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胡錦濤の元側近、令計画失脚――習近平の「虎狩り」、共青団でもお構いなし

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

胡錦濤の元側近、令計画失脚――習近平の「虎狩り」、共青団でもお構いなし

12月22日夜、胡錦濤の元側近で、全国政協副主席および中央統一戦線部部長だった令計画(共青団)の取り調べが始まった。息子の自動車事故をもみ消したことで有名だが、山西閥がつぎつぎに失脚している訳は?

◆令計画の息子の不祥事

2012年3月、令計画(1956年~)の息子がフェラーリに女友達を乗せたまま事故を起こして死亡した。2人乗りの車には3人乗っており、3人ともほぼ裸だった。

このとき中共中央弁公庁の主任として、長年にわたり胡錦濤・前国家主席の秘書をしていた令計画は、ただちに中共中央弁公庁の警衛局に現場を封鎖させ、全ての証拠物件を持ちさらさせ、メディアに箝口令を命じた。

しかし、現場を封鎖する前の状況を目撃した複数の者により、この情報は海外の中文メディアにリークされて、世界を唖然とさせたものだ。特に中共中央弁公庁の最高幹部で、胡錦濤の大番頭と称され、次期中共中央政治局入りが噂されていた人物の家族が、このような派手で不適切な生活を送っていたことと、その事故を自らの特権を乱用して封殺したことに対する非難は、胡錦濤政権を脅かすことになる。

そこで胡錦濤はすぐさま令計画を中共中央庁から追い出し、閑職である中共中央統一戦線部の部長に降格させた。これにより次期政権(習近平政権)における政治局入りはなくなったのだが、胡錦濤のメンツを考え、2013年に、全国政協(中国人民政治協商会議全国委員会)副主席に就かせた。全国政協の主席はチャイナ・セブンの党内序列ナンバー4の兪正声だが、この全国政協自身が全人代(全国人民代表大会)のような立法機関ではなく、決議権を持っていないので、その副主席となると、やはり閑職と言える。

この令計画、事件のもみ消しには、元チャイナ・ナインのナンバー9だった周永康の力も借りたと言われ、背後の腐敗関係が問題視されていた。

というのは、周永康の腹心ですでに逮捕され党籍も剥奪されている蒋潔敏が、事件後、死傷した2名の女性の家族の銀行口座に数千万元を振り込んでいるからだ。

◆山西閥と電力閥と共青団と…

その一方で注目されるのは、山西閥との関係である。

山西省は石炭の町。今では電力閥が跋扈している。それも李鵬元首相の息子・李小鵬が山西省の省長をしていることから、李鵬ファミリーが独占している電力閥を追い落とすためとみすべきだろう。

令計画は山西省生まれで、1979年から山西省の共青団(中国共産主義青年団)として政治活動を始めた。85年からは中央に上り、共青団中央宣伝部を地盤として活躍するようになり、そのとき共青団中央書記処第一書記をしていた胡錦濤(前国家主席)と接触を持つ。2002年に胡錦濤が中共中央総書記に、2003年に国家主席になると、胡錦濤の秘書として仕事をするようになった。

令計画の兄・令政策(1952年、山西省生まれ)は、ひたすら山西省で政治活動に従事し、2008年から山西省政治協商会議の副主席を務めていた。しかし今年6月に失脚し、党紀律違反で中央紀律検査委員会の取り調べを受けている。

その2カ月前の4月には華潤グループ(電力会社)の宋林・董事長が巨額の汚職の疑いで捕まったが、この宋林は、李鵬の息子の李小鵬と緊密な仲だ。父親の元首相・李鵬や妹の李小琳とともに、中国の電力界をほぼ独占している「李鵬ファミリー」の一人である。

また今年の9月には山西省の党書記(中国共産党山西小委員会書記。山西省のトップ)であった袁純清が解任されている。

令計画も袁純清も、生粋の共青団員だ。

つまり、山西省関係で電力閥は、共青団であろうと何派であろうとお構いなしに、つぎつぎと習近平政権の「虎退治」の対象になっているということなのである。

令計画が取り調べを受けることが公表された12月22日、2月に取り調べを受けていた元山西省党委副書記・金道銘(1953年~)の党籍が剥奪され、司法に回された。

このことからも習近平の虎退治(反腐敗運動)は、決して特別の派閥に対して向けられたものではなく、あくまでも国有企業の巨大な独占的利益集団に斬りこんでいることが分かる。

中国共産党幹部の腐敗は、救いようがないほど蔓延し、このままでは中国が滅ぶからであって、中国にはいま権力闘争をしているゆとりなどない。権力闘争だと言いたがる人たちは、中国にはまだ、そんなことをするゆとりがあると思い、中国を高く評価しているということが言えよう。

共青団であろうとも捕える。

これまで江沢民派が多かったのは、石油閥をまず退治しようとしていたからだ。

「山西閥=電力閥」が、石油閥の次のターゲットになっていることから、次は李鵬系列ということになってしまうが、人物を相手にしているのではなく、巨大な利益集団を退治したあと、国有企業の構造改革に手をつけようとしている。それをしない限り、中国の経済発展は虚構に過ぎないからだ。中国のこの弱点を正確に見ない限り、中国の真の姿は見えないし、未来予測もできない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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