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Huaweiが5G半導体をAppleにだけ外販?――Huaweiの逆襲

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
Huawei「5G」(写真:ロイター/アフロ)

「HuaweiがAppleにだけ5G半導体を外販か?」というショッキングなニュースが中国メディアを駆け巡った。もし実現したらHuaweiには安全上の問題があるとして排除してきたアメリカはどうするのか?(文末に重要な緊急情報があります。)

◆第一報は新浪科技

 このショッキングなニュースを最初に報じたのは中国のポータルサイト「新浪」の科学技術版「新浪科技」で(2019年04月09日 07:40)、見出しには「華為(Huawei)がもしかしたら5G半導体を外販するかもしれない 但しAppleに対してだけ」とある。

 それによれば、4月9日午前、エンガジェット(Engadget)が、「内部情報に精通している関係者が『華為が5G半導体を外販してもいいと言っているらしい。ただし、アップルに対してのみだ』と述べている」と報道しているというのだ。「エンガジェット」とは多言語で展開されている電化製品やガジェット(小型のデジタル電子機器など)の話題を取り扱うテクノロジー専門のブログである。

 HuaweiとApple は競合関係にあるはずなのに、なぜこの2社が協力するのか。

 報道はHuaweiが今年1月24日に、5G対応のマルチモード・チップセット「巴(ba)龍(long) Balong(バロン)5000」を発表したばかりではないかと訝(いぶか)しがっている。

 マルチモードというのは2G~5Gまでを指し、Balong5000は、それら全てをサポートするチップセットで、短時間でのモード切り替えが可能だ。

 このとき発表されたBalong5000搭載のHuawei5G CPE Proは、まさに4月11日付けコラム<中国政府が遂にHuaweiと組む――「5G+4K・8K」で>で触れた「8K」に遅延なく対応できる。

 またHuawei は2月24日に5G対応折りたたみスマホ「Mate X」を発表したばかりだ。まさか、その5G半導体をアップルに売るというのではあるまいとばかりに、報道は驚きを隠さない。アップルは未だに5G製品を発表できずにいる。

◆身内(国内)には外販しないのに、なぜAppleに?

 Huawei が遂に半導体を外販する――?

 衝撃にも似た報道が中文ネットを覆った。

 数多く出た報道の中で、最も説得力があるのは「漢風1918」に載った<華為は身内には半導体を売らないのに、なぜアップルに対してのみ開放する可能性があるのか>だ。この論考に書いてある概要を、筆者による補足説明も含めて、大まかに以下に示す。

 最近、Appleは四方八方に5Gのベースバンド・チップ(基帯芯片)を購入したいと申し出ているようだが、大きな進展がないまま、遂にHuawei が5G半導体をAppleに販売する可能性が出てきた。

 本日(4月11日)の「Huawei P30」発表会でHuaweiの消費者事業担当の余承東CEOが記者の質問に「Huawei はAppleに対しては開放的な姿勢でいる。ただアメリカが何としてもHuaweiを打倒したいと躍起になっているだけだ。だからAppleがHuaweiの半導体を使いたいと思っても、アメリカ政府から制限を受けて使うことが困難だろう」と回答した。

 これは何とも興味深い展開ではないか。

 AppleはiPhoneなどのスマート製品を生産するに当たり、アプリケーション・プロセッサーを自社で設計してきたが(それがAppleの強み)、ベースバンド・プロセッサーを作る技術を持っていない。そのほとんどをクァルコムから購入していた。しかしどの生産者にとっても、特定の半導体メーカーからのみキーパーツの提供を受けているのは常に危険を伴うものだ。たとえばそのメーカーの半導体に不具合が生じたとすると、すべての生産ラインがストップしてしまう。またその特定の半導体メーカーと何かしらのイザコザが起きたりした場合も、大きな打撃を受けることになる。

 だからAppleは、万一の場合に備えて、半導体の一部をインテルから購入して危険回避をしようとした。しかし、そのことがクァルコムとの間の紛争の種になってしまった。クァルコムにしてみれば、Appleの態度がでかい(店大欺客)ので、面白くないと思ったようだ。

 そこで、クァルコムが特許に関してAppleを訴えて両社は係争関係になってしまった。Appleは通信領域での特許が少ないため、その弱みに付け込んだ形だ。

 しかし争い始めたからには、Appleにしてみれば、クァルコムのベースバンド・チップを使うことは、すなわちクァルコムに降参したことを意味する。だからクァルコムのCEOが、「もしクァルコムのチップを使いたかったら、電話をかけてくるだけでいいよ」と善意のシグナルを発したにもかかわらず、Appleにとっては、その一本の電話をかけるのは天まで登るよりも困難なことなのである。

 となるとAppleには二つの選択しかない。

 一つは半導体の自主開発をすることで、もう一つはクァルコム以外の半導体メーカーから、クァルコム級の半導体を購入することだ。

 自主開発は膨大な時間を要する。その間にテクノロジーの世界は大きく変わってしまうだろう。したがってクァルコム以外の他社から購入する以外にないのである。

 いま世界には、クァルコムに近い半導体を製造できるメーカーはほんの僅かしかない。

 インテル、Huawei、Media Tek、サムスンくらいのものだろう。

 インテルはクァルコムとの紛争の種を生んだメーカーであるだけでなく、4Gでさえ必ずしも評判がいいわけではない。Media Tekは3Gや4Gまでなら技術も悪くなかったが、5Gとなるとクァルコムには遠く及ばない。サムスンは売りたがっていない。

 となれば、残るはHuaweiだけであることは明白だ。

 AppleはHuaweiから5G半導体を買うしかないのである。

 Huaweiの頭脳であるハイシリコン(海思)の技術は高く、麒麟980のレベルは世界一流に達している。バロン5000に至っては、5G対応のマルチチップセットとして世界の最高レベルだ。

 ただ、創業以来、Huawei傘下のハイシリコン半導体は外販しないことになっている。

 外販しないのは国内における競争力を低下させてしまうからだろう(敵に塩を送ることになる)。

 だというのに、なぜAppleには売るというのか?

