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鳩山元首相「香港人権法」を批判 習近平と会見も

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
2009年、来日し歓迎夕食会に出席した時の習近平副主席と鳩山首相(写真:ロイター/アフロ)

 1日、広州の従都国際フォーラムに出席した鳩山氏は米国の香港人権民主法は越権だと批判し、3日、参加者とともに習主席と会見。中国メディアはこの会見を宣伝用に使った。習主席を国賓として招待すれば、こうして利用される。

◆鳩山由紀夫元首相、「香港人権民主法」は越権だとフォーラムで

  12月1日、中国の広東省広州市の従都で、「多国間主義と持続可能な発展」をテーマにした「2019従都国際フォーラム」が開催された。従都というのは広州市従北区にあるリゾート地だ。そこには、外国の元政治家や、国際組織の関係者なども招聘されて、スピーチを行ったのだが、日本からは鳩山由紀夫元首相が出席している。

  そのフォーラムで鳩山氏は「アメリカによる覇権時代は必ず終わらせなければならない」とか「アメリカの香港人権民主法は中国に対する越権である」などと主張したために、中国共産党系メディアや、中国政府系メディアが、ここぞとばかりに一斉に報道した。

 中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球網」は12月2日、「アメリカという一つの国家による覇権時代は必ず終わらせなければならない!」という見出しで、鳩山氏の発言内容を報道している。

 記事は「中国香港の自由を求める学生たちの背後には明らかにアメリカの影がある」と銘打った上で、日本の鳩山元首相が「アメリカの中国に対する様々な不当な挑戦に対して直接厳しい批判をした」として、鳩山氏の発言を以下のように紹介している。

 ●経済面において快速な成長を続けている中国に対して、アメリカのやり方は、以前の日本に対するやり方と同じで、対中貿易戦争を発動している。

 ●そればかりでなく、米議会は最近、トランプの署名により「2019香港人権民主法案」を成立させているが、これは明らかに中国に対する内政干渉だ。

 ●アメリカという一つの国家による覇権時代は必ず終わらせなければならない!

 環球網は、さらに鳩山氏がこの国際フォーラム期間中に、何度も「中国が世界多国間主義を貫くことによって世界にいかに貢献しているか」と中国を高く評価したと報道している。

 たとえば12月2日のフォーラムの「グローバル新秩序の構築」をテーマとする分科会において、鳩山氏は「中国は軍事的にアメリカに対抗できる唯一の大国だが、しかし中国の指導者は決して軍事的対抗をしようとは思っていない。それどころか、多国間主義を貫いて、世界平和を達成しようと希望している」と述べているとのこと。鳩山氏は「中国、韓国、日本および東南アジア諸国による東アジア共同体」の形成がいかに重要であるかを強調したようだ。

 この文脈から言うと、中国という大国を中心として「日本や韓国および東南アジア諸国」が協力し合って、アメリカに対抗できる共同体を形成していくということになる。

 中央テレビ局CCTVも「日本に対して行なったのと同じようなことを中国に対してやっている?鳩山由紀夫:アメリカは覇権の地位を保とうと目論んでいる」という見出しで12月3日にテレビで報道し、かつ文字化した文章もネットで発表している。

 これらの情報は多くの中国メディアに転載され、ネットをにぎわせている。

◆鳩山氏:日中関係は改善と発展を得ることができた

 中国政府の通信社「新華社」の電子版「新華網」は2日、鳩山氏を特別インタビューして「独占取材:日中関係は改善と発展を遂げた――鳩山由紀夫元首相をインタビュー」という見出しで報道している。

 鳩山氏は以下のように中国を絶賛したそうだ。

 1.中国はずっと一国主義に反対し、常に各国との平等な協力を堅持し、互いに歩み寄り、多国間主義を守るために顕著な役割を果たしてきた。

 2.中国は国内で脱貧困事業に集中的に力を投入し、目覚ましい業績を遂げた。

 3.国際的には、中国は「一帯一路」協力を呼びかけ、発展途上国に素晴らしい発展のチャンスを提供している。それによって「一帯一路」沿線国の民衆の生活を大々的に向上させ、全世界の貧困脱却の目標実現に向けて絶大な貢献をしてきた。

 4.日本も是非ともより多く「一帯一路」建設に参画していかなければならない。

 おやっ?

