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激動の時代に生き延びるための人生設計 キャリアプランなど捨ててしまおう

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

 10月19日、「「日本経済、一寸先は闇」なのは当たり前だ 考え方から変えていこう」という記事を書いた。

 少し長めの記事だが、お目通し願いたい。我が国の企業のうち、現在の主要事業の5年後の見通しが立たないと考えているのは、7割超である。テクノロジーの急速な進展により、現在のビジネスが存続するかどうかは、わからなくなっているということだ。

 しかし、記事に書いたように、5年後の見通しが立たないのは、当たり前である。逆に、AIやIoTといった新興テクノロジーが台頭するなか、見通しが立つと思っている企業のほうが危うい。変化を正しく捉え、柔軟に対応していく姿勢が、この激動の時代には求められる。

 ところで、このことは企業だけでなく、人間個人にとっても同じである。企業の将来の見通しが立たないということは、そこにおける職務が流動的であることを意味する。人間は人生の大半を仕事に費やすのであるから、職務設計ができないということは、すなわち人生設計ができないということである。今さら言うまでもないが、我々の現在の仕事の半数近くが、機械によって行われるようになるという研究結果もある。もはや明日のことは、誰にもわからなくなっているのである。

 先の記事では、これからの時代を生き延びるためのマインドセットについて述べた。しかしながら、頑張れば何とかなるぞと言うだけでは、少し無責任のように思われる。努力が報われるには、正しく努力することが必要だからある。すなわち、努力には戦略の観点が必要なのである。

 新しく到来する時代における「よい戦略」について、ざっくりと述べていきたい。

変化に対応する力を育む

 J・C・ワイリーは戦略を、順次戦略と累積戦略の二つに分類している。

 順次戦略は、我々が「戦略」と呼ぶときにイメージするときのような戦略であり、目標に到達するために、段階を追って一歩一歩進んでいく戦略である。対して累積戦略とは、力を育成するときのような戦略であり、習慣的に繰り返して小さな達成を積み重ねることで、突発的に全体として達成と呼ばれる段階に到達する戦略である。実のところ、変化の激しい時代においては、累積戦略の観点がきわめて重要になる。段階を追っていくことよりも、状況に応じて力を発揮することのほうが求められるからである。

 前回の記事ですでに述べたが、激動の時代だからといって、不安に思うことはない。変化が激しいということは、自分の成長の機会、力を培う機会があふれているということである。いわば我々は、この時代に生まれて、ラッキーなのである。終わりなき日常の中で退屈な毎日を過ごすよりも、それなりにヒリヒリしながら生きていたほうが、人生は面白い。クリボーもノコノコも出てこない、穴にも落ちないマリオなど、誰も遊ぼうとは思わないだろう。

 ただし、新しい時代におけるマリオは、予定調和的なマリオではない。コースがめちゃくちゃに変わるし、この場面でこの敵が現れるといった法則もまた存在しない。経験則がまったく通じないのが、新しい時代におけるマリオという名の人生ゲームである。そういう時代に必要とされる能力を、いまのうちに培っておかなければならない。

 必要なのは、いつどこで、どのような敵が現れても瞬時に対応できる、俊敏性である。それから、いま起きていることを正しく解釈するための洞察力、ならびに、おそらく次にはこうくるであろうと感覚的にわかることのできる、直観力である。ところで、なぜマリオの話をしたかといえば、例えばYouTubeに明日香ちゃんねるというチャンネルがあって、スーパーマリオメーカーのプレイ動画が流されているのだが、この人はマリオがすこぶるうまい。どうやらマリオをやりこんだおかげで、いかなるステージであっても、初見である程度は進むことができるレベルまで到達したようである。俊敏性、洞察力、直観力は、累積的に培われる。それらが求められる経験を、日常的に行っていたほうがよい。

 経験することは、パターンを知ることだけでなく、鍛錬を行うということでもある。しかし、筋トレやダイエットが続かないように、きついことは続かないものである。そうであるから、まぁ人生などはゲームだと思って、楽しみながらやったほうがいい。そのほうが長く続くし、どうやら能力の習得も早いようである

「しなやか戦略」にシフトする

 企業は、多大な労力をかけて、3年から5年スパンの中期経営計画を立てる。あるべき姿と現状とのギャップを埋めるために、具体的にいかなるプロセスを歩んでいくかを計画するのが、中期経営計画である。売上や利益を中心に、数値的観点から達成目標を定めるとともに、具体的な課題設定も行われる。

 しかしながら、激動の時代がどうこうという前に、3年とか5年といった固定的な期間のなかで計画を立て、それを実行するように努めるというのは、そもそもからいって間違いである。カリフォルニア大学のリチャード・ルメルト教授は『よい戦略、悪い戦略』のなかで、戦略は必要に応じて立てるべきであり、例えば予算編成とセットにして年中行事のように立てるなどといったことはおかしいと述べている。なぜなら戦略とは、何らかの難局に直面するなど、具体的な課題を前にして、行動を指し示すものだからである。課題は、状況に応じて変化する。ある一定の時期にやると決め、最初に計画するような類のものではないのである。

 重要なのは、直面する状況の中から死活的に重要な要素を見つけることである。そこに自身の資源を集中することで、成果を上げるのが、戦略である。よって戦略は、具体的な行動がわかるものでなければならない。あれもこれもというのは、戦略ではないのである。どうして戦略があいまいになってしまうかといえば、それは到達目標を明確にしていないからである。ゆえに、到達目標に至るには何が重要であって、何が取るに足りないものかを判別し、後者を捨て去ることができないのである。

 まずは、目的を明確にする必要がある。その目的は、どこに到達したときに、達成されたということができるのか。この考え方さえ理解できていれば、たとえ到達目標が変わったとしても、目的に至るための道筋を新たに作り上げることができる。戦略の策定とは手段の選択の問題であって、いかなる手段であっても、目的に到達することができればよいのである。

 これらのことは、企業だけでなく、人間個人においても同様である。過去に作成したキャリアプランを見返せばわかるように、変化したいまの状況においては、それはほとんど役に立たなくなっているだろう。激動の時代においては、状況の変化が激しい。そうであるから、ひとたび選択された手段は、それが戦略策定の時期であるかどうかとは関係なく、変えてしまってよいのである。

 このことは、戦略の策定には意味がないということではない。逆であり、変化の激しい時代においては、むしろ全体を一つの方向に規定し続けるために、戦略はつねに明確にしておかなければならない。ようするに、戦略立案のスピード、ゆえに意思決定のスピードが速まっているのであって、もしかしたら今日つくり上げた戦略は、まさに明日、作り直す必要があるかもしれないのである。

 決まっていることをただ実行するという姿勢は、きっぱりとやめてしまうことである。決まっていることなど、もはやどこにもない。よって、すでに決まっていること、予定路線にあるものは、つねに疑いの目をもって見ておくべきである。状況の変化が、行動を規定する。状況の変化をみるために、洞察力と直観力が必要とされる。そして、新たな戦略を策定し、実行に移すには、俊敏性が用いられる。培われた三つの力は、新しい時代において、よき行動を選択し、成果を生み出すための、基礎的な力となるのである。

 激動の時代に生き延びるためには、一度立てた人生設計などは、いつでも捨ててしまう姿勢が求められる。だからこそ、まずは成長志向のマインドセットが重要なのである。大丈夫。頑張ればなんとかなる。ただし、自身にとっての成功の姿を見出し、そこに至るためには何を頑張るのかは、明確にしておかなければならない。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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