ホンダと日産 協業に向けて前進も…今後の展望
「報道部畑中デスクの独り言」(第380回) ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は自動車業界の協業について。
8月1日午後4時、東京・京橋のホール。両社の社長は登壇の際、笑顔で軽い握手を交わしました。自動車大手のホンダと日産自動車が今年3月、電動化・知能化の分野における提携検討を発表していましたが、あれから4カ月あまり、その進捗状況が明らかにされました。 「前回はまだ検討をスタートするという段階だったので、握手をするのは時期尚早と考えていた。思った以上にメディアがこの点を取り上げていて、少し心を痛めていた。しっかりと握手ができるまで進展が図られたことを報告しておきたい」 ホンダの三部敏宏社長は記者会見の冒頭、このように語りました。また、日産の内田誠社長は約100日間にわたる検討の成果を強調しました。 「文化の違う両社ではあるものの、課題認識は現場レベルで同じであることがわかった。お互いの強みを生かして、1+1が2以上になるシナジー(相乗効果)を生み出せる協業分野を特定できた」 今回のポイントは「次世代SDV(Software Defined Vehicle)プラットフォームに関する基礎的要素技術の共同研究」「バッテリー、イーアクスル、車両の相互補完、エネルギーサービスなどの協業検討」そして「提携検討への三菱自動車参画」です。 自動車業界は以前からそうですが、英字やカタカナ用語が多く、“翻訳”に苦労します。SDVとは何か? 経済産業省と国土交通省が発表した「モビリティDX戦略」で次のように定義されています。 「クラウドとの通信により、自動車の機能を継続的にアップデートすることで、運転機能の高度化など、従来車にない新たな価値が実現可能な次世代の自動車」 今後、クルマの機能は、機械的な部分以上に、ソフトウェアに負うところが大きくなるというわけです。自動車業界ではソフトウェアを含む基盤=プラットフォームの構築が急務になっており、トヨタ自動車も「Arene(アリーン)」と名付けたプラットフォームの開発を進めています。WindowsのようなOSの車載版とも言えるもので、パソコンと同様の展開がされれば、クルマの世界もプラットフォームを制する者が世界を制する可能性があります。 「競争力を左右する要素は、技術者の質と数、データ量、計算処理能力、これらのかけ合わせと言われている」 ホンダの三部社長はこのように述べ、競争力を確保するための共同研究の意義を強調します。今後1年をめどに基礎研究を終え、現在の仕様とは違う進化したシステムを、順調にいけば、2030年の手前には具体化したいという考えを示しました。 続いて、電動化の領域でも踏み込んだ合意が交わされました。両社が調達したバッテリーを今後、どちらの車種にも搭載できるようにすること、イーアクスルと呼ばれるEV=電気自動車の中核となる装置を将来共通化することを目指し、そのステップとして、装置を構成するモーター、インバーターを共用していくことで合意しました。 モーター、インバーターの共用において、三部社長は供給元も明かしました。それは「日立Astemo(以下アステモ)」というサプライヤー=部品メーカーです。アステモについては以前小欄で、かつての日産系、ホンダ系のサプライヤーが統合されて成立した経緯があり、サプライヤーレベルで両社の距離が縮まっていることをお伝えしました。ホンダ・日産の提携にひと役買っていることが裏付けられたことになります。 なお、イーアクスルはモーター、インバーターに加えて減速装置などで構成されます。共通化に向けてはこれらの部品に関する調整も必要になってきます。また、アステモはいわゆる「Tear1」=一次下請けのサプライヤーです。電動化の分野で今後二次、三次以降を含めた企業再編が加速することが予想されます。 そのほか、車両の相互補完、具体的な車種は明らかにされませんでしたが、ガソリン車からEVなど、幅広い文化を検討しているということです。充電サービスなどエネルギーにおけるサービス体制についても協業検討で合意をみました。