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北朝鮮暴走に対する中国の見解――環球時報社説から

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
北朝鮮を「大暴れ孫悟空」にたとえた環球時報(写真:ロイター/アフロ)

 9月16日、中国共産党系の環球時報が北朝鮮の弾道ミサイル発射に関する社説を発表。その全文を通して、北朝鮮暴走に対する中国政府の見解を詳細に解読する。

◆社説:北朝鮮が制裁に逆らってミサイル発射、国際社会は混乱するな

 9月15日朝、北朝鮮は日本の北海道上空を通過する弾道ミサイルを発射した。高度770km、飛行距離は3700kmだった。これに対して中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」が9月16日に社説を発表。タイトルは「北朝鮮が制裁に逆らってミサイル発射、国際社会は混乱するな」だ。社説は習近平国家主席の意思を反映していると見ていいだろう。

 中国の特徴としてミサイル発射の情報などに関しては、「日米韓などの報道に基づく」という形を取っている。環球時報は、「9月15日のミサイル発射は、北朝鮮の第6回目の核実験を受けて国連安保理が制裁決議を満場一致で決議した直後のことだ」とした上で、「朝鮮半島情勢に関して明確にする必要がある」と、以下の7項目に関して中国の見解を表明した。

◆中国の7つの見解

 1.北朝鮮は自らが獲得した核・ミサイル技術を、いかなることよりも最も価値のあるものと位置付け、おまけに実質的な進展を遂げ、すでにアメリカ領のグアムを攻撃する能力を持っている(あるいは持つことに近づいている)ようだ。北朝鮮は技術的な発展に鼓舞され、いかなる警告も顧みず、アメリカ本土を攻撃することができる大陸間弾道弾ミサイルの研究開発に執着している。

 2.北朝鮮がアメリカおよびその同盟国に先制攻撃する度胸を持つ可能性は低い。北朝鮮の核・ミサイル技術がどこまで改善されようとも、この一点は変わらないだろう。なぜなら、そのような行動に出れば、平壌政権の自殺行為だということは疑う余地がないからであり、平壌が何としてでも核兵器を持とうとしている目的は、「北朝鮮体制を維持させること」に他ならないからである。

3.(国連安保理)制裁は短期間内に北朝鮮の核・ミサイル発展を阻止することはできない。しかし国連安保理は制裁に関して一致を見て、国際社会が北朝鮮問題に関して団結し、大国間が互いに調整能力があることを示した。北朝鮮から見れば、大国の分裂ほどありがたいことはなく、大国が分裂すれば北朝鮮はその間、思い切って核・ミサイル活動に専念するゆとりを持ち得る。大国が北朝鮮のコントロールに関して分裂すればするほど、北朝鮮は奇跡を創り出し、最終的には核保有国への漠然としていた念願を現実のものにすることに成功するだろう。

4.毎回、北朝鮮の核・ミサイル活動発生後に、国際社会は混乱や騒ぎを起こさず、足並みを揃えなければならない。大国の態度が乱れさえしなければ、北朝鮮の新たな核・ミサイル活動は、政治的には失敗したということになる。もし、北朝鮮が(国際社会を)刺激するごとに、毎回大国が乱れたとすれば、北朝鮮にとっては政治的に大成功を収めたことになる。

5.北朝鮮の核・ミサイル技術の間断ない発展によって、国際社会は複雑な局面をいかにしてコントロールしていくかという挑戦を受けている。肝心なのは二次災害を発生させないということだ。すなわち、北朝鮮がいくつの核弾頭弾道ミサイルを手にしようとも、それらを使用する勇気を持つことができないというところに北朝鮮を追い込み、東北アジアおよびアジア太平洋地域が戦乱に巻き込まれないようにすることが肝心なのである。

6.米韓はどんなことがあっても、北朝鮮を互いに恫喝する昔からのやり方から抜け出し、朝鮮半島の根本的な緊張の要素は何かを考えて、その問題解決に貢献しなければならない(筆者注:これは米韓が朝鮮戦争の休戦協定に違反していることが、朝鮮半島に緊張をもたらしている、もともとの根本的要素であることを指している)。もし、制裁が長期的な観点から効果を持ち得るとすれば、米韓が北朝鮮に対する軍事的圧力を増加させることは逆効果であって、この(国連安保理)制裁の効果を上げることに貢献しない。

韓国は今朝(15日)北朝鮮がミサイルを発射した後に、すぐさま二発の自国製の弾道ミサイルを発射した。

 これはすなわち、北朝鮮のために「練習相手(専ら主力選手の実力を伸ばすためにその相手となって練習すること)」になってあげたことに等しいのではないのだろうか?