 最後の「」の言葉は、どこかで聞いたことがあるのではないだろうか。

 今年4月26日付のコラム<中国に懐柔された二階幹事長――「一帯一路」に呑みこまれる日本>で述べたように、自民党の二階幹事長が言っていた言葉と同じような気がするのは、筆者一人ではあるまい。

 おまけに、そのコラムの中で書いたように二階幹事長は「米国の顔色をうかがって日中の問題を考えていくものではない」とさえ強調している(産経新聞 など)。

 この言葉は、4月23日に行われた「役員連絡会後 二階幹事長記者会見」でも公開されているので、報道に間違いがあるとは思えない。この記者会見の最後のQ&Aに、

 Q:毎日新聞です。明日から幹事長は訪中されます。中国の一帯一路については、アメリカの対応に配慮して、日本政府も閣僚の派遣を見送っております。その中で幹事長は訪中の意義についてどうお考えですか。

 A:これはお隣の国ですし、大変日本にとっては重要な国であります。アメリカの御機嫌をお伺いしながら日中関係をやって行くのではありません。日本は日本として独自の考えで中国と対応をしていく、こういうことです。アメリカから特別の意見があったら承りますが、それに従うつもりは無いです。

というのがある。

 どうも最近、与野党の政策的対立軸が見えず、国会には「桜」しか咲いていないようだが、なんと、自民党幹事長の意見と元民主党から出た首相との主張は、どうやら一致していたようだ。

 これでは私などがどんなに「習近平を国賓として招聘することには断固反対する」と書きまくっても、日本政府は動かない可能性がある。それがどれほど売国的な悲劇をもたらすか、日本の与野党双方に見えていないということになろうか。

◆習近平国家主席とも集団会見した鳩山氏

 12月3日、習近平国家主席は「2019従都国際フォーラム」に参加した外国の参加者を北京の人民大会堂に呼んで会見した

 その席で習近平は「中国は国際関係において平等互恵を堅持しており、各国と共同で人類運命共同体を構築していきたいと考えている」、「グローバル・ガバナンスは現在、複雑な情勢に直面している。各国はそれぞれの使命と責任を担い、建設的な対話を行うべきであり、小異を残して大同につき、多国間主義を堅持し、人類運命共同体の構築という壮大な目標の実現に向けてプラスのエネルギーを注入すべきである」などと、「人類運命共同体」を強調し、「アメリカとは違う」印象を与えることに注力している。

 この言葉に吸い込まれていく日本の政治家は与野党区別なく数多くいるため、いま世界がどこに向かおうとしているのか、日本がその中でどのような役割を果たす羽目になろうとしているのか、日本の政治家には何も見えなくなっているのかもしれない。

◆日本はこのままでいいのか?――習近平国賓招聘に反対表明を!

 日中戦争時代、あまり武器を多くは持つことができなかった中国共産党は、言葉によって農民を引き寄せようとした。つまりプロパガンダによって中国共産党への礼賛者を増やしていこうとしたのだ。以来、プロパガンダこそが中国共産党の武器となっている。文学性豊かだった毛沢東は、人民を引き寄せる言葉を操ることに長けていた。今では中国共産党中央委員会対外聯絡部が各国の政権与党における大物にターゲットを当て、それと分からないように囲い込み、中国に引き寄せる戦略を実行している。

 それにまんまと嵌(はま)ってしまっているのが、日本の政治家だ。

 なぜ習近平を国賓として招聘してはならないかに関しては、これまで繰り返し繰り返し、その理由を書いてきた。もう繰り返さないが、せめて現在起きていることだけでも直視してほしい。

 香港では何が起きているのか。

 ウイグルに関してどれだけ非人道的で残虐なことをやり続けているのか。

 12月4日、米議会下院は「ウイグル人権法案」を可決した。中国では内政干渉だとして激しく反発している。それはまた書くとして、このような状況下で習近平側に立つということが、全世界にどのようなメッセ―ジを発していくかを考えて欲しい。

 安倍首相が習近平国家主席を国賓として招聘すれば、当然、天皇陛下に拝謁することになるだろう。

 中国は天皇陛下のお姿を含め、「日本が中国共産党政権のやり方を肯定した」として、大々的な宣伝材料として使うだろう。

 そして世界の多くの国に中国の人権弾圧、言論弾圧はないものとして、中国共産党の現在のやり方を肯定させる道具として使うのである。

 それだけでは済まない。必ず返礼として現在の新しい天皇陛下御夫妻の訪中を強要してくる。

 そして言論弾圧と人権弾圧をほしいままにして、きれい事を言っている中国共産党政権が世界を制覇することになるのである。日本は中国がアメリカを凌駕することに力を貸しているのだ。

 それでいいのか?

 日本の政界はなかなか動きそうにない。

 だから、国民の皆様にお願いしたい。

 このコラムを読んで下さるネットユーザーの方たち、どうか力を貸してほしい。共に日本のあるべき姿を考えていこうではないか。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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