「異業種×本屋」でどうなった? ホテルに「風呂屋書店」をオープンして、見えてきたこと
「本好き」従業員のエンゲージメントが向上
風呂屋書店をオープンしたことで、波及効果も生まれている。本好きの従業員が書棚の整理や管理を積極的に行うなど、エンゲージメントの向上にもつながっているという。新卒の採用活動においても、宿泊施設内に書店があるという独自の取り組みが学生から関心を集めており、差別化要因として機能しているようだ。 風呂屋書店では今後、独自の付加価値を高めていく。11月下旬には、イラストレーターの作品展示会と絵本のコラボイベントを予定している。「もともと宿泊施設は四季の表現や、その土地の歴史・文化を大切にしてきた。それを本を通して表現していきたい」と大島さんは語る。 DNPによると、風呂屋書店の開業後、ホテル業界に限らず多様な業種から問い合わせが相次いでいるという。「ホテル業界や観光業のほか、オフィスや公園など、当初想定していなかった業界からの引き合いもある」とDNPの読書推進部書店企画課課長の増井絵美さんは語る。 今回の書店開業支援サービスの特徴は、「信任金」(取引保証金)が不要な点だ。従来、書店をオープンする際に、取次との取引に必要とされていたもので、これが不要になるということは、初期コストが抑えられることになる。 さらに、グループ内に丸善ジュンク堂書店などがあり、書店運営のノウハウを持つDNPが、コンセプト設計から選書、仕入れまでをサポートすることで、異業種からの参入障壁を下げている。
既存の書店モデルにこだわらない
DNPは、書店開業支援サービスについて2026年度までに累計売上高5億円を目指している。今後は、観光とオフィスという2つの領域での展開を強化する考えだ。「観光地の書店は地域の方にも、訪れる方にも新たな価値を提供できる。また、リモートワークからオフィスへの回帰が進む中、本を活用した社員同士の関係性向上にも可能性を感じている」(増井さん) 風呂屋書店を利用するのは、宿泊客が多いが、課題も見えている。季節に合わせたラインアップ、本にちなんだイベント企画を実施するなど、「宿泊施設の書店」という独自性を打ち出す必要がある。 「現状は初回納品分の書籍で運営している。今後は更新を進めながら、さまざまな企画を通じて価値を高めていきたい」と大島さんは語る。 書店のない自治体が増加する中、DNPは既存の書店モデルにこだわらない柔軟な展開を目指している。本と生活者が出会える場を作るため、従来の書店という形態にこだわらず、様々な事業者との連携を進めていく考えだ。 書店という業態は、これまでにない形で進化していくのかもしれない。 (カワブチカズキ)
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