 それは、アメリカがHuaweiには安全上の問題があると攻撃しているからだ。

 その問題のあるHuaweiの5G半導体をAppleが使うとすれば、どういうことが起きるだろうか?

 もし、アメリカの批判が正しいのならば、Appleの製品もまた、安全上の問題があるということになってしまう。

 さあ、アメリカ政府よ、どうする――?

 Appleがどんなに困っていても、Huaweiの5Gチップを使ってはならないと命令できるのか?

 見ものではないか。

 以上が「漢風1918」の論考である。

◆中国共産党系の「環球網」が「トランプは脳溢血を起こすだろう!」

 中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」電子版「環球網」が4月15日、「Huaweiが5G半導体をAppleに売ってもいいと! ネット民:今回はトランプが本当に脳溢血を起こすだろう」という見出しで、Huawei の任正非CEOのインタビューを報道している。

 任正非氏を直接インタビューしたのはアメリカの大手テレビ局(ニュース専門)の一つであるCNBCだ。今回の報道のほとんどは、英文と中文の両方で書かれているので、中国語の簡体字が苦手な日本人にも便利かもしれない。

 したがって多くをご紹介しなくとも、大方おわかりいただけるものと思うが、要点だけいくつか押さえておこう。

1.HuaweiはAppleに5G半導体を販売するという開放的な態度を示したが、これは、重要なる戦略転換を意味する。

2.CNBCのインタビューに答えて、Huaweiの創始者任正非CEOは「Huaweiは5G半導体をAppleに売ることを検討したいと思っている」と言った。

3.任正非は、Appleのスティーブ・ジョブス(Steve Jobs)を高く評価した。

 「彼がAppleを創りあげたが故ではなく、彼が一つの時代、移動インターネットの時代を創りあげたが故に、私は彼を尊敬する。彼は偉大だ」と任正非は言った。

4.もしAppleがHuawei半導体を買いたいと言って来たら、Huaweiは承諾する。

5.最後に環球網は、ネット民の声を紹介している。

  ――もしAppleが本当にHuaweiの半導体を使うことになったら、トランプは怒りのあまり、脳溢血をおこすのではないだろうか。

◆Huaweiの逆襲が始まった

 Huaweiは今般の「5G半導体をAppleにだけなら売ってもいい」という情報を発することによって、アメリカ政府と中国政府の両方に逆襲を始めたと考えていい。

 先ずHuaweiは上述の通り、アメリカ政府に皮肉を込めた挑戦状を突きつけたことになる。「AppleがもしHuaweiの5G半導体を使えば、アメリカはApple製品をも世界中から排除せよと命令しなければならなくなるが、それでいいのか」という挑戦状だ。それもニッコリと笑いながらだ。環球時報に載っているCNBC取材時の任正非の顔には、ゆとりの笑みがある。

 次に中国政府に対して。

 冒頭に書いた「新浪科技」の第一報が報じられたのは「4月9日」だったが、先述の4月11日付けコラム<中国政府が遂にHuaweiと組む――「5G+4K・8K」>で述べたように、中央テレビ局CCTVが国家プロジェクトに初めてHuaweiを入れると発表したのも「4月9日」だった。

 この符合は注目に値する。

 Huaweiが中国国内にはその子会社ハイシリコンの半導体を外販しないのに、中国政府がHuaweiを冷遇している内に、なんとHuaweiが、こともあろうに最大の政敵であるアメリカの企業に核心技術の5G半導体を販売する――

 そんなことがあっていいはずがないと、中国政府が慌てて折れたのではないかと推測される。

 なぜなら「スーパーハイビジョン映像産業発展行動計画」が発布されたのが3月1日で、そのときには文書では如何なる協力企業名も発表していなかった。Huaweiのことを発表したのは4月9日、CCTVで「突然」という形だった。

 BGM代わりにCCTVの音だけ流しながらパソコンのキーボードを打つことに没頭していた筆者の耳に、突然「hua-wei(ホァ-ウェイ)」という「音」が入ってきたのだ。ハッとしてテレビ画面を観ると、キャスターが早口で「Huawei がスーパーハイビジョン映像産業発展行動計画のプラットフォーム(平台)企業に入った」ともう一度繰り返して言ったのである。

 他の国家戦略に関するプラットフォームに関しては文書で発表している。しかしこの度の行動計画に関しては「CCTVがこのように報道しました」という形で報道されただけだ。

 中国政府の慌てぶりが目に見えるようだ。

 1993年に国務院がHuaweiを潰そうとして発布した文書以来、中国政府とHuaweiの暗闘は国有企業ZTEを通して密かに展開されてきたが、この勝負、「Huaweiの勝ち」と言っていいだろう。Huaweiは中国政府に屈服することなく、中国政府を譲歩させたことになる。

 中国政府と中国の民間企業との関係は微妙だ。

 あの一党支配体制の国で、民間企業に自由などあるはずがないと日本人には見えるだろうが、実際は必ずしもそうではない。これに関しては中国社会の「根本」を書かねばならないので、又の機会にしよう。長くなり過ぎた。

 なお、AppleはまだHuaweiに電話を掛けてないようだ。

 クァルコムには掛けないが、Huaweiには掛けるのか――?

追記:このコラムをアップした直後に、「Appleとクァルコムが和解」というニュースが入った。Huaweiの逆襲が、和解の一因にもなったのだろうか……。インテルは5Gベースバンド事業から撤退するそうだ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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