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日本学術会議問題だけではない! 小泉改革を踏襲するなら、菅政権は日本を壊す

安積明子政治ジャーナリスト
ベトナムで外交デビューの菅首相。しかし国内は……。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

内閣支持率が大きく下落

 9月に高い国民の支持を受けてスタートしたはずだった菅内閣だが、すでに内閣支持率が急落している。NHKが10月9日から11日に行った調査では7ポイント減の55%、讀賣新聞が16日から18日まで行った調査も7ポイント減の67%。17日と18日の共同通信の調査では5.9ポイント減の60.5%で、朝日新聞は53%で12ポイントも減少している。

 下落の主な原因は日本学術会議問題だと言われているが、“バブル”がはじけたことも原因だろう。それでも40%台後半から50%前後を維持できれば安定政権になるかもしれないが、40%を切る可能性も否定できない。

 そもそも華やかなスタートはふさわしくない。7年8か月も官房長官として第2次安倍政権を支えてきた菅義偉首相だが、安倍晋三前首相が辞任を表明するまでは決して有力な総理候補だったわけではない。たとえば2019年5月10日~12日の日経新聞とテレビ東京による世論調査では、「次期首相候補としてふさわしい」は、小泉進次郎氏が23%で、安倍晋三首相(当時)と同率。3位は11%の石破茂元地方創生担当大臣で、菅首相は前回より5ポイントも増えて7%で4位。もっともこの時は「令和おじさん」として知名度を上げた改元効果のおかげだろう。そして8月の世論調査でも、菅待望率は6%。29%でトップの小泉氏に追いつくはずがないと思われた。

小泉・河野を手中に収め……

 ところが同年9月に環境大臣に就任して以来、小泉氏の株は下がる一方だった。たとえば国連気候行動サミットに出席するためにニューヨークに到着早々、ステーキハウスに飛び込んだ件だ。

 牛肉は生産のために最も温室効果ガスを排出する。小泉氏は温暖化問題を議論するために渡米したにもかかわらず、「毎日でもステーキを食べたい」と発言した。その真意について記者から問われると、小泉氏は「好きなものを食べたい時はないのか」とやんちゃな子供のように切り返した。「そういうことを聞いているのではなく、大臣としてどう整理しているのか」と反論されると、「隠れてステーキを食べる方が嘘くさくないか」と述べ、限界を露呈した。さらにクリスティアナ・フィゲレス前事務局長が同席した記者会見では、「セクシー発言」が飛び出した。だが印象付けようとした企みを外国人記者は見通していた。日本が取り組むべき温暖化の具体策についての質問に、小泉氏は答えることができなかった。

 その小泉氏の入閣を推したのは、同じ自民党神奈川県連に所属する菅首相だったと言われている。決して重量級ではない大臣ポストを与えて、小泉氏を修業させようとしたと言われたが、1年たって考えてみると、小泉氏の痴劣さを露呈させることで、自分の道を開いたとも言えるのだ。

 そして菅政権発足後も、小泉氏を環境大臣に留任させ、同じく神奈川県連所属の河野太郎前防衛大臣を規制改革担当大臣に任命した。河野氏にとって外務大臣、防衛大臣、規制改革担当大臣と格が落ちることは本意ではないに違いない。だが規制改革は菅政権の政策の目玉だ。そのように説得されたら、嫌なポストではないはずだ。

 河野氏は就任早々、深夜の大臣就任会見に異議を述べ、行政の苦情や提案を募る「規制改革・行政改革ホットライン(縦割り110番)」を開設。当初、自分のHPに設置して「公私混同だ」と批判されるほどの熱の入れようで、まさに菅首相の計算通りと言えた。というのも、河野氏は全方面に配慮するオールマイティの政治家というよりも、問題点にズバリと斬り込むスペシャリストタイプ。2008年には自民党の「無駄撲滅プロジェクトチーム」を率いて、国立マンガ喫茶や酒類総研の廃止などを打ち出した。その突破力は菅政権のポイントになるはずだ。

馬脚が見えた成長戦略会議

 このように党内では敵なしの状態だ。9月の総裁選では石破氏は最下位で、「次の芽はなくなった」と言われている。岸田文雄前政調会長が2位となったのは、麻生派や細田派などが議員票を融通したためだが、党員票をわずか10票のみしか獲れないようでは党の代表を狙えるはずがない。そして若くて有力な2人の総理候補は自分の手のうちにある。このままいけば、来年の総裁選でも菅首相は安泰だろう。

 そうした驕りだろうか。菅首相は安倍前首相が力を入れていた未来投資会議を廃止し、成長戦略会議を立ち上げた。議長は加藤勝信官房長官で、首相が議長を務めた未来投資会議と比べれば格下感が否めない。だが10月16日に開かれた初回の会合には、竹中平蔵東洋大学教授や三浦瑠璃氏、デービッド・アトキンソン氏など菅首相の「お気に入り」が顔をそろえた。竹中氏は小泉改革の主導者で、総務大臣時に菅首相が副大臣を務めている。インバウンドや中小企業合併論などの菅首相の持論には、アトキンソン氏の影響が強い。

 果たしてこれが良いことなのか。インバウンド効果を呼ぶためには、日本が相対的に貧しくなければならない。また中小企業が合併するためには、どれだけの血を流さなければならないのか。地銀の合併は地方に経済的な不利益を与えないのか。これらの施策はみな、大都市・大企業目線のものではないのか。

小泉改革踏襲は悪夢

 もしかしたら菅首相は、小泉改革の“焼き直し”を行おうとしているのだろうか。だが2005年の郵政民営化選挙の圧勝をバネに強行された小泉改革は、果たして日本を良くしたのか。旧来の雇用体系を一変させ、格差社会を生み出したのではなかったか。2008年に発生したリーマンショックが日本発ではなかったにもかかわらず、諸外国よりも長く後遺症に苦しんだ。それはこの“改革”によって日本が体力を失ったためではないと言えるのか。

 さらにいえば、仮にリーマンショック時に日本が従来の体力を持っていたなら、麻生太郎首相(当時)は追い込まれ解散まで粘る必要がなく、民主党政権が誕生することもなかったかもしれない。もし我々があの時を二度と経験したくないと思うなら、その原因が何だったのかを知る必要がある。

 小手先で騙されてはいけないということも、この時に学んだはずの教訓だ。ハンコの廃止や不妊治療の保険負担など、確かに菅政権の主張には有益な個別施策もある。だがそれは、政権の目玉政策だと大袈裟に持ち上げるべきものなのか。

個別的にはともかく、いまいち全体的な国家観が見えない菅政権。見えるのは小泉政権と「お友達内閣」と揶揄された第1次安倍政権とのハイブリッド型政権であることだ。その恐ろしさを実感する時にはすでに手遅れだということを、我々は知るべきだろう。

 

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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