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香港民主派圧勝、北京惨敗、そして日本は?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
自由と民主のために命を懸ける香港の若者たち(写真:ロイター/アフロ)

 24日の香港区議選で民主派が圧勝した。香港市民はみな「暴徒」を憎んでいると言い続けた北京政府は惨敗した。このような中、日本が習近平を国賓として招聘するのは如何なるシグナルを世界に発信することになるのか?

◆驚くべき選挙結果

 香港で24日に行われた区議会選挙は、民主派の圧勝に終わった。452議席のうち、民主派が388議席で、親中派(建制派)が59議席となった。中立(民主派でも親中派でもない)が5人いる。最終的な正しいデータはこちらで見ることができる。それによれば、獲得議席の増減と占有率は

    民主派:388議席(263議席増)85.8%

    親中派: 59議席(240議席減)13.0%

という、驚くべき結果となっている。民主派と親中派の議席数は、これまでと完全に逆転しただけでなく、その逆転さえも大幅に上回っている。

 原因としては、多くの若者が投票に行ったことが挙げられる。

 区議会選挙には選挙権のあるすべての香港市民が投票する権利を持っているので、最も香港市民の民意が表れる選挙である。従って、今年6月から始まった香港政府への抗議デモに対する香港市民の「審判」であると位置づけることができる。

たとえ警察の、あまりに理不尽な暴力に対する反抗であるとはいえ、後半ではデモ側にも火炎瓶を投げるなどの暴力行為があったために、一般市民の反発が懸念され、投票結果に世界中が注目していたと言っても過言ではない。

 そのような中での民主派の圧勝は、「サイレント・マジョリティ」が、実は政府に反抗し警察と闘う若者たちを応援していたということを証明し、民主と自由を目指す人々に希望を与えてくれた。誰もが拍手喝采をしたい気持ちになっただろう。

 もっとも、投票率自体は71.23%という高い数値だが(2015年は47.01%)、各陣営の獲得した投票数とパーセンテージを見ると

    民主派:1,673,834票(57%)

    親中派:1,206,645票(41%)

となっており、その差は467,189票(46万7千票)で、選挙民全体が選んだ全体の得票率は約「6対4」という対比になっている。

 したがって、なかなか手放しで喜ぶわけにはいかないが、少なくとも「北京の惨敗」であることだけは断言できる。

◆北京の惨敗を、北京政府はどう受け止めているのか

 では北京政府はどのようにこの事態を受け止めているのだろうか?

 まず中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」の報道を見てみよう。

 11月26日に、「香港特区第六回区議会選挙終わる」というタイトルで報道し、「終わった」という事実しか報道していない。5ヵ月にわたって、「暴徒」が外部勢力(=アメリカ)の扇動により香港社会の分裂を図ったため経済や民生が著しく阻害され、選挙当日においても「暴徒」が「国を愛し香港を愛する」選挙候補者に暴力的行為を行って選挙を妨害したとし、「従って目下の任務は暴力を制止して秩序を取り戻すことにある」と結論付けている。

 これは新華社の電子版でも報道している。

 6月以来、デモ参加者を「暴徒」、ときには「テロ分子」とさえ位置づけ、選挙前日まで「香港市民はみな、これら暴徒に激しい怒りを覚えている」と叫び続けていた中央テレビ局CCTVはすっかり鳴りを潜め、もっぱらアメリカの上院と下院の両方で議決された「香港人権・民主法案」に焦点を絞り始めた。もし本法案が発効したら、中国は断固「確固たる報復措置を取る!」「一切の悪い結果はアメリカが負う」と激しい意思表示をしている。「発効する」ということは即ち、「トランプ大統領が署名したら」ということを意味する。

「さあ、署名できるものなら、してみろ」という姿勢がCCTVの画面から溢れ出ている。こういう時にこそ、トランプ大統領には迷わず署名してほしいが、米中貿易戦争を米側に有利に運ぶために、習近平へのカードとして使うべく、まだ署名はしていない。 

◆日本は習近平を国賓として招聘すべきではない

 中国が香港に対して高圧的になってきたのは経済力を蓄えてきたからで、経済力や軍事力が弱かったら、ここまで強硬な態度には出られない。

 何度もくり返して申し訳ないが、1989年6月4日の天安門事件を受けて西側諸国が対中経済封鎖に出た時に、それを最初に破ったのは日本だ。当時の宇野首相は経済界のニーズに押されて「中国を孤立させるべきではない」と主張し、1991年には海部首相が円借款を再開し、西側諸国から背信行為として非難された。さらに1992年10月には天皇陛下訪中まで実現させてしまう。すると中国の目論み通り、アメリカも直ちに対中経済封鎖を解除して、西側諸国はわれ先にと中国への投資を競うようになるのである。

 2019年1月24日付のコラム「日ロ交渉:日本の対ロ対中外交敗北(1992)はもう取り返せない」にもグラフを掲載してご説明したが、もう一度ここに掲載する。

画像

 これは2016年に、中国の中央行政省庁の一つである商務部が描いた「1984年以降に中国が獲得した外資の年平均増加率と投資規模」である。1992年~93の赤色のカーブに注目して頂くと、外資の対中投資増加率が急増しているのが歴然と見て取れる。日本が天皇訪中を断行して低迷した中国経済に弾みをつけ、アメリカをはじめとした西側諸国が先を争って対中投資に雪崩れ込んでいった証拠が、このグラフに表れている。

 こうして日本は中国の経済発展に手を貸して、今や日本のGDPは中国の3分の1ほどしかないという体たらくだ。

 その中国にひれ伏して、習近平国家主席を国賓として招こうとしている。

 中国が米中貿易戦争で消耗し、困窮しているために日本に微笑みかけているのは、世界中の誰の目にも明らかだろう。

 香港の民主と自由を踏みにじる中国の国家主席を、日本は熱烈に歓迎するということは、習近平政権の人権弾圧を肯定するというメッセージを全世界に発信するに等しい。

 EU離脱で経済が混迷を極め、中国に頼るしかなくなっているイギリスでさえ、11月25日、中国西部の新疆ウイグル自治区に、国連監視団が「即時かつ無制限にアクセス」できるよう、中国政府に求めている

 まさに「西側諸国」がこうして勇気を出して中国に「自由と民主」を強い具体的な形で要求しているというのに、日本は「自由と民主」を踏みにじる中国におもねり、その国の国家主席を国賓として招き、中国の言論弾圧と人権蹂躙にお墨付きを与えようとしているのである。

 国賓として来日するということは、天皇陛下に拝謁することになる。

 即位なさったばかりの天皇陛下を政治利用しようというのか。

 それとも人気取りのためなのか?

 国民の税金は、このような目的に使われるべきではない。

 中国のことだ。江沢民同様に、今度は令和時代の新天皇陛下の訪中を要求し始めないとも限らない。こうして日本はどこまでも中国に利用され、尊厳を失っていく。

 1992年の時は日本を追い抜くために日本を利用した中国だが、今回はアメリカを凌駕するために日本を利用しているのである。

 それが日本国民に如何なる幸せをもたらすのか。習近平の国賓招聘は絶対に反対だ。安倍首相には猛省を求めたい。

 (習近平を国賓として招くべきではない理由の詳細に関しては、拙著『米中貿易戦争の裏側』で考察した。)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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