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細野豪志氏が念願の自民党入り!惜敗率48%で復活当選した岸田派所属の吉川赳氏はどうなる?

安積明子政治ジャーナリスト
念願の自民党入りは果たせたが……(写真:つのだよしお/アフロ)

自民党が細野入党を容認した

 自民党は11月5日、静岡5区で当選した細野豪志氏の入党を認めた。民主党政権で環境大臣や原子力担当大臣、幹事長など要職を務めた細野氏は、2017年の希望の党の設立にはチャーターメンバーとして参加したが、国民民主党の結党には参加せず、自民党入りを希望していた。2019年1月から二階派の特別会員になり、7月には衆議院の自民党会派に参加。そしてこのたび、念願の自民党入りとなった次第だ。細野氏はさっそく、次のようなコメントを出した。

本日、遠藤利明選挙対策委員長から自由民主党への入党を認めて頂いたとの連絡を頂きました。今後当該都道府県連はじめ地方組織で手続きが行われると伺っています。関係者の皆様のご理解が頂けるよう努力致します。自民党の党勢拡大に取り組むとともに、わが国と地元・静岡のために全身全霊を傾けて参ります。

衆議院議員細野豪志

「15万票ほしかった」の言葉の裏側

「与野党の公認候補に挟まれ、無所属で当選できたのは私くらいではないだろうか」

 第49回衆議院選挙の投開票が行われた10月31日夜、細野氏は電話で筆者にこのように話している。そしてこうも言った―「15万票ほしい」。

 しかし細野氏が最終的に静岡5区で得た得票数は12万7580票で、希望の党から出た前回より9943票少なかった。民主党に逆風が吹いた2012年ですら15万6887票を獲得した細野氏にとって、この数字は満足したものではなかったのかもしれない。

 というのも、同じ選挙区に宏池会所属の吉川赳氏がいて、2012年の衆議院選で8万4800票、2014年には8万4574票、2017年には9万2467票を獲得してきた。2012年は比例で復活し、2014年と2017年には落選したものの、2019年に繰り上げ当選している。そして2021年の衆議院選では吉川氏は6万1337票しか獲得できなかったが、細野氏の思惑は外れ、自民党東海ブロック重複立候補者の中で最下位で当選し、しぶとさを見せつけた。

議席数を伸ばしたい自民党と、ギブ&テイクが優先の公明党

 だが細野氏の自民党入りは規定路線となっていた。実際に甘利明幹事長(当時)は10月12日のBS番組で、「細野氏が勝ち上がった時に、地元県連と本人と相談して何か考える余地がある」と述べている。

 その背景に選挙前に自民党が保持していた276議席から減少幅を狭めたいという思惑がある。実際に自民党は10月31日付けで東京15区の柿沢未途氏と奈良3区の田野瀬太道氏を追加公認し、絶対安定多数の261議席を確保。細野氏を含めると262議席になる。

 吉川氏が前回より3万票以上も得票数を減らしたことも、細野氏の「加点」となった。細野氏がコロナ禍で苦しむ飲食店経営者などを熱心にサポートしたことも、有権者の支持を集めたが、何よりのポイントは公明党だろう。

 公明党は今回の選挙で、静岡県内の8人の自民党公認候補のうち吉川氏だけに推薦を出さずに自主投票とした。その一方で細野氏は公明党のために、7月の都議選で東京の知人に積極的に声をかけ、斉藤鉄夫副代表が出馬した衆議院広島3区で多くの人を紹介した。細野氏が児童虐待問題などに積極的に取り組んでいることも、「福祉の政党」を標榜する公明党と相通じるところがある。静岡5区内の公明票は2万から3万あると言われているが、これらがどちらに多く入ったかはいうまでもないだろう。

細野氏に地元が激しく抵抗か

 なお細野氏の自民党入党について静岡県連の野崎正蔵幹事長は記者団に対し、「厳粛に受け止めている」と繰り返した。民主党幹部だった細野氏と対峙してきた地元としては、細野氏を受け入れることの抵抗感は払しょくしきれない。とりわけ圧倒的な実力の差に危機感を募らせる吉川陣営の反発は相当で、11月2日に細野氏の入党拒否を県連に申し入れてもいる。

 もし自民党静岡県連が細野氏を拒否すれば、遠藤利明選対委員長の所属する山形県連に入る可能性もあると言われている。実際に山口壮環境大臣が2015年1月に自民党に入党した時、兵庫県連ではなく和歌山県連に所属した例がある。山口氏も細野氏と同様、かつては民主党に所属していたが、後に離脱して二階派の特別会員となり、2014年12月の衆議院選で無所属で兵庫県連が支援した新人候補らを破って当選。そうした事情により、自民党兵庫県連が山口氏の入党に強く反対していた。

 

いずれにしろ、強い者が勝ち

 しかし党本部による細野氏入党の決定には、岸田文雄首相も関知していると言われている。宏池会の吉川氏が仲間を誘って反対したとしても、その影響は大きくないだろう。そもそも2020年9月の総裁選で、彼らは宏池会会長である岸田首相に地方票を1票も入れることができなかったのではなかったか。

 こうして次の衆議院選まで静岡5区には自民党の議員が2人存在し、勝った方が選挙区を獲ることになるだろう。そもそもこれほど実力に差があれば、コスタリカは不可能。吉川氏が小選挙区に出馬する時に野党が票を獲る候補を擁立すれば、静岡5区自体が獲られてしまいかねない。

 それにしても政治の根源がパワーである以上、強い者が生き残るのは当然だが、大政党に所属すれば当選しまう現行の選挙制度は、民意を放置して政治をいたずらに歪めているとはいえまいか。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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