100m日本記録保持者サニブラウンのプロ転向宣言。東京五輪へ向け何がどう変わるのか!?
男子100mで9秒97の日本記録を保持するサニブラウン・アブデル・ハキーム(20、フロリダ大)が11月15日、自身のSNSでプロ転向を宣言した。 「突然のお知らせになりますが、プロ選手になることを決意しました。プロの陸上選手になることは、陸上を始めてから目標の一つでした。より陸上に集中できる環境に身を置いて、高いレベルで競技に取り組み、プロという厳しい世界で結果を出していけるようにベストを尽くしたいと思っています」とツイート。 サニブラウンは陸上競技のエージェント(主に出場レースを交渉する仕事)という職業に興味を持っていることもあり、「これまで指導いただいたコーチ、支えてくれたチームメイトや家族には心から感謝しています。教えていただいたこと、陸上を通して出会った仲間を大切にしながら、競技に邁進していきます。またプロになっても学業は続けます。今後とも応援よろしくお願いします」と競技と学業を両立する意向も明かしている。 2015年の世界ユース選手権で男子100mと200mのスプリント2冠を達成。200mでウサイン・ボルト(ジャマイカ)の持つ大会記録を更新した逸材は、その後もキャリアを積み重ねてきた。2017年のロンドン世界選手権では男子200mで“ボルト超え”となる18歳5カ月で最年少ファイナリストに輝いた。同年9月には米フロリダ大に進学し、スポーツマネジメントを専攻。今年6月の全米大学選手権では男子100mで日本記録の9秒97を樹立した。しかし、9~10月に行われたドーハ世界選手権は男子100m準決勝のスタートで大きく出遅れ、日本人初のファイナリストを逃している。 現在、大学3年生のサニブラウンがプロになると何が変わるのか。米国では大学在学中にプロ転向を決める選手は珍しくない。
たとえばドーハ世界選手権の男子100mで世界歴代6位となる9秒76(+0.6)で金メダルを獲得した23歳のクリスチャン・コールマン(米国)。テネシー大に進学すると、2年時の全米選手権100mで6位に食い込み、翌2017年にプロ転向している。日本人の母親を持ち、男子400mで今季世界最高記録を持つ21歳のマイケル・ノーマン(米国)も南カリフォルニア大に進学したが、昨年からプロに転向した。 ふたりはともにナイキとスポンサー契約を結び、大会の出場料と賞金で生計を立てている。日本ではごく少数とはいえ、スポーツメーカーと金銭を含むスポンサー契約をかわしている大学生アスリートがいるが、米国にはいない。 なぜならNCAA(全米大学体育協会)には厳格なアマチュアリズム規定が存在しているからだ。「学生であるということが第一」という考えのもと、学業が優先され、一定以上の成績を残さないと試合に出場することはできない。当然、大学の試合にプライオリティが置かれている。さらに学生アスリートが競技で収入を得たり、自身の名前やイメージ、もしくは肖像などの権利で報酬を受け取ったりすることも禁じられている(※ただし、今後は選手の肖像権を使って収入を得ることが認められ、遅くても2021年1月までに規定が整備される予定)。 そのためサニブラウンはフロリダ大進学後、日本国内のレースは今年の日本選手権しか出場していない。日本代表合宿にも参加できない状況で、テレビや雑誌などのインタビューで謝礼を受け取ることも原則できなかった。 プロになればスポンサー契約を結び、大会の出場料や賞金も自由に受け取ることができる。日本陸上界では、短距離のケンブリッジ飛鳥(ナイキ)、マラソンの大迫傑(ナイキ)、川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)らがプロとして活動しているが、21歳で東京五輪を迎えるサニブラウンへの注目度は高まる一方だ。このタイミングでのプロ転向は競技面、ビジネス面の双方でメリットが大きいといえる。