【糖尿病に効果的な運動と治療】患者が検証した「血糖値をコントロールする食事と運動」の仕方 治療薬にも選択肢が広がる【医師が解説】
さまざまな合併症リスクがある糖尿病を改善するには、どのような生活習慣が求められるのか。また、昨今では注目される治療薬が登場し、治療の選択肢も広がっている──。シリーズ「名医が教える生活習慣病対策」、東京慈恵会医科大学附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科・西村理明教授が解説する。【糖尿病に効果的な運動と治療・後編。前編から読む】 【グラフ】生活習慣改善をすることで、食後血糖値の推移に変化
食事と運動で血糖値をコントロールする
糖尿病は血管にダメージを与えることがわかっています。血管内にブドウ糖が大量に存在すると血管の壁にある内皮細胞にブドウ糖が入り込み、活性酸素が発生して血管壁の細胞を傷つけます。さらに過剰なブドウ糖は細胞のたんぱく質と結合し、細胞自体が変性して血管を傷つけるのです 糖尿病では全身の血管が傷つき、「しめじ」といわれる3大合併症が起こります。「しめじ」とは、糖尿病性神経障害の「し」、糖尿病網膜症の「め(目)」。糖尿病性腎症の「じ」で、どれも怖い合併症です。神経障害によって脚などが壊死して切断に至ったり、成人の主な失明原因の1つが糖尿病性網膜症であり、人工透析の原因の第1が糖尿病性腎症です。糖尿病は病状がかなり進行しないと自覚症状がない病気なので、気づいたときには合併症が進行していて手遅れというケースもよくあります。 糖尿病の合併症は、主に毛細血管など細い血管が傷つくことで起こることから、糖尿病の診断基準は細い血管がダメージを受けるかどうかで決められてきました。ところが、近年の研究により、細い血管が傷つく以前の早い段階で、太い血管が傷つくケースがあることがわかってきました。 たとえば、「空腹時血糖値100 mg/dL、ヘモグロビンA1c5・7%」という検査数値では糖尿病と診断されません。ところが、食後血糖値が急激に上がる血糖値スパイクがあれば、太い血管を傷つけ、突然心筋梗塞や脳卒中を発症する危険性があるのです。親族の中に突然死したり心筋梗塞を発症した方がいるという「血管が傷みやすい家系」であれば、糖尿病による合併症のリスクが高いので注意が必要です。 食事と運動で、どの程度食後血糖値に差が出るかを検証した患者さんがいました。前年の健診でヘモグロビンA1cの数値が正常だったのですが、翌年いきなり12%に上がり、食後血糖値はピークで250 mg/dLを超えました。そこで、朝食後にウォーキング、昼食後は昼寝、夕食後は運動で体を動かすなど、生活改善に努めながら血糖値を測定しました。 結果は、朝食後にウォーキングした後は、血糖値が上昇しても短時間で低下しましたが、昼食後に昼寝をすると血糖値が上昇した後しばらく下がらず、しかも、下がるまでに時間がかかりました。そこで食事の後に運動するようにしたところ1週間後には血糖値の数値がかなり改善され、1年後にはなんとヘモグロビンA1cが5.6%まで下がりました。その間にダイエットも継続したので、体重は85kgから75 kgまで落ちました。食後の運動が糖尿病の改善に効果的であることを証明する事例でした。 一方、「どのような食べ方をすれば血糖値のコントロールができるか」を検証した患者さんがいました。食事の際に、「野菜から先に食べる」「30回噛んで食べる」「運動はしない」という3つの条件で4日間、同じ内容の食事を食べて血糖値を測定したところ、食後血糖がほとんど上昇しないことが確認できました。 つい最近、野菜を先に食べてもダイエットにはつながらないという結果が発表されましたが、血糖値のコントロールにとっては、野菜から先に食べる「ベジファースト」で、しかも「ゆっくり食べる」のが有効であると実証したのです。これに「運動」を加えると、より効果的であることは間違いありません。
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