3月20日から「春分」。野遊び作家が教えるこの時期ならではの<野草の楽しみ方>とは?「サクラは花見以外にも一年中楽しみを与えてくれる」
◆野草の楽しみ方 初候 雀始めて巣くう 土筆*ツクシ 「ツクシだれの子、スギナの子」と言われるように、ツクシはスギナという多年生シダ植物の胞子茎にあたる。 栄養茎であるスギナよりひと足先に、暖地では2月の末ごろから顔を出し始める。 子どものころ、野遊びのついでに摘んで帰ったツクシをお母さんが玉子とじなどにして食べさせてくれた経験がある人も多いだろう。 料理としては、この玉子とじが定番だが、他に、おひたし、和え物、きんぴら、炒め物、煮びたしなどでも楽しめるほか、意外な珍味が「つくしご飯」。 ツクシをおいしく食べるコツは、頭が開く前の若いものを使い、ホロ苦さを楽しむこと。 仄聞(そくぶん)したところでは、明治天皇が「つくし料理」をことのほか好まれたという。 次候 桜始めて開く 桜*サクラ 満開のサクラは、日本人の心を浮き立たせ、華やかな気分にしてくれるものだ。 けれども、多くの人は、サクラという樹と向き合うのは年に一度の花見だけであろう。 しかし、サクラは花見以外にも一年中なにがしか楽しみを与えてくれるものなのだ。 たとえば、ヤマザクラの若葉では「さくら餅」を包むし、ヤエザクラの花は塩漬けにして「桜湯」に、そして初夏に熟す果実ではガーネット色に結晶する「さくら酒」ができる。 また、夏期の樹皮は桜色に染め上げる染料になるし、剪定した枝は燻製用の上等なチップとして利用できる……。 このように、こちら側にそういう感性と知識とさえあれば、サクラという樹木はお花見以外にも一年中いろいろと楽しめるのである。
◆末候 雷乃声を発す 蓬*ヨモギ わが家では、家族それぞれが自分の誕生日のための「薬湯(くすりゆ)」を定めていて、これを「バースデイ・バス」と呼んでいる。 そして、銘々の誕生日には自分のバースデイ・バスをたて、家族全員がそれに入浴する習慣になっている。 たとえば3月生まれの筆者の場合はヨモギを入れる「ヨモギ湯」という具合である。 ヨモギはキク科の多年草で、春の若葉で草餅を作ったり、下痢止めや健胃の健康茶、お灸のもぐさなど食用、薬用に重用される。 「ヨモギ湯」のたて方は、一回分として両手の平一ぱい分のヨモギを鍋で煮立て、その煮汁を風呂湯に加えて入浴する。 植物精油が多く、良い香りがするうえに、全身がよく温まり、風邪や腰痛に効用がある。 ※本稿は、『七十二候を楽しむ野草図鑑 季節の移ろいの中で心穏やかに暮らす』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
大海淳