監督復帰作『ハクソー・リッジ』を巡る、“マッド・マックス”と“アイアンマン”のちょっといい話。
今年のオスカーで2部門を獲得した『ハクソー・リッジ』は、実は太平洋戦争の沖縄戦「前田高地」での激戦における実話を描いたものです。
言っちゃあ戦争ものですが、この映画がちょっと変わっているのは主人公ドスが衛生兵で、入隊してからずーっと武器を持つことを拒否していること。そのせいでマッチョな仲間からはめちゃくちゃイジメられるのですが、初めての戦闘で撤退命令を無視して戦地に残り、一人で何十人もの負傷兵を救出してしまいます。それも、敵である日本兵も含めて。この人、ものすごーくガチなキリスト教徒だったんです。そしてこの映画を監督したのが、やっぱりガチガチのキリスト教徒であるメル・ギブソン。これ以上の適任者はいないかもしれません。
メル・ギブソンというと若い世代はちょっとなじみが薄いかもしれませんが、”初代マッド・マックス”といえば「へー」と思うかもしれません。昨年話題をさらった『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』はそもそもメルが主演した伝説のシリーズの最新作ですし、それ以降も『リーサル・ウェポン』シリーズなどで、80~90年代一世を風靡した大スターですよね。さらに自身が製作・監督・主演を務めた『ブレイブハート』でアカデミー監督賞も受賞しているすごい人。ところが結婚・離婚をめぐるスキャンダルとその後の度重なる奇行が影響し、俳優としての仕事は激減、監督としても『アポカリプト』以来10年も干されていたのです。
そんな中、彼の復帰を熱心に周囲に働きかけ続けた人がいます。それが『アベンジャーズ』の番長、”アイアンマン”ことロバート・ダウニーJr.。ハリウッドNo.1の大スターの彼も、かつては薬物依存が理由で映画界を干されていた時期があったんですね。そんな中、2003年、自身の監督作品に彼を起用したのがメル・ギブソンです。その時、引き換えにした約束が「次の機会に、君が誰かを助けてくれればいい」。2011年、アメリカン・シネマテークアワード(映画の映画界に突出した貢献が認められるアーティストへの名誉賞)の授賞式で、ロバート・ダウニーjr.は、この話に続けて「メルの復帰を」と呼びかけたのです。
拝金主義とか女性差別とか問題はいろいろありますが、こういう話もあったりするから、ハリウッドって捨てたもんじゃないなーと思います。
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