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巨大な悪に一泡食わせる、ファン・ジョンミンとカン・ドンウォンの痛快ツンデレ義兄弟

渥美志保映画ライター

月イチといいつつなんか久々な気がしますが、気を取り直して今回は【韓国早耳(じゃないけど)情報】『華麗なるリベンジ』をご紹介します。いまや韓国映画の大ヒット請負人であるファン・ジョンミンと、イケメンスターとして知られるカン・ドンウォンという顔合わせの豪華な作品で、「無実の罪を着せられた検事」と「口を開けば嘘ばっかりの詐欺師」という二人組が、巨大な悪に一泡吹かせるという痛快作!というわけで、まずはこちらをどうぞ!

まずは物語。あるリゾート開発を巡り、予定地を占拠する環境保護団体が暴動をおこし、警官に大怪我を負わせます。でもこれは彼らを装ったチンピラの仕業で、環境保護団体を悪者にするための開発会社の「仕込み」だったんですね。

この裏を読んだ担当検事のピョン・ジェウク(ファン・ジョンミン『国際市場で逢いましょう』)は容疑者を締め上げるのですが、翌朝この容疑者が死んでいるのが見つかります。ジェウクは上司ウ・ジョンギル(イ・ソンミン『未生―ミセン―』)のアドバイスで罪を認め正当防衛を主張しますが、裁判所はこれを却下し実刑判決に。実は上司ジョンギルこそが、建設会社、政治家とつながって、ジェウクを陥れた張本人だったんです。

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ところが刑務所に入って5年、偶然入所してきた詐欺師ハン・チウォンが例の事件で雇われたチンピラの一人だったことから、ジェウクはそのことに気付くんですね。チウォンを観察し「頭は悪くない」と判断したジェウクは、彼がさっさと出所できるように裁判での知恵を授け、代わりに出所後はジェウクの手足となって真相を暴く手伝いを約束させます。

さてこの作品を支えるのは、主演二人のすごーくいいバランスです。緻密な作戦を立てて巨悪相手に復讐を挑む検事と、軽薄なイケメン詐欺師の口八丁の実行部隊、その重さと軽さ、シリアスと笑い、渋さとイケメンぶり、そうした対照的な二人のバランスが、心地よく見られる王道娯楽作の空気やリズムを作っているんですね。

韓国映画は、兄貴と弟分という関係が大好き
韓国映画は、兄貴と弟分という関係が大好き

ファン・ジョンミンは大ヒットした痛快作『ベテラン』が記憶に新しいですが、この検事役は『ベテラン』で演じた刑事役とよく似た、「悪党を退治するために正義の味方になった熱血漢」で「正義のためなら暴力もアリ」な男。今回はそういうキャラが祟って陥れられてしまうんですが転んでもただでは起きず、刑務所の中で警察署長から受刑者までの法律相談に乗って恩を売り、さまざまなコネを作っていきます。

そこにタイミングよく現れたのがもう一方、カン・ドンウォン演じる詐欺師ハン・チウォンです。私はファン・ジョンミンが大好きなのですが、この映画に関してはもうカン・ドンウォンが断然いい。ある時は、政治家に立候補したジョンギルの選挙事務所に潜入して女子の会計係をコマし、ある時は若手地方検事に化けてエリートおじさんたちを魅了し、窮地に陥ってもその調子の良さと頭の回転の速さですり抜ける、そのチャラ男ぶりがおかしくて楽しくて全然憎めません。

アラン・ドロンの「太陽がいっぱい」のパクリもご愛敬。
アラン・ドロンの「太陽がいっぱい」のパクリもご愛敬。

カン・ドンウォンは映画デビュー作『彼女を信じないでください』の気のいい田舎青年役がすごく面白かったのに、その後はあんまりコメディをやらず「もったいないな」と思っていたので、この役は個人的には願ったりかなったり。美しくて悲しい冷酷な悪役を演じた『群盗』と同じ人とは思えない、新しい魅力が満載です。

このふたりを中心に、この映画は俳優さんがみーんないい。

一人目は悪役の上司ジョンギル役のイ・ソンミン。韓国ドラマ好きなら『未生―ミセン―』の情に厚いオ課長役でおなじみですが、『パスタ』のレストランの支配人とか、『男が愛するとき』のボスとか、『キング2ハート』の王様とか、顔も演技も大きく変えるわけじゃないのに、何を演じてもハマる人です。今回はいつものあの笑顔が本当に邪悪で憎々しく、素晴らしいの一言です。

もう一人は、ジョンギルを追い詰めるヤン検事役のパク・ソンウン。ドラマでは『製パン王キム・タック』の風車のイレズミの男が一番印象的かな~。『新しき世界』のクレイジーな企業舎弟、さらに『無頼漢 渇いた罪』でキム・ナムギルと死闘を繰り広げるやくざ者もすごーく素敵でした。

そんな男っぽい武闘派の役柄が多い人が、今回はスター検事になりたい風見鶏みたいなエリート役で、最初は「ヤンコン(ヤン検事)が参りました~」と政治家にお酌なんかしてたのに、「ヤン検事は英雄になる人です!ドラマのモデルになるかも!」とチウォンに乗せられて真相解明に乗り出してしまうキャラクターを、人間味たっぷりに演じています。

カン・ドンウォン、イケメンです~!
カン・ドンウォン、イケメンです~!

映画の流れとしては、あら?と思う破綻もないではないのですが、検察の腐敗を発端に制定された接待禁止法「キム・ヨンラン法」が韓国社会を揺るがす中、タイムリーなネタを芸達者なスター総出演で楽しませてくれるんですから、2016年の韓国の観客動員数No.1(ほぼ確定)という結果も当然かもしれません。カン・ドンウォンの可愛さはもちろんですが、作品世界をきっちりと固めるおじさん俳優たちの素晴らしい演技も、ぜひぜひ堪能してくださいませ~。

『華麗なるリベンジ』公開中

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映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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