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運転免許証、5年は返納すべきではない

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

 6月21日、nippon.comに「高齢者の運転免許自主返納が増加:道路交通法改正で認知機能検査強化」と題する記事が掲載された。

 アクセルとブレーキの踏み間違えや、高速道路の逆走による高齢ドライバーの重大事故が相次ぐなか、自動車運転免許証の自主返納を促す風潮が広がっている。記事にあるように、2017年は制度が始まって以来、最大の42万3800人が運転免許証を自主返納した。後期高齢者は、認知機能検査が強化されたこともあって、前年比56%増の25万3937人と急激に伸びている。

 そうはいっても、返納したのは全体のおよそ5%。地方の山間部あたりでは、バスや電車の利便性が悪く、自動車がなければ生活することができない。後期高齢者にふもとの街まで歩けというのは、あまりにも酷だ。運転免許の返納を促進させるには、彼ら交通弱者への手厚い支援が必要なのに、せいぜい各自治体が数万円程度の交通補助を出すくらいでお茶を濁している。各自治体による返納の特典がまとめられたサイトがあるので、よければご確認いただきたい。

 ようするに、現状において運転免許証の返納は、無理なのだ。無理を押してまで免許証を返納することはない。そればかりか、きたる未来を注視してみれば、いま運転免許証を返納してしまうことは、あまりにも無謀であることがわかるだろう。すなわち(完全)自動運転車は、あと数年もすれば実用化されるのである。

自動運転車が普及していく

 一口に自動運転と言っても、そのレベルは6段階に分かれている。アメリカの SAE International の定義によれば、レベル0が補助なし。レベル1がステアリングの操作か加減速のどちらかを、レベル2が両方を補助。そしてレベル3が、高速道路など一部の道路において、システムがすべての操作を行う段階である。いわゆる自動運転は、レベル3以上が想定されよう。

 レベル4はさらに進む。レベル3では、緊急時にはドライバーが操作する必要があったが、その必要もなくなる。したがって、例えば無人の高速バスなどは、天候等の悪条件がなければ、この段階でも実現は可能だろう。人件費とリスクを考えれば、高価なバスを購入しても割に合う。そしてレベル5では、すべての場所で完全自動運転が実現される。ドライバーが自ら運転する必要がなくなり、システムに任せれば目的に連れて行ってくれる。まさに夢のような自動車が生まれるのである。

 では、どこまでの実用化が可能か。各社の見解を踏まえれば、早ければ2020年代の初めには、技術的にはレベル5までが実現可能となる。たしかに一般に広く普及するには、むこう10年以上という長い時間が必要である。しかしシーンさえ限定すれば、いますぐにでもリリースすることが「可能」ではあるのだ。

 実用化の障壁は、おもに二点。ドライバーの心情と、保障を含めた政府の法的対応である。2017年8月24日、ガートナーは、2020年頃には複数の自動運転車の発売が開始されるものの、社会と経済に及ぼす本格的な影響は、2025年頃まで現れないとの見解を示した。調査によれば、55%が完全自動運転車には乗らないと回答し、71%が部分的な自動運転車であれば乗る、との回答を示している。簡単に理由を言えば、得体が知れず、おっかないからである。そういった国民感情に配慮して、政府は非常にゆるやかにしか、自動運転車の導入を認めないだろう。導入が遅れれば遅れるほど、経済的にも後れを取るというのに。

 したがってまた、運転免許は必要となる。数年内に、レベル5の技術を実装した自動車が現れることは確実である。しかし政府は、何か問題が起きては大変だから、ひとまず運転免許を必須条件としてしか、自動運転車に乗ることを許さないだろう。

 しかし逆に言えば、運転免許を持ってさえすれば、自己責任においてすべての運転を自動車に任せることができるようになる。よって、たしかに高齢者による重大事故は問題になってはいるが、それを理由に免許証返納とまで行くのは、早計と言わざるを得ない。ようは事故を起こさないように、いまは車には乗らない、とすればよいだけなのである。近い将来、高齢者による交通事故などは、ほぼゼロになるのだから。

日本の未来を侮ってはならない

 結論を言いたい。運転免許は保持し続けたまま、いまは乗らずに、便利な未来を期待して待つべし。当記事を読まれた方々は、ご両親にそのように伝えていただきたい。未来は開かれている。たとえ地方にいても、何の不自由もなく暮らせる時代は、すぐそこまで来ているのである。

 アクセルとブレーキの踏み間違えや、高速道路の逆走といった問題は、いま生じている問題である。バスや電車がなく、高齢者の移動手段がないという問題も、いま生じている問題である。しかるに、問題がなければビジネスは生まれない。言ってみれば、いま生じている問題は、ビジネスを加速させるための機会でしかないのである。

 問題を覆い隠したり、場当たり的に対処することでよしとするようではいけない。いま生じている問題の本質は、高齢者の事故が多発していることではなく、安全な移動手段がないことであろう。あるいは、地方が衰退する根本原因は、移動における不便さにこそある。

 だとしたら、わが国の政府は、自動運転車の実現のための法整備やインフラの支援を、他国に先んじて推し進めなければならない。そうすることで、わが国の根幹でもある自動車産業を、今後も維持発展させることができるようになる。トヨタや日産から、多額の税金が入る。われわれ日本国民は、ウハウハである。

 日本の未来を侮ってはならない。そのような姿勢では、未来に対する希望を小さく捉えてしまい、ビジネスの機会に目が向けられなくなるだろう。大丈夫、日本人は強い。未来に希望をもつ者の意思表明として、自動車の運転免許証を保持し続けようではないか。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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