うつ病で自殺未遂した高齢女性が劇的に回復。「遊びリテーション」のすごい効果
「遊びリテーション」とは、遊びでありながらリハビリテーション的な効果が期待できる高齢者向けのアクティビティのことです。およそ30年前に介護現場で誕生し、各地で行われてきました。 【画像】死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 リハビリには医師の処方が必要ですが、遊びは参加する人の好みでいかようにもアレンジできます。そんなふうに、誰でも自由に始められるという利点が、遊びリテーションにはあるのです。 この記事では、病気や障害のある人でも参加できるよう工夫された120以上のレパートリーのなかから、とくにおすすめできる活動を、『完全図解 遊びリテーション大全集』から抜粋してお届けします。今回は、高齢者の「うつ」にも効果がある「歌うこと」について、あるエピソードを紹介するところから始まります。
いまや国民病の「うつ病」。後期高齢者の間でも問題に
警察庁の統計によると、日本ではここ数年、毎年2万2000~2万7000人もの自殺者が出ています。不安障害やうつ病が原因で命を絶つ人も少なくないと言われ、いまやうつ病は国民病と考えられています。 老人介護施設の利用者や独居老人の中には、部屋にこもって何事にも興味を持たず、何かを楽しむこともなくすごしている人が少なくありません。うつ病ではないかと思われる人もいますし、自殺願望を持ち、本当に実行して亡くなってしまう人もいます。 こんな状況の中で、2025年までに団塊の世代が後期高齢者になります。老人のうつ病が増え、孤独死、自殺が増加する可能性は否定できません。実際に、私が勤務していたある老人病院では、こんなケースがありました。
歌うことで、自殺を図るほどの「うつ」を克服した女性
うつ病で自宅の2階から飛び降り自殺を図った72歳の女性が入院してきました。幸いにして命は助かりましたが、大腿骨および膝蓋骨骨折と左目の視力低下という重傷を負いました。救急病院での整形外科の治療が終わり、骨折は治りましたが「二度と歩けないだろう」という医師の見立てで、老人病院に転院してきたのです。 入院当初は、その見立てどおり歩くことができず、夜間はオムツ、昼間はベッド脇のポータブルトイレを使用していました。私は当時、その病院で「遊びリテーション」を実践していました。しかし、その女性を誘っても、「イヤッ」と言って布団を頭からかぶってしまう日々でした。 取りつく島もない状態でしたが、毎日誘いに行っているうちに、やがて車イスには乗ってくれるようになりました。そこで遊びリテーションの場に連れ出し、みんなの輪の中に入れようとしましたが、どうしても「イヤッ」となってしまいます。 ある日「1曲歌ってみませんか」と誘ってみました。ところが、やはり「イヤッ」という返事。そこで「あなたは菜の花のように綺麗だから、菜の花畠の歌を歌ってあげましょう」と言って、みんなで合唱しました。 すると、何日か後、女性が「私も歌ってみる」と言いだしたのです。さらにその後、人前で歌も歌うし体操もするようになりました。医者に「歩けない」と言われた脚で歩くようになり、オムツが外れ、自力でトイレに行けるようにもなったのです。 何より驚いたのは、遊びリテーションに参加するときボランティアの役を引き受け、ほかのお年寄りの世話をしてくれるようになったことです。 誰でも、ほかの人から認めてもらえるのは嬉しいものです。認められると、行動も変わります。この女性が、そのよい例ではないでしょうか。遊びリテーションを通して人を認め、自分を認めること。それにより「うつ」をも克服できる可能性があるということを、私は教えられました。