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「サブスク貧乏」の私は言いたい。『財閥家の末息子』は、なんでNetflixじゃないのか。

渥美志保映画ライター
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毎年3月に確定申告を経験するフリーランスは、今の時期に「今の自分のお財布の中身」を目の当たりにし、「ここに、こんなに支払っていたとは……」ということ思い知り、打ちひしがれます。中でもこの数年、エンタテインメント関連で働く者にとってバカにならないのが、「Netflix」を中心にした配信チャンネルのサブスクです。確かに配信関連の仕事は増えているし、特に韓国ドラマの記事を多く手掛ける私にとっては、もはや配信サービスなしに仕事は成り立たないのですが、あれもこれもと契約するうちに、気づけば「サブスク貧乏」まっしぐら。でもそういう人は、きっと私のようなビジネス(だけじゃないですが)ユーザーだけではないはず。「脱・サブスク貧乏」のためには、何をポイントに契約したらいいのでしょうか。

まずはサブスクで「もっとも見たいもの」は何か。私の場合は、仕事でも趣味でも、ドラマ(特に韓国ドラマ)と映画が最重要です。ということで現在、登録している配信のサブスクは「Netflixベーシック」(990円/月額 以下同じ)「Amazonプライム」(408円(年額4900円))、「Disney+」(990円)、「U-NEXT」(2,189円)の合計4,577円(少し前に涙を呑んでWOWOW(2,530円)を解約…)。ここにネット接続とCSの「J:COM」がくわわり、月総額で12,000円前後、年額で15万円くらいに……いや、結構なお値段で!!

でも、韓国ドラマの最新作はこれなしには語れない「Netflix」と、配送料無料でお世話になりっぱなしの「amazonプライム」から離れることはもはや無理だし、グイグイ来てる「Disney+」からも目が離せないし、「関連作品で特集作りたいんですよね~」とか言われがちでなので、旧作の本数で無敵の強さを誇る「U-NEXT」は地獄で仏のような存在です。

さらに「どうしたもんか」って感じなのは、この4月12日に爆誕した謎のサブスク「Leminoプレミアム」(990円)。いやひとつも謎じゃなく、ドコモが営んでいた「dTV」が名前を変えてリニューアルしたものなんですが、なぜそんなに悩むかといえば、日本でもファンの多い韓流スター、ソン・ジュンギ(『ヴィンチェンツォ』)の昨年の大ヒット作『財閥家の末息子~Reborn Rich~』の配信が、なぜか「Lemino」で配信されるからです。

その他の韓国ドラマのラインナップを見ても、日本で多くのファンを持つ人気スターたちの最新作――パク・ヒョンシク(『SUIT』)の『青春ウォルダム』、イ・ジェフンの『復讐代行人 模範タクシー』、アン・ヒョソプ(『社内お見合い』)の『ホン・チョンギ』など――に加え、角田光代の大ヒット小説『紙の月』など、勘所をおさえた面白そうな作品がそろっています。昨年、ある配信サービスの関係者と話したときに「『財閥家の末息子』は値段が高すぎる」と言っていたことを思い出しますが、「Lemino」の韓国ドラマへの本気がうかがえます。

すごく気になっているのは、一昨年あたりに「来年日本に進出するぜ!」と息巻いていた韓国オリジナルの配信チャンネル「TVING(ティービン)」が、全然来ないことです。「TVING」は人気ケーブルテレビ「tvN」「JTBC」の関連企業の出資の、韓国で「Netflix」に次ぐシェアを占める配信チャンネル。日本での「Netflix」の加入者拡大に貢献した『愛の不時着』『梨泰院クラス』『サイコだけど大丈夫』『ヴィンチェンツォ』などの人気作や、「Lemino」の目玉作品『財閥家の末息子 ~Reborn Rich~』などを製作したのが両ケーブル局です。さらに昨年のNO.1作品として推す韓国ドラマファンも多い『ユミの細胞たち』は「TVING」のオリジナル制作。「「TVING」があれば「あの配信」は契約しなくてもいいんじゃなかろか」なんて思う韓国ドラマファンは結構多いかもしれません。

実はこの「TVING」は今、韓国市場で結構な苦戦(というか消耗戦)を強いられています。その理由は昨今のドラマ制作費の高騰。「Netflix」の強みはなんといっても、その資金力を背景にしたクオリティの高いオリジナル作品の数々。韓国ドラマだけをとっても、『キングダム』『D.P.脱走兵追跡官』『イカゲーム』『未成年裁判』『今、私たちの学校で』、そして現在大ヒット中の『グローリー 輝ける復讐』など、世界的ブームを巻き起こした作品がずらりと並びます。

