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参院補選での痛い1敗に、岸田政権が強烈なダメージ! 新たに露呈した「河村問題」

安積明子政治ジャーナリスト
安倍元首相のお膝元は盤石か(写真:Motoo Naka/アフロ)

山口補選は圧勝したが

 10月24日に投開票された参議院補選は、山口県選挙区では自民党公認で公明党が推薦する元参議院外交防衛委員長の北村経夫氏が30万7894票を得て、共産党山口県委員会副委員長で社民県連合推薦の河合喜代氏や「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」のへずまりゅう氏を下した。 24日夜に山口市内のホテルのバンケットルームには自民党関係者や支援者らが集まり、終始和やかなムード。午後8時に当確が出ると、拍手で迎えられた北村氏が颯爽と登場し、夫人とともに壇上に上がって勝利のコメントを述べた。

支持者たちに拍手で迎えられる北村氏 筆者撮影
支持者たちに拍手で迎えられる北村氏 筆者撮影

 しかしながら北村氏の得票数は、目標の40万票に届かなかった。補選とはいえ投票率は36.4%で、有権者の約3分の2が投票していないからだ。 もっとも岸信夫防衛大臣の衆議院転出にともなう2013年4月28日の参議院補選では、自民党の江島潔元下関市長が得たのは28万7604票で、投票率は38.68%。山口県では「自民党は安泰」ということだろう。

静岡で落とした「自民党の議席」

 一方で同日に投開票された参議院静岡県補選では、立憲民主党と国民民主党が推薦する元県議山崎真之輔氏が65万789票を得て当選。自民党公認で公明党が推薦する元御殿場市長の若林洋平氏との差は4万8009票で、選挙戦では抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げた。

 「もともと自民党の議席」と枝野幸男立憲民主党代表が述べた通り、争われた議席は6月の知事選に岩井茂樹前参議院議員が出馬したために空いたものだ。しかも10月4日に発足した岸田政権にとって、初の国政選挙となる参議院補選は負けられない。岸田文雄首相はさっそく告示日の10月7日昼に若林氏の応援に駆けつけ、静岡駅前でマイクを握っている。

勝因は「川勝知事」

 対する山崎にも頼もしい援軍がいた。川勝平太静岡県知事だ。山崎氏は6月の知事選で川勝知事の政策スタッフを務めた関係があり、川勝知事は告示日の7日の朝、静岡駅前で街宣していた山崎陣営に「出勤の途中だ」と飛び入り参加し、応援演説している。

 それまでの各社の調査では若林氏がややリードしていたが、ここで山崎氏が勢い付いた。「選挙戦終盤に公明党が動員してくれるはずだ」と、ある自民党議員は事前投票に期待を寄せたが、大手メディアの記者は「その様子は見えなかった」と述べている。そして投開票日には各社メディアは、山崎氏が若林氏を3から5ポイントリードと分析していた。

 決め手となったのは投票率だろう。45.57%と通常選挙には及ばないものの、補欠選挙としてはかなり高い。「山口は勝つけど、静岡はダメのようだね」 戦況が明らかになると、自民党関係者は異口同音でこう述べていたが、その言葉には1週間後の衆議院選への危機感が漂っていた。そもそも衆議院選挙のために、9月の総裁選に再選意欲満々の菅義偉前首相は引きずり下ろされたのだ。その後継は、イメージ一新の岸田政権。11月7日に予定されていた衆議院選を1週間早めたのは、自民党議席だった参議院補選で完勝し、その勢いが消えないうちに議席を確保するとの狙いもあったはずだ。

自民党の牙城が抱える「河村問題」

 しかし目論見は外れ、自民党の苦戦が予想されている。また「禍根」も、残るかもしれない。 それは「河村問題」だ。参議院山口県選挙区補選は林芳正元文科大臣が衆議院転出のために参議院議員を辞職したために行われた。林氏は山口3区に出馬しているが、これに押し出されて河村建夫元官房長官が引退。3区をめぐっては、幹事長だった二階俊博氏が昨年10月、二階派のメンバー約20名を引き連れて河村氏のパーティーに参加し、林氏の3区出馬を「売られた喧嘩」と批判したという因縁がある。

 もっとも河村氏は林氏と選挙区を交換する意思はあったが、自身の世代交代を拒んだ二階氏に阻止されたと言われている。そして二階氏が幹事長を辞すると、党内のパワーバランスが激変し、新幹事長の甘利明氏が河村氏に引導を渡した。自民党山口県連は10月1日に全会一致で林氏の3区公認を決議しており、自民党本部は「現職優先」の原則より地元事情を考慮した。なお河村氏は18日の引退会見で「党内で野党的になったので」と権力から転落した悲哀を滲ませている。 その影響は河村氏が後継とするはずだった長男・建一氏にも及んでいる。河村氏が山口3区から身を引く代わりに、甘利幹事長から建一氏の中国ブロック比例単独出馬を打診された。当然当選可能圏内のはずだったが、実際にノミネートされたのは北関東ブロック32位。山口県連が反発した結果である。

 そして19日に宇部市で開かれた林氏の決起大会では、河村系の関係者の姿は壇上になかった。建一氏は出席していたようだが、紹介すらされていない。 8人の総理大臣を輩出した山口県では「総理にならない候補はいらない」と言われる一方で、「河村氏に世話になった人もいるだろうに」と同情の声も聞かれる。「将来の総理総裁」と期待される林氏は衆議院選の山となる週末の23日と24日、萩市を精力的にまわった。ちなみに萩市の田中文夫市長は河村氏の実弟だ。

  衆議院山口3区には林氏の他、社民党の推薦を得た元目黒区議の坂本史子氏が立憲民主党から出馬。悩ましさを抱えつつも自民党の牙城たる地位は揺るがない強固な保守地盤に、どれだけ食い込めるかが課題だ。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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