。

藤代:政府キャンペーンの期間が終わり、ドメインが切れたものを通販サイトや出会い系サイトが購入している。政府サイトからのリンクを押すと出会い系サイトに誘導される。そこにフェイクが入ってくる可能性もある。

注)下記の記事は「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)に関するサイトだが、内閣府が開催したサイバー対策の国際会議のドメインが出会い系サイトの宣伝に利用されていたケースもある。

藤代:河野太郎外務大臣のインタビューが「スプートニク」に掲載されている。あえて載せているとしても、さすがにフェイクニュースと批判されているサイトのインタビューを受けるのは、感度が低いのではないか。

クロサカ:もうすこしピリピリすべき。少し気をつけるだけで、リスクは相当に減る。

藤代:要因として、クロサカさんが指摘するテクノロジーへの理解が低いのではないか。

要因はテクノロジーへの理解不足

クロサカ:AIや音声認識の問題でも同様で、自分が向かい合うサービスや業界に特化したアプリケーションさえうまくいってない。GoogleやAmazonのせいではなく、自社データの活用さえ日本はできていない。デジタル・トランスフォーメーションというカッコいい言葉ではなく、デジタル化されたものを使うこと以前の、Digitization(アナログ/デジタル変換)に四苦八苦しているレベルなのではないか。未だにファクスを使っている現実がある。あらゆるメディアは何らかのテクノロジーに立脚している。テクノロジーを理解せずメディアを使うことは無理になっている。

前回の記事:フェイクニュースの議論で欠落する、国家間の「情報戦」「ビジネス戦」という視点

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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