「アベノミクスは失敗」に首相が反論 雇用は本当に改善しているのか?
女性の就業者数は増えたが……
雇用が改善しても平均的賃金が増加しないのは、上記のような女性、若者、高齢者というキーワードで理解できます。女性の就業者増加は、多くがサービス業(介護を含む)での「非正規雇用」で正規雇用と比較すると賃金が低めです。 図は2015年における男女別、産業別にみた正規、非正規従業員数の統計です(総務省「労働力調査(基本集計)平成27年(2015年)平均(速報)」)。非正規は女性に多く、卸・小売業、介護事業等(社会保険・社会福祉・介護事業)で特に割合が高くなっています。
これらから様々な問題が見えてきます。例えば、女性については、主婦や若者で他に働いている人がいる場合は、世帯としてみれば収入は十分かもしれません。けれども、女性が一人で世帯を支えるとなると、雇用環境改善の恩恵はなかなか感じられないはずです。 新しいアベノミクスではこれらの問題に積極的に対応しようとしています。ところが、介護、保育などのサービス業は人手が必要ですが、一方で、製造業のようには機械化できないので、どうしても生産性(介護では一人で担当できる数)を上げにくい構造にあります。仮に、労働力人口の頭打ちや景気のさらなる改善で人手不足から賃金が上昇したとしても 、(生産性が上がって対応できるわけではないので)需要する側の支払いが増えるかサービス量が低下するかになります。 私はこの問題に対する根本的な解決策を思いつきません。しかし、それがむしろ重要です。最近、「保育園に落ちた」ことが話題になりましたが、これを財政支出で施設数や保育士を増やすなどするのには、お金が足りないことを意味します。介護や保育の問題は、家で食事を作るか外食するかという「経済問題」に似ています。毎日外食するのは経済的に容易ではありません。また、そのようなことが出来るように、外食産業が価格を下げるのも、ましてや財政で補助するのも容易ではありません。心情的には望む人が望むサービスを受けられるようになって欲しいのですが、政府にとっては、人々が毎日外食できるような政策が行えないという経済問題を、雇用や社会保障でも抱えています。 以上のように、安倍首相が主張するように雇用状況が改善しても、 賃金が伸びない、必要なサービスが受けられない、一部(中高年男性、家計を支える女性など)は依然として状況は厳しいなどの問題が残っています。財政支援などの政策に頼るだけでなく、市場機能も有効利用した配分を考えるべきです。
--------------------------- ■釣 雅雄(つり・まさお) 1972年北海道小樽市生まれ。一橋大学経済研究所助手などを経て、現在、岡山大学大学院社会文化科学研究科教授、日本経済などの授業を担当。専門はマクロ経済学や経済政策。著書に『入門 日本経済論』(新世社)など。博士(経済学)