「TVING」はそんな配信界の巨人に対抗できるようなハイクオリティなオリジナル作品を作ろうと、制作費に巨額の資金を投入しています。結果、現在配信中の『放課後戦争活動』をはじめ大ヒット作はうまれてはいるものの、コンテンツ原価は2021年の約707億ウォンから翌22年には1168億ウォンに上昇、売り上げは前年比88%増(1315億ウォン→2467億ウォン)であるにもかかわらず、赤字額は2倍以上(595億ウォン→1249億ウォン)に増加しているのだとか。でもだからこそより多くの視聴者を獲得するための海外進出も急務。予定していた日本と台湾への進出を、今年こそして果たしてくるに違いありません。嬉しい、けど、サブスク貧乏的には非常にヤバイ展開です。

実のところ「ひとり勝ち」と思われている「Netflix」も、多数の固定ファンを持つ「Disney+」も、世界的に見れば契約者は頭打ちになっている配信の市場。その収益化には、日本の配信サービスも地上波テレビ局系を含め、それぞれに苦戦しているようで、今年は様々な動きが起こっています。まず1月には「GYAO」が配信を停止、さらに3月には「U-NEXT」が、地上波TBSとテレビ東京のドラマを配信する「Paravi」と合併を発表、7月にサービスを開始します。

さらにレンタル大手TSUTAYAのプラン「TSUTAYAプレミアム」(レンタル定額借り放題&動画配信)でも、6月からはこれまでの「dTV」に代わって「U-NEXT」が動画配信の部分を引き受けることに。ただし「U-NEXT」の通常のアカウントで毎月付与されていたポイント1200円分と、アダルト作品はこちらには含まれません。(これはむしろ望むところ。個人的にはコミックとか小説とかもいらないんですが)

少なくとも「U-NEXT」は「TSUTAYAプレミアム」を通して契約しすれば、ちょっと節約できる……とか思うわけですが、配信契約の複雑怪奇なところは、実はここから始まります。ポイント還元です。「TSUTAYAプレミアム」は当然Tポイント(毎月6p)がついてくるんですが、「Lemino」はドコモ回線の特定の契約(ahamo含む)を条件に、「dアカウント」と紐づけたアカウント契約で料金の10%を還元(毎月90p)。さらに「Netflix」「Disney+」も紐付けてポイント還元することができるのです(N=90p~、D=180p)。これがTSUTAYAと比べると、ずいぶんお得!(ま、冷静に考えると100~200円ですが)。

「TVING」も日本進出においては「LINE」と組んで…という話で、でもその「LINE」は「Yahoo!」と統合していろいろ整理している最中ですから(「GYAO」の配信停止もその流れ)、ここがまとまると「TVING」日本上陸時には「PayPayポイント」で還元…なんてこともあったりするのかも。肉食感のあるコンビで胸が高鳴ります。恐ろしいほど熾烈なの群雄割拠の配信界隈は、携帯電話の回線契約とSNSとポイントから始まるECの大海原も巻き込んで、どうしたらコスト削減できるのか、何がお得なのか、はっきり言えば原稿書き始めた時点よりわかんなくなっている気もします。

参考までに周囲の人々の契約状況をチェックしたところ、「韓国ドラマ一派」は「Netflix・アマプラ・Disney+・U-NEXT」が固定で「Lemino」悩み中、「映画ライター一派」は「Netflix・アマプラ」が固定で、それ以外は「Hulu」「FOD」「hulu」「U-NEXT」「Apple TV」「youtube premire」「DAZON」「WOWOW」など個々の趣味と守備範囲でいろいろと手を出している模様。

おお、みなさん私と同じ「サブスク貧乏」……かと思いきや。「アカデミー賞とグラミー賞の時だけWOWOWに」「一ヶ月無料のお誘いが来た時だけU-NEXTに」「話題作が全話配信になった時だけNetflixに」と、驚くほどマメに契約と契約解除を繰り返しているようです。実は配信の利益が頭打ちになっているのも、そうした契約者が増えているからなのだとか。冷静に考えると1日は24時間しかないし、なんぼなんでも片目ずつで別チャンネルの同時視聴とかできるわけでもなし。究極的には「脱・サブスク貧乏」には「脱サブスク」しかないわけで、ポイントに目くらまされてる場合じゃない、って話かもしれません。

【参考】

https://the-owner.jp/archives/9202

https://m.dailian.co.kr/news/view/1221129

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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