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「弱いリーダー」というか「内向的なリーダー」が時代に合っている理由

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 11月27日、現代ビジネスに「「弱いリーダー」こそが、なぜか「大活躍する時代」になりそうなワケ」と題する記事が掲載された。

 ワンキャリアの執行役員、北野唯我氏の著書『分断を生むエジソン』について書かれた記事だ。すでに世界では、等身大の自分を伝えるリーダーの重要性が話し合われている。もちろんリーダーには「強さ」も必要だが、それだけでは、身の詰まるような息苦しさに押しつぶされてしまう。

 よって、これからのリーダーに求められるのは、従わせる姿勢ではなく、能力を発揮してもらう姿勢である、とのことだ。リーダーの飾らない姿を見せることで、組織のなかで信頼と安心感が醸成される。自ずとメンバーは、組織に貢献してくれるようになる。

 このような、「弱さ」を見せられるリーダーが好まれるとの見解は、実は結構前から存在する。1966年に、心理学者のエリオット・アロンソンは、プラットフォール効果を提唱した。有能な人やできる人が間違いを犯したり、弱さを見せたりすることで、周囲はむしろ魅力的だと感じるようになる。完璧ではないことがわかり、親近感がわくからである。

 とはいえ、これらはあくまでも「強さ」をもつリーダーが、「弱さ」を見せた場合について述べている。当記事では、これに加えて、新たな見解を示すことにしたい。すなわち、強い姿勢で引っ張っていくリーダーではなく、むしろ静かで目立たない「内向的なリーダー」のほうが、これからの時代には求められている、という見解である。

内向的なリーダー

 ペンシルベニア大学の心理学者アダム・グラントは、内向的なリーダーは外向的なリーダーよりも、物事によい結果をもたらすことがあると述べている。外向的なリーダーは、部下が受動的なタイプである場合に成果を上げるが、内向的なリーダーは、部下が能動的なタイプである場合に成果を上げるというのである。

 グラントらは、ピザ屋のチェーン店を対象に、調査を行った。まず、各店舗の店長に性格テストを行い、内向型か外向型かを明らかにする。その後、部下にインタビューをし、普段の働きぶりと一週間の売り上げとを比較する。すると、部下が受動的なタイプの場合、店長が外向型の店舗のほうが、内向型の店長の店舗よりも、売り上げが16%多かった。反対に、部下が能動的なタイプの場合、店長が内向型の店舗のほうが、外向型の店長の店舗よりも、売り上げが14%多かった。

 この理由を明らかにするために、次のような実験も行った。学生を5人ずつのチームに分け、10分間に何枚のTシャツを畳めるかを競わせる。各チームには内緒で2人ずつ役者を入れ、いくつかのチームでは受動的な態度をとり、リーダーの指示に従うよう促す。すると、外向型リーダーのチームのほうが、内向型リーダーのチームよりも、作業効率が22%高くなった。

 他のチームでは、役者がもっと効率的なやり方があるかもしれないとか、よりよい畳み方があるなどと発言し、能動的に振る舞う。すると、内向型リーダーは外向型リーダーよりも、役者からTシャツの畳み方を習う確率が20%高くなり、チームの作業効率も24%高くなった。

 このように、外向型のリーダーが適切な場合もあれば、内向型のリーダーが適切な場合もある。内向型のリーダーには、ガンジーやリンカーン、最近ではビル・ゲイツや、グーグルの創業者ラリー・ペイジといった人物が挙げられる。内向的な人がリーダーに向いていないとは、必ずしも言えないのである。

クリエイティブ時代のリーダー

 グラントによれば、内向的なリーダーは、積極的な人をうまくマネジメントして、よりよいアイディアを引き出すことができる。それに対して外向的なリーダーは、部下のアイディアよりも自分のアイディアのほうを信頼し、独りよがりになる傾向がある。その結果、部下の力は活かされなくなり、組織内で新たなアイディアが生まれることもまた、少なくなっていく。

 トロント大学のロジャー・マーティンは、あまりに強く、またいびつなリーダーシップは、メンバーを無責任体質にしてしまい、組織を崩壊させると述べている。リーダーが責任を負いすぎると、部下は自分の意思を発揮する機会が得られなくなる。そのため、自分の仕事に責任をもつ姿勢が育まれず、「無責任ウィルス」が蔓延してしまうのである。

 そしてこれからは、クリエイティブな能力が求められる時代だ。集団内で創造力を高めるには、個々のアイディアを引き出し、総合的に用いることが必要とされよう。そうであれば、クリエイティブな組織においては、内向的なリーダーのほうが適している。あるいは、役職上のリーダーには外向型の人を据えたとしても、実質的には内向型の人がチームをまとめ上げている状況のほうが、クリエイティブな組織には望ましいのである。

 さて、上に挙げた内向型のリーダーたちは、いずれも物静かでありながら、強い姿勢で未来を切り拓いた人物である。ロンドン大学のハンス・アイゼンクがいうように、内向的な人とは、目の前の課題に意識を集中させ、それとは関係のない事柄に労力を費やすのを避ける人のことである。彼らが物静かなのは、自己の内部で思考をめぐらすことに集中しているからである。

 よりよい解決法を生み出すリーダーこそ、新しい時代には適している。それは、内なる「強さ」をもちながらも、人の能力を活かせる環境を整えることのできるリーダーである。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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