ホンダと日産 協業に向けて前進も…今後の展望
そして、すでに日産と提携関係にある三菱自動車もこの枠組みに参画することが明らかにされました。 「新たな仲間が参画することになった。技術や知識の結集による新たな価値の創出と、三社でのさらなる効率化が期待できると確信している」(日産・内田社長) なお、三菱自動車の加藤隆雄社長は会見に姿は見せませんでした。 社風も文化もファン層も違う両社の協業検討は、3月の会見の時点ではいささか疑心暗鬼のところもありましたが、今回の会見では予想以上に進捗し、多岐にわたっていると感じたのが正直なところです。それは、中国をはじめとする新興勢力の攻勢に対する危機感にほかなりません。折りしも中国市場における7月の新車販売台数は前年同月比でホンダ41.4%減、日産20.8%減と著しい落ち込みでした。新エネルギー車への「ゲームチェンジ」と激しい価格競争で厳しい市場環境にあることがうかがえます。 「電動化、知能化という領域においては、新興勢力含めてかなりわれわれの想定を超える以上のスピードで変化している。個社の中でそれをやると、いまのままでは彼らの背中を捉えることはできない。いまは平常時というより非常時。いままでのやり方の延長線上ではなかなか世界を捉えることはできない」 ホンダの三部社長の認識はまさに「協業しか手がない」という危機感そのものですが、課題は少なくありません。一つはカネ。三部社長はソフトウェアの開発費用について「四桁億円ぐらい」と話していました。協業で分担するとはいえ、膨大な開発費を、企業体力を維持しながら調達することができるのか、特に日産は今年度第一四半期の決算の営業利益が前年同期比99%の減益となりました。現状の技術、商品力でつなぎながら、次世代に向けた開発費用を安定的に捻出するには一段の奮起が必要でしょう。両社の資本提携の可能性についても質問に上りましたが、「現時点では検討をしていない」と話す内田社長に対し、三部社長は「今後のビジネス含めて可能性として否定するものではない」と含みを持たせました。 続くバッテリーに関してです。日産が以前、NECと合弁で設立したAESC(オートモーティブエナジーサプライ)は現在、中国資本「エンビジョン」の傘下にあります。ホンダはGSユアサなどと組んでいますが、今後のバッテリーの調達を考えると、両社が手を組むのはもはや必須と言える状況です。ただし、大量調達の体制となっても、安全性が第一であることは言うまでもありません。 記者会見では次世代バッテリーとされる全固体電池についての言及はありませんでした。実はここが気になったところですが、関係者によると、現時点では両社の「競争領域」となっているようです。ただ、電池開発の専門家の話では、全固体電池はトヨタが世界的に見ても生産体制を含めた技術力で圧倒的にリードしているとのこと。この分野についても、今後、両社が向き合っていくことになるのか、注目です。 記者会見では「スピード」「スピード感」「スピーディ」という言葉が両社の社長で計19回飛び出しました。内田社長も「何が足りないか、やはりスピード感」と認めます。ホンダとの技術交流会に以前参加したことのあるサプライヤーのOBは、ホンダで驚いたのが試作車製作のスピードだったと言います。「本田宗一郎イズムのF1で養ったものではないか」と話していました。日産はこうしたところもホンダに期待しているとみられます。 「最初のステップに踏み出すことができた。今後これらの構想をスピーディに実行に移し、成果を刈り取っていくことが重要。矢継ぎ早に手を打っていく。まだまだ試合は始まったばかり、十分戦えると思っている」(三部社長) 会見では現場レベルの従業員も参加、「化学反応を起こしながら、お互いをリスペクトしながら密なコミュニケーションがとれた」(ホンダ)、「SDVでもう一度勝つ、リードするという想いは共通している。新しい世界をつくれると確信している」(日産)と前向きな発言が相次ぎました。現場からは社風や文化の違いを超えた熱量を感じます。ただ、それと経営陣の力量は別の話。特に日産は件の通り、経営の失敗や混乱の歴史があります。 会見後、両社の社長はフォトセッションに応じ、改めて握手を交わしました。非トヨタ系として、中国などの新興勢力に対峙しながら、協業を正しい方向に導くことができるのか、両社の経営手腕が問われます。 (了)