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延長される緊急事態宣言とそれをめぐる人間模様

安積明子政治ジャーナリスト
安倍首相は緊急事態宣言を延長する(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

誰が延長を決めたのか

 4月7日に発せられた緊急事態宣言が延長される。安倍晋三首相は4月30日午後4時過ぎ、二階俊博幹事長にその旨を伝達した。

「医療従事者の皆様には大きな負担がかかっておりまして、依然厳しい状況は続いているのではないかと私はこう考えておりますが、専門家の皆様のご判断をまず仰ぎたい」

 4月30日の参議院予算委員会で安倍首相がこう述べたが、その決意はすでに決まっていたのだ。では総理大臣の決定を左右する専門家とは誰なのか。

 一般的にそれは、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」と考えられている。副座長の尾身茂独立法人地域医療機能推進機構理事長は総理会見にも陪席し、重要な役割を演じている。尾身副座長は5月1日の会見で、「この感染症の対応は長丁場を覚悟しなければならない」と述べ、緊急事態宣言の期間を延長しても徹底した行動制限が必要だと暗示した。しかし専門家は彼らだけとは限らない。

横倉会長の影響力

 日本医師会の横倉義武会長は4月30日に自民党本部で岸田文雄政調会長と会談。その後、記者団に医療崩壊への懸念を表明し、緊急事態宣言の全国的な解除は困難であることを表明した。横倉会長はその前日、外国人特派員協会での講演でも次のように述べている。

「5月6日で緊急事態宣言を解除することはできないだろうと思います。特に東京を中心とした関東一円や愛知県、そして大阪を中心とした近畿、そして福岡あたりはまだ感染者数が増加していますので、(全国)一斉に解除はできないと思っています」

 そもそも横倉会長と安倍首相の関係は深く、約20年前に安倍首相が自民党社会部会長だった頃からの付き合いだ。2012年に日本医師会会長選で初当選した時には、横倉会長は野党だった自民党を支持した。2018年に横倉会長が日本医師会会長選挙に4選した時、安倍首相は就任パーティーに駆け付けている。また横倉会長は安倍首相が2月27日に全国の小中高の一斉休校を発表する直前に面会し、臨時休校や春休みの弾力的設定を要望した。

 さらに横倉会長は4月3日と4月29日に官邸で安倍首相と面会。29日には緊急事態宣言の延長については話さず、防護服の確保や検査体制の充実など医療体制の強化を訴えたというが、そこは以心伝心の関係だろう。

日本医師会の将来がかかっている

 鍵となるのが今年6月に行われる日本医師会の会長選だ。横倉会長はすでに昨年8月、九州医師会連合会の会合で事実上の出馬宣言を行った。背景に高齢社会で増大する社会保障費のカットがある。診療報酬増額のためには、横倉会長の政治力が頼みとなる。

 一方で、医師会の力は弱っているともいえる。2016年の参議院選では、内部候補の自見英子氏は21万562票を獲得したが、2019年の参議院選では日本医師会副会長だった羽生田俊氏の得票数は15万2807票だった。求心力を増すためにも、官邸との関係は重要だ。そしてコロナ対策について、特定集中医療室管理料や救急医療管理加算などの増額が決定している。

 

医療VS.経済

 もっともこうした意思決定システムには「医師の意見ばかりだ」と批判されている。実際に政府の専門家会議のメンバーは医学関係者や弁護士ばかりで、経済的視野に欠いているとの指摘もある。

 確かに緊急事態宣言が1か月延長されると、新たな失業者が78万人も増加するという分析もあり、経済的なダメージは非常に大きい。そうした状況を考慮した浜松市の鈴木康友市長は、飲食店などを対象とした休業要請を5月7日に解除する可能性を示唆した。

 一方で2月に緊急事態宣言を行い、いったんは収束傾向を見せた北海道に、4月に入って第2波が押し寄せている。鈴木正道知事と秋元克広札幌市長は4月30日に緊急会見を行い、道民に対して連休中に都市封鎖並みの自粛を要請した。このままでは医療崩壊が起きかねないからだ。

コロナが一変させた政治模様

 そのような状況の下、与野党は一様に補償対策の打ち出しを競いだした。たとえば家賃補助について、国民民主党ら野党は4月28日、「中小企業等の事業用不動産に係る賃料相当額の支払い猶予及びその負担軽減に関する法律案」を衆議院に提出した。内容は日本政策金融公庫等を使って家賃支払いを猶予・免除し、大家が家賃を減額する場合に国が支援するものだ。

 自民党案は金融機関によるテナントへの無利子無担保融資のうち、家賃相当分を国が手当する方向で、公明党は賃貸契約維持を支援する自治体に国が補助する仕組みを考えている。

 早期に成立させたい野党はこれらに歩み寄りを見せるが、「一律10万円の特別定額給付金」を巡って一敗地にまみれた自民党の岸田政調会長はどのように対応するのか。

 そもそもコロナ禍対策については一律10万円の特別定額給付金のように、与党より野党の方が先んじている感がある。自民党の「日本の未来を考える勉強会」は5月1日に100兆円規模の財政支出を内容とする第2次補正予算案の提言を発表し、50兆円規模の持続化給付金や現金10万円の一律給付を2回追加することなどを盛り込んだが、100兆円規模の補正予算や現金の追加支給は国民民主党の玉木雄一郎代表がすでに提唱したものだ。 

 玉木代表は9月入学制や生活に困窮する学生に対する20万円の特別給付金制度も提唱。授業料の半額を国が負担することも進めていくつもりだ。

 新型コロナウイルス感染症は我々の生活を脅かす一方で、我々のライフスタイルをも変えつつある。コロナ禍後の社会をどのように作りあげるのか。いち早くそれを見つけた政治家が、日本の未来を作るに違いない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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