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4・25 保守王国の広島参院再選挙で、野党は本当に“勝った”のか

安積明子政治ジャーナリスト
広島は政権奪還のきっかけとなったのか(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

自民党王国だった広島

 衆議院北海道2区と参議院長野県選挙区の補選とともに、4月25日に投開票された参議院広島県選挙区の再選挙。3つの選挙のうちここだけは当初、「自民党がとる」と言われていた。

 というのも、広島県は県内に7つある衆議院の小選挙区のうち、佐藤公治衆議院議員(立憲民主党)の第6区以外は、自民党議員が占めている自民党王国。しかも自民党の「保守本流」と言われる宏池会の本拠地で、故・池田勇人、故・宮沢喜一という2人の首相を輩出した。

 だから同じ参議院選挙区でも、革新勢力の強い長野県選挙区とは訳が違う。しかも参院長野県補選は昨年末に新型コロナウイルス感染症で急死した故・羽田雄一郎参議院議員の弔い合戦で、その弟である次郎氏を後継としたのは、“羽田家の後援会”である「千曲会」だった。長野県はまさしく「羽田王国」なのだ。なお衆議院北海道第2区は、自民党が候補擁立を断念して“不戦敗”となったため、ここではあえて考察しない。

 ともかく広島で野党の候補がなかなか決まらないことも、自民党が優勢とされる原因となっていた。広島地検特別刑事部長の経歴を有する郷原信郎氏が一時は候補に上がったが、会見を開いたものの、本人は出馬を否定。流れが変わったのは、宮口治子氏の出馬決定だった。

宮口擁立で野党が優勢になったワケ

 障碍児を含む3児を持つ働くシングルマザーの宮口氏は、地元の放送局でキャスターとして活躍。親しみやすいキャラクターを構築し、ブランド物で身を固めた案里氏と真逆のイメージを構築することに成功した。参議院広島県選挙区再選挙でターゲットにすべきは、もちろん「政治とカネ」の問題を体現した河井夫妻。彼らを徹底して叩くことこそ、2年前の参議院選に案里氏を擁立した自民党の弱点を突くことになる。しかも広島県全体に河井問題に対する嫌悪感が浸透しており、それに乗っかることは難しくない。

 一方で、自民党の西田英範候補は「政策を訴える」という正攻法をとっていた。もし常時なら、能力で優り、中央行政にも精通している西田氏の方が有利になっただろう。しかしコロナ禍の現在は戦時である。関心を政治に向ける余裕はない。

野党が展開した「河井」を意識した選挙戦略

 他の2つの国政選挙で野党がリードしていたため、広島県選挙区に重点を置くことができたことも有利になった。選挙戦最終日である24日午前に立憲民主党の蓮舫代表代行と辻元清美副代表が安佐北区のマックスバリュ前で演説し、午後には枝野代表が安佐北区と安佐南区でマイクを握った。安佐北区も安佐南区も衆議院広島県第3区内で、河井克行氏のかつての選挙区だったところだ。

 夜7時半から市民球場跡地で開かれたマイク納めには、立憲民主党からは枝野幸男代表と福山哲郎幹事長、泉健太政調会長、渡辺周幹事長代行が参加した。国民民主党からは玉木雄一郎代表と田村まみ参議院議員が駆けつけている。ただしこれで「野党共闘が成立する」と早合点してはいけない。政治の風はTPOに応じて変化する。

得票を読んでみると……

 そして広島に大きな風が吹いたのかといえば、そうでもない。宮口氏は37万860票を獲得し、西田氏の33万6924票を3万3936票上回った。2019年の参議院選で森本真治参議院議員が獲得した32万9792票をも上回っている。しかしこの時は共産党が独自候補を擁立していた。この時、共産党の公認候補である高見篤己氏が獲得したのは7万886票で、これを加えたのを宮口氏を応援した野党が獲得すべき票数とすれば、宮口氏は2万9818票逃がしていることになる。

 一方で宏池会は2019年の参議院選で溝手氏が27万183票を獲得しており、これを派閥の固定票と見た場合、西田氏は逆風の中で6万6741票を積み増したことになる。

 もちろん本選挙と再選挙の差はあるが、今回の再選挙は野党が「政権奪還」のきっかけとして位置付け、全国的に注目された選挙であることは間違いない。だがムーブメントのきっかけには、数字的にインパクトが弱いのだ。

したたかさでは自民党が勝る

 自民党は投開票の翌26日午前8時にさっそく「政調・経済成長戦略本部」を開催し、「今回の緊急事態宣言に係る経済支援」を検討。次期衆議院選に向けての対策を講じた。

このように自民党はたとえ転んだとしても、決してただでは起きないしたたかさを見せつける。ところが野党には、そのかけらさえも見ることはできない。

 野党が政権を奪還するには、まだひとやまもふたやまも超える必要があるのだろう。

 

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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