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周永康党籍剥奪・逮捕、なぜ今なのか?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

周永康党籍剥奪・逮捕、なぜ今なのか?

胡錦濤時代のチャイナ・ナインの一人だった周永康の党籍剥奪が12月6日0時に発表され、司法に回された。最高検も立件・逮捕を決定。なぜ今なのか? 12月4日を憲法の日と制定した中国の思惑と周永康を司法に回す意味を考察する。

◆周永康の党籍剥奪に時間がかかったわけ

胡錦濤時代にチャイナ・ナイン(中共中央政治局常務委員会委員9名)の党内序列ナンバー9の周永康は、「公安・検察・司法」などを司る中共中央政法委員会の書記をとして職権を乱用し、年間20万件に上る暴動を招いていた。

それだけではなく、石油閥としても腐敗を極め、国有企業の構造改革を困難にさせていた。

このままでは中国共産党による一党支配体制が滅ぶと判断したチャイナ・ナインは、2012年11月に開催された第18回党大会で、中共中央政法委員会書記の地位を降格させ、チャイナ・ナインから外して「チャイナ・セブン」(中共中央政治局常務委員会委員7名)とした。

この時点ですでに、周永康逮捕のロードマップは描かれていたと言っていい。

いや、薄熙来を重慶市書記から降格させた時点(2012年3月15日発表)で、すでに周永康の運命は決まっていた。

しかし政治運動以外で政治局常務委員が逮捕された例はない。

だからこそ、江沢民は自分の腹心を常務委員会に刺客として送り込み、自らの身の安全を守ろうとしたのである。

その聖域に習近平は初めて斬りこんだのだが、周永康の犯罪があまりに多岐にわたるため中共中央紀律検査委員会(中紀委)の取り調べが追い付かない。そのため本来なら今年10月に開催された四中全会(第四次中央委員会全体会議)で宣言されるはずだった党籍剥奪がこの12月にずれ込んだわけだ。

それ以外にも、実は習近平の周到に計算された思惑があった。

◆「憲法の日」制定にちなんで法治国家を印象付けたい中国

中国は建国以来初めて、12月4日を「憲法の日」と定めることにした。あの共産中国にも憲法はあり、現行の憲法は1982年12月4日に制定された。

今年の四中全会のテーマは「法治」。

「依法治国」(法を以て国を治める)をスローガンとして、中国が法治国家であることを内外ともに印象付けようとした。そのため12月4日を憲法記念日とすることを決めたのである。

その憲法記念日がいかに絵空事でないかを示すために、聖域とされていたチャイナ・ナインの党籍はく奪を12月4日の翌日5日に開催された中共中央政治局会議で決定したということになる。

その際の決め言葉は「法の前に人は平等である」だった。

2013年12月1日に、中共中央政治局常務委員会を開催し、周永康に嫌疑ありとする中紀委の報告を討議し調査を批准した。

2014年7月29日に中共中央政治局会議を開催し、周永康の取り調べを中紀委が行うこと(双規、スヮン・グイ)を、正式に公表。その結果、12月6月0時0分の発表となったのである。

新華社の報道によれば、周永康の罪状として以下のようなものが挙げられている。

1.党の政治紀律、組織紀律および機密紀律を激しく犯した。

2.職務特権を利用して多くの人に不法な利益をもたらし、(その見返りとして)直接あるいは家人を通して巨額の賄賂を受け取った。

3.職権を乱用して、親族や情婦あるいは友人が経営活動を通して巨額の利益を取得するのを助け、国有資産の重大な損失を招いた。

4.党と国家の機密を漏えいした。

5.廉潔(不正・収賄をせずに公けの務めを果たすこと)という自律規則に著しく違反し、本人および親族は他人の財産を(賄賂として)大量に受け取った。

6.多数の女性と不倫し、「権色」(権力と女)および「銭色」(金銭と女)交易を行なった。

概ね以上だが、こんなに罪状が多い元高官もなかなかいない。

上記罪状のうち、2は主として中共中央政法委員会書記として、公安、検察や司法を操り、さじ加減などをして見返りに賄賂をもらう手口だ。いわゆる「公安閥」における罪である。

3は主として「石油閥」としての罪で、国有企業の利益集団となって不正蓄財で身を肥やした。

問題は4の「党と国家の機密漏えい罪」である。これは薄熙来や王立軍(元重慶市公安局長で、薄熙来による殺害から逃れるために成都のアメリカ領事館に逃亡した人物)と絡んだ「盗聴事件」に関する罪だ。公判では、これに関してどこまで明らかにするかは不明だ。共産党の権威にもかかわる内容なので、事実をかわしながら罪を問う可能性もある。

周永康はそもそも、江沢民の妻の親戚筋で中央テレビ局CCTVのキャスターと結婚するために前妻を交通事故と見せかけて殺害している。その後もCCTVの美人キャスターとは不倫を重ね、おまけに彼女たちを金銭目的に利用したり、「賄賂」として「受け取ったり」などをしている。

中国には女性を貢物として権力者に捧げる風習がはびこっており、「紅い中国」は、さながら封建時代の宮廷物語そのものだ。権力を持った者たちの動き方は、何も変わっていない。そのために中国独特の「権色」とか「銭色」という単語があり、それを中国政府の通信社である新華社が堂々と使うのだから、いかにひどいかが窺(うかが)われようというもの。

このような世界で「依法治国」を唱えて「憲法の日」などを制定しても、実現性が低い。

「紅い皇帝」習近平は、「依法治国」とは「憲法に準拠して国を治めるということだ」と演説したばかりだが、それは可能だろうか?

そもそも中華人民共和国憲法第三十五条には「中華人民共和国の公民はすべて、言論、出版、集会、結社、デモおよび示威の自由を持っている」とある。

中国は、それを実行しているのだろうか?

筆者は国共内戦で数十万の餓死者を出した事実を、自分の体験として描いた。肉親も餓死で失った。その中国語版は、30年待ったが、中国大陸では出版が許可されない。だからこそ、言論活動を続けている。それが執筆動機の原点である。

中国が共産党を讃える方向でしか憲法を順守しないことを、筆者は知っている。

今般の周永康逮捕は、そうしなければ中国の一党支配体制が崩壊するからだ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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