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総務省がドコモの ahamo などにキャリアメール利用を要求しているらしい

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:つのだよしお/アフロ)

 2月26日、ケータイWatchに「ahamoに変更後もキャリアメールを使えるように――総務省が方針示す」と題する記事が掲載された。

 26日に総務省で開かれた「スイッチング円滑化タスクフォース(第5回)」では、携帯キャリアが提供するキャリアメールを、携帯キャリアを変えた場合でも、元の事業者が管理して使用できるようにすべきとされた。この場合、3月から提供されるドコモのahamo、auのpovo、ソフトバンクのLINEMOにおいても、現在のキャリアメール使用不可の方針をやめ、利用可能とすべきとしている。

 総務省の調査では、週1回以上のキャリアメール受信は67.7%、送信は37.1%となっている。また「仮に、携帯電話会社を乗り換えても継続的にキャリアメールが利用できるのであれば、そのサービスを利用したいと思いますか」との質問に対しては、「利用したい」と答えた割合は、74.1%となった。結果をふまえ、契約者が格安SIMを提供するMVNOなどの事業者に、キャリアメールの「持ち運び」を希望する場合には、過度な負担や手続きを課さないことが適当との方針を打ち出している。

 たしかに、キャリアメールを利用したい層はいるようだ。しかしそれは、明らかに若年層ではない。そしてahamoなどのプランは、若年層をターゲットとして、相当考え込まれたものだ。総務省の方針は、せっかくのキャリアの努力に水を差すものとなりかねない。携帯キャリア三社のうち、最初に低額料金プランを打ち出した勇気あるドコモのahamoを例にとって、この方針がいかに不適当であるかを説明したい。

若者に特化した料金プラン

ahamoの案内ページを閲覧すれば一目瞭然で分かるように、このプランは若年層向けのプランである。

 ahamoの料金プランはシンプルで、定額2,980円/月(税抜)で20GBのデータ通信が可能であり、かつ国内通話も、5分以内は無料となっている。もし無制限の通話をお求めであれば、月額1,000円(税抜)のオプションで可能となる。ドコモの高品質かつ安定的な4G/5Gネットワークを、この料金で利用可能となるのだ。

※3月1日の発表により、定額2,700円/月(税抜)に価格変更

 また、ahamoの最大のメリットは、データ通信20GBを超過した場合でも、最大1Mbpsという通信速度で利用可能な点だ。通常のメール送受信やSNS、インターネット閲覧程度であれば、問題なく利用できる。例えば、YouTubeの360p程度の標準画質であれば、もたつきも少なく視聴可能である。海外でのネット利用やテザリングさえも、追加費用なしに利用できる。

 大学等のオンライン授業を受けることも、この通信速度であれば可能だ。筆者は地方大学の教員であるが、360度動画の編集やアップロードなどを行うため、上限1Mbpsの速度制限にかかることが多くあった。それでも、講義での動画送受信や、教員とのオンライン会議で不便を被ったことは、まったくない。いわば、地方の若者の救世主的なプランなのである。

 そういう通信環境を、ドコモは月額3,000円を切る価格で提供しようというのだ。とはいえ、大幅な値下げであるから、当然コストを下げる必要がある。ahamoはドコモショップでは契約できず、オンラインによる申し込みに限定している。故障対応も、オンライン修理受付サービスのみの受付である。さらには、ドコモメールを利用不可とするなど、サービスの提供範囲を限定している。

 若者にとって、これらの制限はさほど不便にはならない。2018年に東京工科大学が行った大学新入生を対象とした調査では、普段、友人とのメッセージのやり取りで利用している連絡方法として、キャリアメールを選んだ割合は20.6%。2014年時の調査の71.4%に比べて大幅に下がっているから、現在ではさらに低い割合であることが推測される。日常の連絡では、ほとんどLINEなどが利用されているのである。

 そういった事情を踏まえたプランなのに、総務省は全年代に対する調査をもって、キャリアメールにはニーズがあるのだから、携帯キャリアはキャリアメールをahamoにも利用可能とすべきだというのである。それでは若者に「もし数百円の追加コストを払ってもキャリアメールを使用したいか」と聞いてみたらいい。ほぼすべての若者が、連絡はLINEなどでいいし、メールもgmailを活用すると答えるであろう。キャリアメールの「持ち出し」など、若者向けのプランには必要ないのである。

高齢者の教育機会とせよ

 若者だけではない。中高年層にも、もはやキャリアメールなどは必要ない。

 なんなら、高齢者に聞いてみたらいい。「キャリアメールに代わる無料のメールアドレスが自由に作れたり、電話さえも無料でできるアプリがあったりしたら、使いたいですか」と。そんな便利なものがあるのかと、ただちに教えを乞うであろう。実際、筆者が高齢者にLINEなどを教えると、喜んで利用するようになる。高齢者は、これまでキャリアメールを使ってきたから、いまもまだ使っているに過ぎない。ようするに、惰性で使っているのである。

 もしキャリアメールが一切なくなれば、キャリアの維持コストが下がり、軒並み契約料金が下げられるはずである。いってみれば、これまで若者は、使いもしないキャリアメールや、情報弱者の年配者のために大幅に時間を割くショップの維持のために、高額な通信費を支払ってきた被害者なのである。格安SIMなどの契約が増えたのも、お金のない若者の生活上の工夫によるものであり、そのニーズに対応して、キャリアもahamoなどのプランを打ち出したのだ。そういう民間の努力を、総務省はふいにしようとしている。

 結論はこうだ。いま利用者がいるからといって、キャリアメールなどはすでに過去の遺物なのであるから、この機会になくしてしまおう。そして日本のICTを発展させるには、ITリテラシーの低い高齢者に、教育の機会を設けることに注力すべきである。また若者も、フリーメールやLINEなどの便利さを高齢者に教え、利用料金の値下げを促進しよう。そうすることが、社会全体を豊かにする方法なのだから。

 ahamoは、20歳以上の個人であれば、契約できる。青春18きっぷを中高年が使えるように、ahamoもまた、中高年が使わない手はない。ほんの少しの勉強で、生活コストは大幅に削減できる。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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