神戸に無敗伝説を導くイニエスタの陰の努力とは?
緩やかな放物線を描くパスに、いくつものメッセージが込められていた。ボールと同時に味方も動かす。それも、数人の動きを融合させてゴールへ結びつける。ヴィッセル神戸に加入した稀代のプレーメイカー、アンドレス・イニエスタ(34)の真骨頂と言えるプレーが日本国内で初めて披露された。 史上最多の1万5351人で埋まった湘南ベルマーレの敵地、Shonan BMWスタジアム平塚へ乗り込んだ19日の明治安田生命J1リーグ第23節。両チームともに無得点で迎えた前半37分に、FCバルセロナとスペイン代表で一時代を築いた34歳の右足が眩い輝きを放った。 右サイドからドリブルでカットインしてきた、元ドイツ代表FWルーカス・ポドルスキ(33)から敵陣の中央でボールを預けられたイニエスタは一瞬動きを止める。この時点で味方の位置を間接視野で把握していたのだろう。ちょっとだけ左側を見た「8番」は、すぐに右へ体を開いて右足を振り抜いた。 ターゲットは直前に右手をあげて、存在をアピールしていた長沢駿(29)。ガンバ大阪から期限付き移籍で加入し、ベルマーレ戦が新天地におけるデビュー戦となった192cm、82kgの長身FWへ、あえてスピードを落とした山なりのパスをやや遠目の位置へ送った。 ボールに込められたメッセージはただひとつ。ベルマーレの選手たちを引き連れて、そのうえで競り勝ってボールを落とせ――。瞬時にイメージを共有した長沢は、アンドレ・バイア、坂圭祐の両DFを背負い、相手ゴール前から遠ざかりながら空中戦で完璧に勝利する。 「本当にいいところを見てくれていましたし、それに上手く反応できたのもよかった。タマが入って来るのも見えたので。そこに上手く落とせればと思っていたので、狙い通りだったと思います」 豪快なヘディングを見舞い、なおかつバイアと坂を空中で弾き飛ばす。初陣で大仕事を成し遂げた長沢が胸を張れば、長沢から愛称の「タマ」で呼ばれたMF三田啓貴(27)も、長沢が離れたことで相手ゴール前に生じたスペースを目指して以心伝心で走り込んで来る。 「アンドレスがボールをもったときに、長沢選手がプルアウェイして動いたので。これは3人目の動きだ、と思って思い切り走りました」 右サイドから斜め左へトップスピードで、ほとんどフリーで侵入した三田の足元へ絶妙のパスが入る。食い下がってきたMF石川俊輝、慌てて詰めてきたDF山根視来を2度の切り返しでかわした三田は余裕をもって利き足の左足を振り抜き、痛快にゴールネットを揺らした。 「いい攻撃の形だったし、コンビネーションもどんどんよくなっている。FWに背の高い選手がいて、2列目から飛び込んでくる選手もいた。チームメイトも僕のことをわかってきてくれているし、僕も彼らのことを徐々に理解している。これをどんどんよくしていくプロセスにあると思っています」 試合後のイニエスタも及第点を与えた先制弾。 もっとも来日から1ヵ月が経ち、時間の経過だけでコンビネーションが熟成されたわけではない。一刻も早く新しい仲間たちを知ろうと、イニエスタは懸命な努力を積み重ねてきた。