世界の農業に〝革命〟もたらすか 沖縄「OIST」発企業が開発した画期的な吸水素材
世界トップクラスの研究機関として知られる沖縄科学技術大学院大学=通称OIST(オイスト)、沖縄県恩納村=発のスタートアップ(新興企業)が画期的な吸水素材を開発し、国内外で評価されている。自然由来の果物の皮などからつくられるため環境負荷がなく、土壌に混ぜることで少ない水でも農作物を育てられるようになるという。ロシアによる侵攻で灌漑(かんがい)設備を失ったウクライナにも寄付された。旱魃(かんばつ)に苦しむ地域で活用できれば、世界の農業に〝革命〟をもたらす可能性もある。 【写真】自然由来の画期的な吸水素材を開発したナラヤン・ラル・ガルジャールさん ■開発者はインドから来日 野生動物の宝庫として知られる沖縄本島北部の「やんばるの森」。OISTのキャンパスは南国の青い海を望む高台にある。約200ヘクタールの広大な敷地。研究棟や宿舎が点在するのキャンパスの一角に、画期的な吸水素材を開発した「EFポリマー」のラボ(研究室)兼オフィスがあった。 「農家の父が水不足で悩んでいたことが、ポリマーを開発するきっかけだった」。そう語るのは、スタートアップの創業者で最高経営責任者(CEO)のナラヤン・ラル・ガルジャールさん(26)だ。 ナラヤンさんが生まれたのは、パキスタンと国境を接するインド北部のラージャスターン州。人口300人ほどの自給自足の村だった。降雨量が少なく、農家は深刻な水不足に直面していた。 幼少期から化学に興味があったというナラヤンさん。父親から「そんなに化学に興味があるなら助けてくれ」と言われ、一念発起したという。 水不足対策として、小さな穴の開いたチューブで根にぽたぽたと水を注ぐ「点滴灌漑」なども試行錯誤したが、高校生のころ、ある素材に解決の糸口を見いだす。 それは、水分を吸うとゼリー状に膨らむポリマー。おむつや保冷材などに使われる吸水性の高い素材で、それを畑の土中に埋めれば、少ない雨でも水分を保持できるのではないかと考えたのだ。 ただ、一般的なポリマーは石油が原料で、土壌汚染など環境負荷を考えれば、農業には適さない。そこで、植物由来の原料でポリマーを製造できないかと思い立ち、オレンジやパイナップル、サトウキビなどの皮を土の中に埋め、どのような変化が起きるか実験を重ねていった。 農業大学に進学後も、自然由来のポリマーの研究に没頭し、アルバイトや父親や知人から借りた資金でポリマーの製造会社を起業。高吸水性ポリマーの開発に成功した。