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東京五輪の開催決定「号外」も新たなステージへ

藤代裕之ジャーナリスト
東京五輪の決定を伝えるヤフーの「動く号外」

大きなニュースがあると街頭で配布される新聞「号外」。2020年五輪の開催都市が東京に決定した時にも街頭で配布されましたが、最近はホームページやソーシャルメディアでも号外が紹介されるようになっています。新聞社だけでなくヤフーが「動く号外」を公開して驚かされました。

新聞社によって異なるネットでの号外

国際オリンピック委員会(IOC)の総会は、アルゼンチンのブエノスアイレスで行われており、開催の決定は日本時間の早朝と、新聞にとっては非常に不利な時間帯でした。テレビ局は、特別番組やニュース枠を拡大していましたが、既に朝刊が印刷されてしまい、日曜日は夕刊もなし。さらに月曜日は休刊日。号外とサイトは読者にニュースを伝える重要なメディアになるはずですが…

各社のサイトを調べると、読者に分かり易くバナーを置いた社もあれば、ホームページに号外のリンクがなかったり、見つけにくかったり、探すのに一苦労する社もあり、ネットでは号外の扱いがずいぶん違うことが分かりました。

導線が分かり易く、力が入っていたのは朝日新聞(デジタル)。トップページに五輪特集のバナーを設置。特集ページや号外への誘導が一目で分かるようになっていました。競技会場やマラソンコースをGoogleマップで紹介したり、競技場の画像があったり、内容も非常に力が入っている印象でした。フェイスブックページでは号外を画像で掲載、シェアされ易くする工夫もありました。

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毎日新聞(毎日jp)は、号外へのリンクはテキストで1行。左側にある写真の下にあります。五輪毎日という特集ページもあるのですが、そこには号外へのリンクはありませんでした。

日本経済新聞産經新聞もテキストで号外に誘導していました。

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読売新聞東京新聞は号外リンクなし。東京新聞は記事へのバナーが設置されていました。

ヤフーのユニークな号外に大きな反応

ヤフーはトップページの中心にある「START」を押すと選手が画面を動いて、トピックスをオリンピックの記事に変え、号外に画面が切り替わります。感動的なプレゼン動画とツイートを表示するユニークな動く号外でした。

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ヤフーの号外は、8日の夕方までに「いいね!2.4万」、「ツイート5,415」を集めていました。新聞社の中で力を入れていた朝日新聞は「いいね!2,780」、「ツイート3,375」で、新聞社のようにIOC総会の会場で喜ぶ関係者といったコンテンツはないものの、ヤフーの号外がFacebookで大きく拡散されたのは注目していいでしょう。また、号外のあり方も工夫できる事を示してくれました。一方で新聞社は、自社サイトやソーシャルメディアを有効に活用しているとは言いがたい状況です。

五輪がメディアの勢力図を変えるかも

2020年まで7年あります。インターネットメディアの7年前を振り返ってみるとツイッターはスタートしたばかり、フェイスブックは大学生向けのSNSにとどまっていました。いまでは生中継も気軽にできるようになりました。想像できない全く新しいメディアが生まれているかもしれません。

ソーシャルメディアが進化することで、拡散される情報はさらにスピードが上がり、テレビや新聞社、ネットメディアの区別もあいまいになっていくでしょう。メダルを取るたびに号外を印刷、街頭で配布していては読者に情報を届けるのが圧倒的に遅くなってしまいます。紙がなくならないとしても、スマートフォンやタブレット(すらどうなっているか分からない)対応をどうするか、ネットの情報とどう差別化するか、速報をどうするか、情報発信する人々や選手とどう協力していくのか、考えることは多そうです。

選挙や紛争など大きな出来事とテクノロジーの進歩はニュースメディアの勢力図を変えてきました。人々の関心が高いことは間違いなく、新たな取り組みを行ったニュースメディアが台頭するかもしれません。2020年の東京五輪は新聞社に限らずメディアにとっても、チャレンジングな機会になるでしょう。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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