山本美香さんの死から1年 彼女が残したメッセージ
山本美香さんが伝えたかったこと
彼女は学生にこんなメッセージを残している。 「現地の人たちが全力で怒りや悲しみをぶつけてくるのですから、同じ人間として心を大きく揺さぶられます。悔しかったり、悲しかったり、怒りの感情が生まれ、心の中にどんどん積もっていきます。……現場で感じる恐怖心を忘れないようにしたい」(『ザ・ミッション』) 紛争地には、戦いに翻弄され苦しみながらもたくましく生きる市民が住んでいる。ジャーナリストがいなければ、市民の怒りや悲しみを誰が伝えるのか。自分を含め、一人でも多くのジャーナリストが現地に入り、市民の声を伝えることが平和への道につながるという信念に変わりはないだろう。 シリアの外に目を向けてみる。世界や日本の状況はどうか。 2011年の「アラブの春」でムバラク政権が崩壊し、民主化が始まったエジプトでは今年7月、軍のクーデターがあった。8月になってモルシ前大統領の支持派(ムスリム同胞団)と暫定政権の軍・治安部隊が衝突し、現地からの報道によると、これまでに800人を超す死者が出ている。ジャーナリストの死亡も報告されている。日本人にとって、より身近な東アジアでは、日中、日韓の政府関係が悪化し、それが両国民の相互不信を増幅する形になっている。「いずれ戦争が起きるかもしれない」といった不安も市民の間で生れている。 ここで私はやはり、美香さんの言葉に耳を傾けたい。 「戦争は突然起きるわけではないと、私はいつも言っています。必ず小さな芽があります。その芽を摘んでしまえばいいわけです。そうすれば戦争は起こらないわけですから。その芽を摘めるかどうかがすごく重要だと思います」(『ザ・ミッション』) ジャーナリズムの最大の役割は権力の監視だといわれる。ただ、重要な言葉が抜けている。「市民のための」という言葉である。不正や腐敗の監視はもちろんだが、日本においては、権力監視とは、戦争を起こすことに二度とメディアが加担しないこと、市民を戦争に巻き込まないために政府をしっかり監視することを意味するだろう。 日本の状況はすでに「小さな芽」の段階を超えているかもしれない。それであっても決してあきらめず、一人でも多くのジャーナリストが、美香さんの言う「小さな芽」に気づき、それを摘むための情報発信に果敢に取り組んでいくことが重要になっている。