世界の農業に〝革命〟もたらすか 沖縄「OIST」発企業が開発した画期的な吸水素材
■50倍の吸水性
ナラヤンさんは4年前、OISTのキャンパス内に会社を設立。開発したポリマーと同じ名称を冠した。
特許技術を取得したポリマーは、自重の約50倍の水を吸える能力を持ち、土中で半年間にわたり、適度な水分量を保持できる。その後は半年で完全に分解され、土にかえる。ポリマーの活用で40%の水を削減できる上、20%の肥料を削減でき、一定の収量アップが望めるという。
最高マーケティング責任者(CMO)を務める中尾享二さん(36)は「作物の根の周りに給水タンクができるイメージ。流れ出る水溶性の肥料もポリマーでとどめておくことができる」と説明する。
ポリマーの生産拠点はインド・ラージャスターン州にあり、今年5月には工場を拡張。コンピューター制御の最新設備を導入し、月産20トンから100トンに生産規模も5倍になった。ポリマーはインドや日本のほか、米国やフランスなどで販売されており、さらなる販路拡大を目指している。
■ウクライナ支援で5トンを寄付
ロシアの侵略が続くウクライナで昨年6月、南部へルソン州の川沿いにあるカホフカ水力発電所のダムが決壊した。ロシア軍は電力などのインフラ施設を集中攻撃しているが、ダムの決壊によって農業生産にも甚大な影響が出た。
報道で惨状を知ったEFポリマーの役員がウクライナ支援を在日ウクライナ大使館に申し出て、ポリマー5トンが寄付されることになった。今年1月にインドの工場からポーランド経由で配送。輸送費の百数十万円は沖縄県内56社の協力を得たという。
OISTの長嶺さんはナラヤンさんが創業したスタートアップについて、「今では資金調達にも成功し、海外にも市場を拡大している。彼らは素晴らしいロールモデル(手本)となっている」と強調する。
世界の貧しい地域にとって、ポリマーなら大規模な灌漑設備の整備がいらず、手の届きやすい有効な水不足対策となり得る。現在はインドの食物残渣(ざんさ)を利用してポリマーを製造しているが、沖縄の柑橘類であるシークヮーサーなどの活用も視野に研究を進めている。