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【第26回参議院通常選挙】ファースト・荒木と維新・海老沢 重責を担いつつ東京都選挙区で戦う女たち

安積明子政治ジャーナリスト
「娘のような存在」の荒木氏を応援する小池知事(写真:つのだよしお/アフロ)

6議席目を巡る戦い

 6議席をめぐって34人の候補者が戦っている参議院東京都選挙区は、日本で最も激戦区に違いない。そのうち5議席がすでに序盤戦で有力候補によってほぼ固待ったと言われており、残りの1議席を当落線上の数名が争っているのが現状だ。

 その当落線上にあるうちの2人が日本維新の会の海老沢由紀候補とファーストの会の荒木ちはる候補で、ともに地方議員の経歴(海老沢氏は大阪市議、荒木氏は東京都議)を持ち、現職の知事の応援を受けているという共通点がある。その2人が6月26日、銀座4丁目交差点の同じ場所で時間を前後して街宣した。

 先に演説を始めたのは荒木陣営だ。自民党の生稲陣営が演説を終えて去った後、晴海通りに街宣車を停止させた。比例区に出馬している矢田わか子参議院議員が子育て政策を訴えた後、国民民主党の玉木雄一郎代表が演説。「いまこそ大改革を、ここ東京から始めていこう」と玉木氏が叫んだ後、いよいよ小池百合子知事が登場した。

国政進出の野心と比例票の期待

 小池知事が都知事選で初当選したのは2016年7月31日で、第24回参議院通常選挙の3週間後のこと。この時、自民党を離党して無所属となった小池知事を支えたのが、6年間同じ家に住んで秘書として仕えた荒木氏だった。荒木氏はその翌年の都議選に都民ファーストの会の公認候補として中野区から出馬し、4万4104票を獲得してトップ当選を果たしている。

 思えばこの頃が小池知事の絶頂期だったかもしれない。同年9月には希望の党を設立し、国政への野心を見せた。これに民進党が乗っかったが、「衆議院選に備えて全員が新党に合流」という当時の前原誠司代表の期待を裏切り、小池知事はリベラル勢を排除した。これが立憲民主党と国民民主党とに分かれるきっかけとなり、与党の地位を得られなかった小池知事も国政から手を引いた。

希望の党を結成して国政に足掛かりを作ろうとした小池知事
希望の党を結成して国政に足掛かりを作ろうとした小池知事写真:つのだよしお/アフロ

 2020年の都知事選では強力な対立候補がいなかったため、小池知事は前回より75万票ほど多い366万1371票を獲得して再選。しかし与党である都民ファーストの会は離脱者が続出し、ついには友党であった都議会公明党から「身下り半」を突き付けられた。

 その都民ファーストの会の代表を務めていたのが荒木氏だった。今回の参議院選出馬は、小池知事の人気にあやかって都内の比例票を獲得したいという国民民主党の期待に応えるとともに、小池知事の代理として国政に基盤を築こうという意図が見える。

 小池知事の知名度と人気から見れば、定数6の東京都選挙区で1議席を獲得することは困難ではないはずだ。実際にこの日この場に集まった聴衆の数は、小池知事が登場した時が一番多かった。だが候補は小池知事ではない。

 昨年の都議選では都民ファーストの会の失速が報じられたが、荒木氏の得票数も3万2743票と1万票以上減少し、中野区でのトップ当選は叶わなかった。それでも都民ファーストの会がなんとか31議席を死守できたのは、病身にもかかわらず最終盤に応援に駆け付け、同情票を集めた小池知事のおかげに相違ない。だが都議選と国政選挙では土壌が違う。また都内全域で小池知事の名前は知られていても、荒木氏の名前はどうか。残りの選挙期間でやるべき課題は少なくない。

東京進出の夢を果たすべく

 同じことは日本維新の会の海老沢候補にもあてはまる。日本維新の会は昨年10月の衆議院選で、小選挙区で16議席、比例区で25議席と躍進した。強固な基盤のある近畿ブロックで10議席を得た他、東北ブロック、北信越ブロック、中国ブロック、四国ブロック1議席ずつ得た他、北関東ブロック、東京ブロック、東海ブロック、九州ブロックではそれぞれ2議席を確保し、南関東ブロックでは3議席を得て、全国的な広がりを見せた。

 その勢いを保ち、さらに勢力を伸ばそうというのが日本維新の会の狙いだ。今回の参議院選での目標は「野党第1党」だが、そのためにはまず首都・東京を押さえる必要がある。3年前の参議院選で音喜多駿参議院議員が議席を得ているため、2議席目獲得の責任が海老沢氏にのしかかる。

海老沢氏と猪瀬氏の応援に駆け付けた吉村知事
海老沢氏と猪瀬氏の応援に駆け付けた吉村知事写真:つのだよしお/アフロ

 だから党も全力で海老沢氏を応援している。6月25日には馬場伸幸共同代表が新宿で応援演説を行い、26日には大阪から吉村洋文知事が駆けつけた。吉村知事が登場する前に街宣車の上で演説していたのは比例区から出馬している猪瀬直樹元東京都知事で、バックに現職の知事と元知事の2人がいるという点では、海老沢氏は荒木氏より有利かもしれない。しかし猪瀬氏が演説半ばで吉村知事に譲ると、街宣車に向かって観衆が一斉に携帯を取り出した。10年前の都知事選で猪瀬氏が史上最多の433万8936票を獲得したことは、もう忘れられているのかもしれない。

 東京都の有権者数は1147万8988人(2022年6月登録日現在の東京都内の選挙人名簿登録者数)もいるが、その多くは政治にはあまり関心を示さず、議員の名前すら知らない人も少なくない。そのような有権者の心にどれだけ訴えを届けられるのか。彼女たちの戦いは、背後にいる人たちの戦いでもある。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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