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【自民党総裁選】 なぜ石破茂氏は自民党内で嫌われるのか

安積明子政治ジャーナリスト
リードする安倍首相になんとか追いつこうと、石破氏は論戦を挑む(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

ひとり暴走する石破氏

 告示日前なのに暴走している感じが否めない。自民党総裁選に出馬する石破茂元幹事長のことだ。

 もっとも石破氏にも言い分がある。政権与党である自民党総裁選挙は総理を選ぶ選挙だ。よって候補者同士が議論を戦わせ、その主張を広く国民に知らしめる必要がある。しかし自民党の総裁選挙管理委員会は、選挙期間中の討論会を党青年局と女性局共催のものなど2、3回に限定し、街宣も全国で5か所と2012年の総裁選の17回と比べて著しく減らした。

 理由は安倍晋三首相のロシア訪問だ。9月11日から13日までウラジオストクで東方経済フォーラムが開かれ、それに安倍首相が出席する。そのために自民党選管は選挙期間中の9月10日から14日にかけて、選管主催の行事を行わないと決定した。これに不満の石破氏は8月28日、松山市内で記者団に対して「国民に向けて語るよりも大事なことがあると判断したのだろう」と痛烈に皮肉っている。

安倍首相が東方経済フォーラムに出席する意義

 確かに東方経済フォーラムが開かれるウラジオストクは日本海沿いで、東京からの往来にさほど時間はかからない。その前後2日をまるごと“休戦”にする必要はないだろう。

 だが石破氏の言葉には問題がある。国際会議の出席は首相の重要な職務であり、決してなおざりにできるものではない。何よりも今回のフォーラムには中国の習近平主席も招待されており、日本にとっても重要な国際舞台となる可能性もある。石破氏がそうした側面をあえて見ずに国際会議出席を軽視するのなら、総理総裁を目指す者としていかがなものか。

 そもそも石破氏は本当に安倍首相と“討論”をしたいのか。国民に争点を提示するというよりもむしろ、衆前で安倍首相を徹底的に論破することを目指しているのではないか。総裁選で石破氏が掲げる「正直、公正、石破茂」というスローガンも、森友学園問題や加計学園問題をかかえる安倍首相への強烈な当てこすり以外の何ものでもない。

石破応援団の吉田氏も苦言

 そうした石破氏の“暴走”に対する危惧が、石破氏を応援する側にも出てきたようだ。吉田博美参議院幹事長は28日の会見で、石破氏と30日に会談すると明かした上で、「あえて個人攻撃のようなことはない形で、と申し上げたい」との苦言を述べた。山口県出身の吉田氏は安倍首相に近いにもかかわらず、青木幹雄元官房長官の指示の下で参議院平成研を石破氏支持でほぼまとめている。石破氏に対して「こちらの気持ちも察しろ」と言いたいに違いない。

 自民党は右から左まで幅広い考えを許容する政党で、その根底には無駄に波風をたてず、コンセンサスを重視するという文化がある。そうした政党を束ねるために何よりも必要なのは深い寛容性だろう。

 そのような意味で農業問題や地方創生に詳しく、防衛に関しては玄人はだし、政界屈指の政策通として知られている石破氏だが、リーダーとしての資質は果たして如何や。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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