【BMWの最新クラッチレス機構「ASA」を試す!】巨艦R1300GSアドベンチャーを万能にアシストする、秀逸な自動変速を実感
ライダーの意に沿う、オートマチック変速の「D」シフトは、ワインディングでも楽しい
高速から下道に降りて、ワインディングへ。ここからはマニュアルモード変速の「M」シフトの出番だと思って進んでいくが、実はATモードの「D」シフトが実にいい仕事をしてくれるのを実感できた。Mシフトは言わば、発進・停止時もクラッチ操作が不要の、全回転域で使えるクイックシフターのようなもので、フライ・バイ・ワイヤでオペレートされるスロットルは自動制御で滑らかなシフトアップをアシストする(変速時に乗り手がスロットルをわずかに緩める操作は不要)。そして減速時のシフトダウンでは、後輪ロックをしない程度にエンジン回転を合わせてブリッピング(回転をあおる操作)を自動で行ってくれる。 そうした細かい制御の恩恵に浴しつつ、乗り手は変速操作を行えばいい。街中の低中速域で違和感のない性能を見せてくれたASAはここでも好印象で、想像どおりにフレキシブルだったが、それよりも感心したのはDシフトだった。 Dシフトは、エコ・レイン・ロード・ダイナミック・エンデューロという5つの主要なライディングモードの特性に合わせて自動変速を行う。これは他社のクラッチレス機構用ATモードも同様ながら、BMWのASAはより緻密な制御を見せる。特に感心したのはダイナミックモードでのワインディングで、加速時には、最も速度の乗る段数へときめ細かにシフトアップ。おそらく乗り手が「そんなに引っ張らなくてもいいのに……」とか「シフトアップタイミング早いなぁ」とか感じる間もなく滑らかに自動変速していく。 そしてシフトダウン時は、緩い減速ではゆったりと少ない段数が切り替わり、高速からコーナー手前でのハードブレーキングでは、短いブリッピングを挟みつつ瞬時に4→3→2と自動でシフトダウン。そしてタイトコーナーからの脱出では、ストレスもなく適切なギヤから立ち上がっていく。ATモードでのワインディングでは、乗り手の意にハマらないシフトダウンやアップがありがちだと思っていたのだが、この違和感のなさは未経験。さらに乗り込んで行けば、乗り手の意に沿わない自動変速は現れるかもしれないが、ASAは現状では特に不満を感じられない自動変速のマナーを持っているように思えた。 ASAを引っ提げ、クラッチレス機構にもしっかりと参入してきたBMW。その最初の導入モデルをGSアドベンチャーにしたのは、いいポイントを突いていると思う。長い距離を走れる一方で、疲れのたまってきた帰路にはクラッチ操作をサボって楽をしたい気分にもなるだろう。ましてや取り回しには気を遣う大きなサイズのモデルゆえ、イージライディングの恩恵は大きいはずだからだ。 そうした中で、BMWは通常のマニュアルスポーツ車に比肩して違和感のないマニュアルモードのほか、かなり万能なATモードも実現した。そうして既存のライダーにストレスのない手法として、足での操作を残した。それがBMWの考えるイージークラッチレスでの現状の最適解だと考えたからだろうが、個人的にはこれにも共感できる。既存のライダーが戸惑わない操作感と挙動マナーをしっかりキープし、なおかつ新しいことを提案する。BMWのASAは、R1300GS/同アドベンチャー自体と同様に、万能かつ秀逸にライダーを補助する機構に仕上がっていたのだ。 ■6.5インチTFTカラー液晶パネルの走行時の通常表示パターン。中央に速度、周囲にエンジン回転を表示。速度の右にクルーズコントロール表示、一番右端にAT/MTのモードとギヤ段数を表示(写真はドライブ=ATモード1段の状態)。走行モードは上端右に表示(写真はROADモード)。MTモードに切り替えた場合は(写真下)、1Mのように先に段数、後にマニュアルのMが表示される。 ■R1300GSアドベンチャーのフロントまわり。STDのGSよりサイズの大きめなウインドシールドは防風性も高く、電動で85mm高低調整が可能。X字のポジションランプが付くLEDヘッドライトは1300GSシリーズを踏襲するデザイン。ウインカーはハンドガードにビルトインされ、フォグランプは角ボックス型サイドパネルにビルトインされるタイプ。サイドパネル内部はラジエターから後方外側に排気熱を放出する通路となっている。 ■大容量30Lタンクは大ボリュームながら、ニーグリップ部は絞り込まれてホールド感は良好。タンク後端上部の黒フック部は、専用タンクバッグの取付けバー。タンク前方横のパネル表面には純正アクセサリーバッグ用フックを装備。上部は小物固定用のラックにもなる。 ■後輪まわり。ゴールドのクロススポークホイールはチューブレスタイヤに対応。試乗車にはミシュランのアナキー・アドベンチャーを標準装着。サスペンションはBMW定番の前:EVO-テレレバー、後:EVOパラレバーの組み合わせで、アルミキャストのシングルスイングアームにドライブシャフトが内蔵される。サスストロークは前210mm/後220mmを確保。 ■前後セパレートのシート。GSアドベンチャー・ツーリングの日本仕様はアダプティブ車高制御コンフォートが標準採用され、シート高は低速・停止時に30mm下がる。そのほか、前側シートはシート裏ステー位置で20mm高さ調整可能なため、シート高数値はローシート時=820~850、ハイシート時840~870mmとなる。 ■ストップ&テールランプ、ウインカーを兼用するリヤランプ。従来のテールランプ位置にセットされる後方衝突警告(RECW)の検知レーダーはファクトリーオプション扱い。アクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)、前方衝突警告(FCW)なども同様にオプション設定となる。 ■大型のエンジンプロテクションガードは、左右端にハンドルバーを持つアドベンチャー専用タイプ。この取っ手が、転倒時など引き起こし時のアシストグリップとなるほか、転倒時の傾きのストッパー役にもなるものの、横幅が広がるためすり抜け時などでは注意が必要。 ■ライディングポジション。ボリューム満点でシート高も相応に高いGSアドベンチャーだが、上体はアップライトな姿勢で、長距離走行も快適にこなせる乗車姿勢。また、アダプティブ車高制御により停止時に30mm車高が下がる恩恵で、身長173cm・体重76kgのライダーの両足接地では足裏の半分ほどが浮く程度。重量はあるが、車体を支えるには十分に力を入れられる。 <BMW R1300GSアドベンチャー ツーリングASA主要諸元> ■エンジン 空水冷4ストローク水平対向2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク106.5×73mm 総排気量1300cc 圧縮比13.3 燃料供給装置:フューエルインジェクション 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル ■性能 最高出力107kW(145ps)/7750rpm 最大トルク149Nm(15.1kgm)/6500rpm 燃費20.4km/L(WMTC値) ■変速機 6段リターン 変速比 1速2.438 2速1.714 3速1.296 4速1.059 5速0.906 6速0.794 一次減速比1.479 二次減速比2.910 ■寸法・重量 全長2280 全幅1012 全高1540 軸距1534 シート高820/840-850/870※アダプティブ車高制御comfort装備車両(各mm) キャスター26.2° トレール118.8mm タイヤF120/70R19 R170/60R17 車両重量269kg ■容量 燃料タンク30L エンジンオイル5.0L ■車体色 レーシングレッド/レーシングブルーメタリック/ブラックストームメタリック/アウレリウスグリーンメタリックマット ■価格 343万2000円~ report●モーサイ編集部・阪本一史 photo●岡 拓/BMW