Yahoo!ニュース

Hua-wei(ホァーウェイ)孟CFO逮捕の背景に「中国製造2025」

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国のHua-wei(華為、ホァーウェイ)(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカ当局の要請で、Hua-wei創業者の娘がカナダで逮捕された。Hua-weiの子会社ハイシリコンはアメリカ大手半導体メーカー・クァルコムと鎬を削っている。「中国製造2025」を巡る米中ハイテク戦争が火を噴き始めた。

◆中国トップの半導体メーカーを擁するHua-wei(ホァーウェイ)

 2009年における半導体メーカーのトップ50に2社しか入っていなかった中国の半導体メーカーは、2016年には11社に増え、2017年になるとトップ10に2社も入るようになった。2015年5月から実行し始めた「中国製造2025」という国策があるからだ。

 その先端を走っているのがHua-wei(華為、ホァーウェイ)(以下、ホァーウェイ)の子会社ハイシリコンだ。

 ハイシリコンは2004年にホァーウェイから独立して、専ら半導体の研究開発に専念する半導体メーカーである。ただしハイシリコンで研究開発した半導体は、ホァーウェイにしか販売しない。中国のどの会社にも提供せず、もちろん中国政府の要請にも応じず、自社のみでハイテク製品製造のために使用している。

 このハイシリコン、今ではアメリカ最大手で世界のトップでもある半導体メーカー、クァルコムと半導体の研究開発において互角に競争している。

 たとえばクァルコムがSnapdragon(スナップドラゴン)という半導体の新製品を出すと、ハイシリコンはそれと同じレベルのKirin(キリン)という半導体を出す

 負けじと、Snapdragonのレベル・アップしたヴァージョンをクァルコムがが出すと、ハイシリコンがまたKirinのレベル・アップしたヴァージョンを出すという具合に、両者は鎬を削り、下手するとハイシリコンが上を行く場合さえある。ハイシリコンは、世界で最も速い通信用チップをクァルコムよりも先に創ってしまったことさえある。

◆ZTEのような訳にはいかない

 中国の国有企業で通信機器大手のZTE(中興通訊)のハイテク製品は、キーパーツとなる半導体をほとんどずべてクァルコムから輸入していた。だから今年8月、米議会が国防権限法によりZTEとホァーウェイに関して取引を禁止したことにより、ZTEは半導体の購入ルートを断たれて、いきなり経営不振に追いやられた。結果、習近平国家主席は、日本に秋波を送るしかないところに追い込まれたほどである。クァルコムほどのハイレベルの半導体を日本は製造できないが、それでも代替品でなんとか急場を凌ごうとしている。

 ハイシリコンに救援を求めればいいのだが、ハイシリコンは中国政府の要求に応じず、民間会社である自社(ホァーウェイ)のハイテク製品製造にしか半導体を提供していない。ホァーウェイのハイテク製品は、完全な自給自足を一つの会社内で閉じて行っているのだ。

 逆を言うならば、ホァーウェイの場合は、どんなにアメリカが取引を禁止しても、他社、特にアメリカから半導体を輸入していないので、少しも影響を受けないのである。

 このママでは、米中間のハイテク戦争において、ひょっとすると、ホァーウェイがクァルコムの先を行くことになるかもしれない。

◆ホァーウェイ創業者の娘を逮捕

 だからアメリカはホァーウェイの経営を潰そうと、このたびカナダ司法当局に依頼して創業者(任正非CEO)の娘である孟晩舟CFO(最高財務責任者)を逮捕させたものと考えられる。カナダの司法当局は12月5日、孟晩舟を1日にカナダ西部のバンクーバーで逮捕したと発表した。

 アメリカの報道によれば、アメリカが行っている対イラン制裁に違反したからということだが、中国政府は激しく抗議。アメリカはカナダに身柄引き渡しを要求し、中国は即時釈放するようにアメリカおよびカナダ政府に要求している。

 

◆火花を散らす「中国製造2025」

 12月3日のコラム「米中首脳会談、習近平の隠れた譲歩と思惑」で、米中首脳会談という大舞台だというのに、習近平がトランプ大統領に、たかだか「クァルコム」という一半導体メーカーの名前を挙げて意思表明をした不思議さを書いたが、トランプは習近平から「クァルコム」の話を聞きながら、そのとき既にカナダ司法当局に依頼してホァーウェイ創業者の娘を逮捕させていたということになる。

 一見、「休戦」のように見える米中貿易摩擦だが、米中の対立の根本は「中国製造2025」にあるので、関税のパーセンテージなどを見て分析しても、実は仕方がない。

 根本にある「中国製造2025」に関して、習近平は絶対に一歩も譲らないし、トランプもまた中国がコア技術でアメリカを抜くことなど絶対に許さないだろうからだ。

 背後にあったはずの「中国製造2025」が、いよいよ表面化して、目に見える形で火花を散らし始めた。

 ホァーウェイとハイシリコンの創設と経緯および実績に関しては、12月22日に出版される『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』で詳述した。

 なお、日本ではHua-weiを「ファーウェイ」と読ませているが、「Hua」は「ホァ」であり、「ファ」ではない。「ファ」なら「Fa」など、「F」の文字がなければならない。慣用に反するが、ここでは発音に忠実に「ホァーウェイ」とした。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

遠藤誉の最近の記事