 ソウルは本当に、こんなことによって平壌がその分だけ韓国を恐れるとでも思っているのだろうか?

7.米韓は北朝鮮と「罵り合い」をすべきではないし、また「互いに練習相手となって練習する」ようなこともすべきではない。やるべきは、国際社会と一体となって北朝鮮の理性的要素を探し出し、北朝鮮が新しい戦略に向かうように理性的に誘導していくことを、ともに成すことである。北朝鮮は孤立しており、国際社会が理性的な方法で対処すれば、北朝鮮もその分だけ、本の少しでも理性的になり得るだろう。それに反して、国際社会が極端な方法で対処すれば、北朝鮮はその分だけ極端になっていく。

◆環球時報社説の結論

 社説は以下のように結んでいる。

 結論的に北朝鮮の核・ミサイル活動を止めることは現段階では困難である。国際社会は国連安保理の制裁を中心とする局面打開のための対策をすでに形成はしているが、しかし問題解決のための対話の道に関しては欠如しており、国際社会は“双暫停”を促進するという、困難を極める任務遂行に直面している(筆者注:“双暫停”とは「北朝鮮と米韓方が時、軍事的挑発を止して対話のテーブルに着く」という意味)。

 朝鮮半島の形勢は「不穏中にもある種の相対的安定が存在する」という局面と「不安定要素がコントロールを失う」という二種類の可能性を秘めている。いずれにせよ北朝鮮は“大暴れ孫悟空”であることは確かだが、しかし未来の方向性を決めるカギ(本当の変数)を握っているのは米韓である。

 米韓が、こんにちまで米韓が果たしてこなかった北朝鮮核危機と平和的解決のために貢献をしたいと望むか否かということこそが、朝鮮半島の未来を決定するのである(筆者:米韓が朝鮮戦争休戦協定に違反し続けて、米軍が韓国に駐留し、米韓合同軍事演習をし続けていることを指す)。

 北朝鮮は、ますます厳しくなっている条件下でもなお、“攻撃”を続けている。しかし強い弓で射た矢も最後には勢いが弱まるように、北朝鮮もやがては勢いを無くす。(完)

◆米韓はやはり軍事示威

 韓国の聯合ニュースによれば、9月18日、米軍の戦略兵器である最新鋭ステルスF35B戦闘機4機とB1B戦略爆撃機2機が、韓国空軍の主力戦闘機F15K(4機)とともに、韓国東部の射撃場で爆撃訓練を実施したとのこと。F35BとB1Bの同時展開は先月31日に続き2回目となる。

 また同じく聯合ニュースは、米軍の空母打撃群が10月に朝鮮半島周辺で韓国軍と合同演習を行うことを明らかにした。今月から10月初めまでに韓米日で北朝鮮ミサイルを海上で探知・追跡する訓練も実施する計画だ。10月には米軍の原子力空母ロナルド・レーガンをはじめとする空母打撃群が朝鮮半島周辺海域に展開され、韓国海軍と合同演習を行うという。

 果たして中国の環球時報社説が正しいのか、それとも国連制裁にさらに米韓の軍事示威による圧力も加えることが正しいのか、しばらく様子を見てみたいとは思う。

 ただ、今のところ、国連安保理制裁は北朝鮮に自重を招いていないし、ましていわんや軍事的示威は北朝鮮にさらなる暴発の口実を与え、核・ミサイル技術の「実施訓練」のチャンスを与えていることだけは確かだ。その結果、北朝鮮の核・ミサイル技術は向上する。

 北朝鮮という国を誕生させた旧ソ連の根幹を成しているロシアは、北朝鮮を知り尽くしている。プーチン大統領は「北朝鮮は、たとえ草を食べてでも核・ミサイルの開発はやめないだろう」とBRICS(新興5ヵ国)の閉幕スピーチで述べた。それが本音だろう。

 となれば、中国の政府見解にも一考に値するメッセージが入っているだろう。日本国民の安全を優先したいのなら、思考は柔軟でなければならない。

 しかし、それなら中国は果たして、どのような解決策を持っているのか?

 筆者は思い切って中国の政府関係者を直撃取材した。

 その結果は、驚くべきもので、これまでのシナリオにはなかった発想であった。

 それを公表することが秘策実現の邪魔にならないか、あるいは公表することで戦争へのリスクを回避する道を選ぶ可能性を国際社会(特に日米韓)に与えることになるのではないか、今のところ逡巡がある。公表すべきと決断できたら、このコラムで発信するつもりだ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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